93、川口レイ太探検隊
93、川口レイ太探検隊
鉄塔に続く細い山道の奥から砂煙が迫ってくる。
「キャンキャン! ベフベフベフベフベフッ」
砂煙の先端からベフが現れ、ぴょんぴょん跳ねながら何かを知らせるように激しく吠えた。
まもなくして砂煙が止むと、引きずられてボロボロになったジャブ君がベフちゃんのシッポコードを握りしめたまま地面に倒れていた。リーちゃんが駆け寄り、心配そうに声をかけた。
「ジャブ君、大丈夫?」
ジャブはヨロヨロと立ち上がり、ほこりを払いながら言った。
「いててて……ベフと一緒に山道の方を歩いてたら、アレを見て急に……」
「ベフちゃんどうしたの? 何があったの?」
「ガウガウッ、ウゥーベフッ」
ベフは山道の方を向いて、足をグッと踏ん張り唸った。
「えっ何やて? 魔神オカマが向こうにおるって?」
ベフ語バイリンガルのジャブの叫ぶような大声を聞き、上にいた男子達もみんなジャブのところへ集まった。
「嘘やろ、アイツは今エジプト辺りにおるはずやで」
「そうだぜ、一万キロもあるのにそんなに早く帰ってこれる訳ないじゃん」
そう、魔神オカマはすずちゃんとダイさんの大技コンボ「サイクロンブーストワームホール」で時空を超え、エジプトまで吹っ飛ばされてしまっている。
時速100キロで休みなく飛び続けても4~5日はかかるだろう、というのがヒエール様の試算だ。
「でも万が一ってこともあるし、一応ボクが確かめてくるわ。ベフちゃん案内して」
「ベフが行くんやったらオレも行くで。五重丸リモコン貸せや、実況生中継してやるから」
そう言ってジャブ君は五重丸からリモコンを受け取り、ハンディカメラのように構えた。
と言う事でレイちゃんと案内役のベフちゃん、通訳とカメラ担当のジャブ君、二人と一匹の選抜探検隊は山道へ入っていった。
「それでは私達川口レイ太探検隊は、魔神オカマが現れたという現場を確かめるため、今っ! ジャングルへと続く道なき道に足を踏み入れました」
「いよいよですね、川口レイ太隊長」
「そうですね、えー今日は猛犬ベフに山道で引きずられ、エライ目にあったジャブ氏も同行してもらっています。ジャブさん、一言どうぞ」
「え? あぁ、オラよお、なげぇことここで羊飼いやってるがよぉ? こんな事ぁ生まれて初めてだぁな……なあ、ヨーゼフ」
「べ? ベフベフ(誰がヨーゼフだよ)フンッ」
ニュース映像で見た通り、魔神オカマはエジプト付近にいるのは間違いない、ベフちゃんの見間違いだと決め込んでいる関西系二人は、川口○探検隊風のコントをし始めた。
「くだらない小芝居ね」
「そお? お姉ちゃん、あたしはドキドキするけど」
「いい、探検隊になぜか羊飼いが同行しているっていうボケがいいね」
「変なトコ褒めるなぁ、五重丸は」
リーちゃん達とトコちゃんは五重丸の前に座り、その様子を見守った。
「レイ太隊長、毒ヘビに気を付けてください。噛まれたら一巻の終わりですよ」
「了解です。ベフ、現場はまだですか?」
「フガフガフガ……(次のカーブを曲がったところだよ、気をつけて)ベフ」
鉄塔がある空き地から山道を50メートルほど下り、道が左に曲がった所。
そこに魔神オカマが潜んでいる、と言うことらしい。レイちゃんは忍び歩きで曲がり角に近づき、そっと覗いて見た。
曲がり角の先を確認したレイちゃんは、半笑いの顔で振り向き、ジャブに手招きをした。
「フフッ、ジャブ君、カメラカメラ。魔神オカマが寝そべっていますよ」
「ええっ! ホンマ……いや、本当ですか? 川口隊長」
レイちゃんの言葉にちょっとビビったが、コントを続けるジャブがレイちゃんと同じように曲がり角の先を覗いて見た。
「ベフベフッ(3人でバビエオして戦おう)キャイン」
「ウプッ、おいおい、アレと戦うの?」
リーちゃん達も五重丸の画面を前のめりで見ていたが、ジャブ君がリモコンカメラで映し出した映像を見て、ホッとした顔で座り直した。
「何だこりゃ、ただのガラクタじゃん」
「何でこれが魔神オカマなんだろね」
山道を曲がった所にいた、いや、あったのは不法投棄の家電などでできた小さなゴミの山だった。生い茂った雑草の陰に隠すように捨てられているそれを見て、ベフは魔神オカマと勘違いしたのか。
五重丸は送られてきた映像を分析し、目の前の5人の視聴者に解説を始めた。
「ほら、炊飯器とかラジカセとか小型家電も混じってるだろ、画面じゃ判らないけど、野ざらしにされてた家電のサビやホコリの臭いがオカマの臭いに似てたんじゃないかな。ベフちゃんは犬だから臭いに敏感なんだよ」
「ダメね、こんなところに捨てちゃ。ヤスイ電機に持って帰ってもらえばいいのにね」
「こっそり捨てるなんてサイテーだな」
「ベ? ベフベフ(あれ? おかしいな、さっきは確かに気配が)……」
リーちゃん達も現場のレイちゃん探検隊も「真相はジャブ君の勘違いでした」で幕引きをしようとしている。
画面にはベフだけが納得しない様子で、不法投棄の山を嗅ぎまわり、オシッコをかけている画像が映し出された。
「オシッコをかけても何の反応もない、これは魔神オカマではない、こう判断してよろしいでしょうか? 川口レイ太隊長」
「そうですね、ヤツもキッチン家電の端くれ、犬に放尿などされれば騒ぎだすはずですから」
「えー今回は残念いや、幸いデマであったと言う事で引き上げたいと思います。隊長、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした。次回は『アマゾン最後の秘境に潜む巨大ワニ、ゴルゴンゾーラを追え!』です、お楽しみに」
水曜スペシャル川口レイ太探検隊の生中継も無事終了し、探検隊も山道から戻ってきた。リーちゃん達5人は練習を再開し、そこそこ自由に飛べるようになったので、雪ウサギでよく冷えたお茶をの飲んで休憩をし、明日の約束をして今日は帰ることにした。
その頃、エジプトにワープされた魔神オカマは、レーダーに探知されないよう雀ほどの大きさになり、日本を目指し灼熱の空を飛行していた。
「あのクソ犬め、なかなか鼻が利くギャ、危ない危ない」




