愛し子、産まれる。
https://ncode.syosetu.com/n1620gc/ の過去編です。
「辛くなったらいつでも帰っておいで」
そう聞こえたかと思ったら、身体がぐるんぐるんと2、3回転する感覚があり、私は産まれました。
何言ってんのって思ったでしょ?
私の方が何言ってんのって感じですよ。
全く無だった状態から、急に意識が芽生えて、誰かの股からすっぽん。産まれたんですよ。
目が開けられないし耳もよく聞えないから周りの状況はよく分からないけど、私は産まれたての赤ちゃんだという事は理解できたので、とりあえず泣きます!
ほんぎゃあ!ほんぎゃあ!
それから私は、あれよあれよと温いお湯に付けられ、柔らかい布に包まれたり胃に甘い汁(母乳かな?)を突っ込まれたり下半身を拭かれたり抱かれたり置かれたり揺らされたりを、何日にも渡って信じられない回数繰り返されました。
もういいよ。ほっといてよ。
ここまで構われるとノイローゼ気味だよ。
いや、あんまりほっとかれたら死ぬし困るけど。
そうそう、最近やっと目を開けられるようになって自分の状況がわかってきたんだけど、どうやらここはお貴族様のお屋敷の一室みたい。乳母らしき人と、父と、侍女さんたちが偶に入って来ては甲斐甲斐しく手を焼いてくれるから、一日に一人の時間は5、6時間程度。
リッチリッチ!リッチベイビーだね!こりゃあ将来安泰だわ!
「キャッキャッキャッ」
ひとまず直近の苦労はなさそうねと安心して、この世に生を受けて初めて笑ってしまいました。
赤子の初笑いの原因が銭だなんて、なんか嫌だなぁ、なんて毒にも薬にもならないようなこと考えてると、
ガタッ!
ベビーベッドに1番近い窓が1人でに開きました。
……なにこれ?
風?いや、窓会いちゃうほど暴風って訳でも無いし…
超常現象?…怖。怖怖。
こういう時に限って部屋に誰もいないんだよな。
いかんいかん、こういうのは怖いと思うから怖いんだ。幽霊の正体見たり枯れ尾花ってな!
笑え!
こんなときこそ!
「へ……ヘヘッへっ」
ガサッ
スルスルスルスル…
ぎゃー!
なにこれ!蔦!?が部屋に入って来たよ!
「ヘッへへへへへへ!」
伸びてる伸びてる!怖!
ちょっと乳母!乳母ーーー!
「んぎーーーっんぎゃーーーー!」
慌てて泣いて乳母を呼ぶと、
「はいはいおしめで〜すか〜?」
と、間の抜けた声と共に乳母が登場した。
乳母ァ!窓みて窓っ!
乳母は私の思いが伝わったのか、ただ違和感を感じただけなのかは知らないが、ちらりと窓の方を見た。
これでなんとかなるだろう…
と、思ったら。
「…ん?まぁ!あらあらあらあら!旦那様〜!旦那様!」
蔦に気がついた乳母は、私の父を呼びながら部屋から出ていってしまった。
怖気付いたか!馬鹿乳母め!助けろよ!
赤子が!赤子がまだ怯えてる途中でしょうがーーーー!