シエル【空】
はじめての連載です…ドキドキです。
よろしくお願いいたします。
シエル【空】
どうしてこうなった……。
なぜ、なぜ、なぜ。
僕はただ…唯一の愛が欲しかった…それだけ、なのに…。
その日は建国記念日で、国の多くの重鎮が集まる中、意気揚々と公爵家の令嬢と婚約破棄をし、愛する男爵家の令嬢を思いながらワインでも飲むはずだった。
それなのに。
「シエル殿下!ここにも敵がはいりこんでおります!危険です!お逃げください!!!」
一瞬にして変わった城。白い壁は赤に変わり、静寂な空間のはずが悲鳴や怒号に変わった。
つまるところ、僕が愛した男爵令嬢は敵国の間者だったのだ。
彼女の質問には何でも答え、教えた結果がこれだ。僕のせいで人が死んでいく。
……僕が肉親を殺したのだ。
建国記念日で多くの重鎮が集まってきていた分、警護を十分にしていたが、敵国に秘密の通路を使われ、突然現れた多くの殺戮者達に対処しきれず、多くのものがその命を散らした。もし敵を退けても指導者を多く失ってしまったこの国はもう……。
僕はもう諦めていた。むしろ死にたかった。
呆然と座り込み、ただ自分の犯した罪の重さに息もできず、命を刈り取られるその瞬間を待っていた。
-----金色の髪が自分の瞳に映り込むその瞬間までは。
その護衛は敵を切り捨て、その金の髪を赤に染め、白金色の瞳を僕に向けた。
「ここで何をしておられるのです、殿下。」
はじめての非難の声と共に。
僕の護衛…エトワールは公爵家の娘にし、僕の婚約者候補筆頭だったが、その席を他のものに譲り、僕の護衛になった。
その実力は騎士団で五本の指に入るほど。
性格は冷静沈着。僕との会話も基本的に事務的なものしかせず、僕を諌めることも讃えたりもしない。彼女は決して護衛の仕事の域を出なかった。
そんな彼女を僕は苦手としていたし、全く好ましく思っていなかった。昔はよく遊んでいたけれど。
***
連れていかれた僕の部屋。彼女は僕も知らない隠し通路を知っていて、逃げるように言った。
「きっ…君はどうするんだ…?」
「私は場所を変え、奴らを迎え撃ちます。
奴らは私が殿下の護衛だと知っている。
当然、殿下が逃げられるのを手助けしていると思うはずですから。」
多くの敵と1人の騎士。どちらに軍配があがるのは明確だった。
「いや、僕は…ここにいるよ。どうせ何も無駄なのだから。」
「…生きる理由はご自身でお探し下さい。
でも私にはあなたを生かす理由しか私の中には無いのです。
ーーー結局今回も、私はあなたを幸せにすることはできませんでした。
でもその考えこそが間違えだったのです。
殿下の幸せは殿下ご自身でしか知り得ない。
ですから…今度はご自身でお探し下さい。
誰に与えられたものでもなく、あなたの全てを使って。」
そう言うとエトワールは僕にペンダントを握らせた。星の形をした宝石で、その宝石の中は夜空を詰め込まれたように、数多の星が輝いている。不思議なペンダントだった。
「使い方はペンダントが教えてくれます。
さぁ、外では父が待っています。お早く!」
そうして僕は暗闇に体が吸い込まれ、エトワールの姿は見えなくなった。
「……さようなら、幸せになってね。
私の唯一の空」