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23.王様

 勇者を回収するお仕事は深夜にまで及んだが、ウィンドウを完全に消すことは叶わなかった。

 朝起きると更に溜まっていたことでげんなりするが、今日は魔王に会い行くと言っていた日だが……その前にいろいろやっておきたいことがある。

 

 まずは……勇者を回収しに行くか。

 

――王の間。

「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない」


 スペランカー先生が復活し、俺と王様へお礼を言ってからスタスタと王の間から出て行く。

 

「王様、疲れません?」

「お主もよくもまあ一人でここまで連れてくるのお」


 顔を見合わせてお互いげんなりした顔で頷きあう。

 勇者の数はまだ増えている。しかしだな、人数の割に死亡率が高すぎるんだ。特に俺が魔王と会って以来、召喚されてきた勇者たちの。

 俺はステータスを見る魔法が使えないから、ハッキリとは分からないが……それでも新規勇者たちの中の多くは一日に何回も死ぬためだけに召喚されてきたんだろうって奴らばかりなんだ。

 きっと女神が俺への嫌がらせだけのために、ステータスをいじり、しかも冒険が大好きで死をも恐れぬ者を選別しているに違いない。

 

 だがな、女神。

 お前はやり過ぎた。

 

 見てみろ、お前の協力者たる王様のこの顔。

 もうやだあってなっているぞ。

 

「王様、一つ提案が……」

「なんじゃ?」

「王様は魔王がどのような存在か知ってますよね?」

「お主……」


 王様の顔がさああっと青ざめる。


「王様、俺はあなたにとやかく言うつもりはないんですよ。魔王討伐は成せればいいなって目標であり、少しでも早く必ず成し遂げなければならないものではない。ですよね?」

「まあ、そうじゃ……して、何が言いたい? 儂を脅そうというのか?」

「ですから、とやかく言うつもりはないと。王様、『復活』の回数が多すぎて嫌になってきません? 俺も回収がきついんですよ」

「そうじゃな……」


 王様がううむと考え込むように顎髭に指先で触れる。

 ここがチャンスだ! 

 畳みかけるように一気に行くぞ。

 

「王様、勇者の数って重要だと思いますか?」

「お主……」


 王様がハッとしたように目を見開く。

 いいぞ、予想がついたって顔だ。

 

「勇者を選別しませんか? 余った勇者たちは『労働力』として役に立ちませんか? レベルがある程度上がった勇者たちは一般の人より優れた身体能力を持ちますし」

「ふむ。臣民として迎えよと言うのだな。養おうにも金だけがかかる。働いてくれるのなら大歓迎じゃ」


 よっし、思惑通りに乗って来たぞ。

 だいたい、魔王討伐にまともに向かえるパーティなんて限られているんだよ。多くはただ死亡して転がるだけの勇者たちなんだ。

 これを良質な労働力として働かせることができれば、安定した生活を得られる勇者、多数の労働力を得られる王国。どちらにとっても悪い話ではない。


「勇者たちと話し合いをしますので、給料は弾んでくださいよ! あと、勇者たちが就職できる仕事と労働条件をまとめさせてもらえますか?」

「あい分かった。すぐにリストを作らせよう」


 王様と約束を取り付けた俺は、メガネやモニカら攻略組の座標を確かめる。

 む、どちらも冒険中みたいだなあ。

 

『まさひこが死亡しました』


 ……。

 モニカたちのところへ先に行くか。

 

「王様、すぐに戻ってきます」

「お主も頑張るのお」


 俺の顔を見て察したのか、王様は眉を潜めてドカリと椅子に座るのだった。

 

 ◆◆◆

 

 海底神殿で転がっていたから多少面倒だったが、死亡したまさひことあきれ顔のタチアナ、無表情のモニカを連れて王の間へ帰還する。


「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない」


 王様がいつものセリフを述べるが、声が枯れてきている……。そうだよな。うん。

 どれだけの勇者を俺が運んできたと思ってんだ。

 

「うおおおおお。ありがとおおおお。王様! ソウシ!」


 復活するなりガッツボーズで叫ぶまさひこは相変わらず元気過ぎる。

 その元気を少しは俺に分けて欲しいよ。

 

「いつもありがとうね。ソウシさん」


 タチアナが暴れるまさひこを押さえつけながら俺へ目を向ける。

 

「まさひこ殿。少しよろしくない事態だ」


 モニカがくんずほぐれつの二人へ顔を向けたまま、すまし顔で告げる。

 

「どうしたんだ? モニカ?」

「ソウシ殿。まさひこ殿の所持金が全て無くなったのだ」

「え? どういうことだ? 死んだら所持金が半分になるんじゃ?」


 モニカは心底驚いているようで、嘘を言っているようには見えない。

 疑いの目を王様へ向けると、彼は驚いたように目を見開きブルブルとかぶりを振る。

 

「あんのクソ女神ぃいいい!」


 勇者大増殖の嫌がらせが効果を無くしたと分かると、取っ手付けたように勇者死亡時の仕様変更を行いやがったな。


「ちょ、ちょっと、突然大声で叫ばないでよ」

「すまんすまん。つい」


 耳を塞ぐタチアナへ軽く手を挙げて謝罪すると、眉をひそめ渋い顔をしたままの王様へ向き直る。

 死亡時に所持金を全部没収は嫌らしいが、考えが無さ過ぎだ。こんものすぐに対策が打てる。


「モニカ、タチアナ、あとついでにまさひこ。後で話がある。先に少し王様と話をさせてくれ」


 モニカが頷いたことを確認し、王様の方へ体の向きを変えた。


「王様。新規勇者には冒険へ行かせず、そのまま就職説明をするようにしていただけますか?」

「うむ。儂も同じことを考えていたところじゃ。大臣へ役目を与える。仕事については今後大臣に相談するように」

「わかりました。既存勇者用の職業リストもよろしくお願いしますね」

「うむ」


 念のために再度王様へ仕事のことを伝えると、彼は即座に頷きを返してくれた。


「一体、どうなっているのだ……? ソウシ殿」

 

 モニカは大きなおっぱおをすくい上げるように腕を組み首を傾ける。

 

「座れるところでお茶でもしながら話をしよう。他の勇者達にも所持金のことは、急ぎ伝えないとな……」


 よく分かってないまさひこの首根っこをタチアナが掴んで、俺たち四人は王の間を後にする。


 ◆◆◆

 

 タチアナのオススメする喫茶店に入り、ホットケーキとコーヒーを注文するとさっそく彼女らへ状況を説明することにした。

 

「まさひこ……は、まあ注文が来るまでそこで待っていてくれ。タチアナ、モニカ、君たちは魔王についてどう思っている?」

「倒すべき存在だと女神様より聞いているが?」


 何を言っているんだという風にモニカが応じる。

 

「二人は元々、この世界にある鬼族の村……に住んでいたんだよな? その時、魔王の噂とか聞いたことあったのか?」

「いや、無い。モンスターを統べる存在だと女神様から聞いている。魔王を滅ぼせばモンスターが消えると」

「なるほど……」


 鬼の双子はモンスターが生活の邪魔になっているし、鬼族だけでなく他の種族もモンスターに悩まされている人が多かった。

 女神が勇者としての力を与えてくれるから、モンスターが出現する根源である魔王を倒すことになったんだそうだ。

 自分や家族のためでなく、人全ての幸福のために彼女らは立ち上がったのだった。

 なんという、ええ子たちや。俺なら、絶対に断る。他の人がやってくれるのを待つよ。自分がやるぜってならないさ。ははは。

 

 どこまで真実を説明するか迷うところだな。

 

「モニカ、タチアナ。結論から言うと、魔王とモンスターは全く関係ない。だから、魔王を倒しても何も変わらない」


 思案した結果、全部ぶっちゃけることにした。

 驚く二人の顔をよそに、俺は淡々と説明を続ける。


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