92、山奥で特訓
92、山奥で特訓
「へぇー、いいんじゃない? ここなら人も来なさそうだし」
翌朝、バタンキューから回復したすずちゃんがジャブそしてベフと一緒に探してきたこの場所は、リーちゃんの家から十数キロ離れた所にある山の山頂付近。
木々が生い茂る山の一部が切り開かれ、グレーの金網で囲まれた送電線の鉄塔がそびえたっている。
麓からここへ来るには、車がやっとこさ一台通れるくらいの未舗装道路を通らなくてはならず、普段はほとんど人が来ない場所だ。
「じゃあ、早速始めましょっ。ってか、あんた何で虫かご持ってんのよ」
「山の方に行くって言うから持ってきたんだよ。クワガタとかいるかも知れねーじゃん」
「もぅ、遊びに来たんじゃないんだからね、余計なもの持ってこないの!」
「リーだってカバン持ってるじゃん。何入ってるんだよ」
「やだ、やめてよエッチ」
今日はマーキングベフで移動してきたのでよく見てなかったが、みんな何かしら持ってきている。水筒は全員、熱中症対策にお母さんに持たされたもの。「持ってけ」と言われたので持ってきた。
それに加えサンヨーと東芝は虫かご、ソニーはボールを持ってきた。リーちゃん姉妹はショルダーバッグ。中身は内緒。
「ハイハイ、夫婦喧嘩はやめて」
「もーぅ、お姉ちゃん! そんなんじゃないよ!」
「おいソニー、なんでドッジボールなんだよ、遊びに来たのか?」
「空中でボールを投げ合うんだよ。トレーニングだよトレーニング、お前らとは違うよ」
「お、オレ達だって空中でセミ追っかけてよ、なあ東芝」
「でも、さっきクワガタって……」
「みんな、話はその辺にしておいて練習を始めよう。とりあえず荷物はここに置いて」
なんとなく遠足気分の子供たちを、バビエオを解いた五重丸が引き締めた。他の家電達もそれぞれの位置についた。
レイちゃんは荷物番とパーシャル、ベフは、道路から誰かやって来ないか監視する番犬、上空は飛行能力のあるすずちゃんとダイさんが目を光らす。「侵入者」を発見したら報告し、バビエオで融合合体し、マーキングベフで即撤収だ。
「水筒はわたしが冷やしておくね」
トコちゃんはそう言ってちょっと大きめの雪ウサギを作り、みんなの水筒をサクサクッと挿した。
「ありがとう、トコちゃん。じゃ、あたし達も用意しましょ」
「おい分かってるよな、赤はオレ、ソニーが黒で東芝が金だぞ」
「分かってるって」
「じゃ、いくわよーヒエヒエチェーンジ!」
リーちゃんが華麗なポーズを決め変身を始めると、男子3人もそれに続き思い思いのポーズで変身をし始めた。ミーちゃんだけは変身ポーズなんてこっ恥ずかしいので、人差し指をバッジにそっと当て祈った。
みんなの体は白い光に包まれ、5人の戦士が現れた。
変身前に確認した通り、ソニーは全身真っ黒だ。ゴーグルも吊り目気味で、一見すると魔神オカマ側の悪者かと思うほどだ。
東芝はラメが入った全身ゴールドのスーツで、マントにはヒエールバッジと同じデザインのヒエール様がピースをしているイラストがでかでかと描かれている。
「東芝……次からはそのイラスト無しな」
「えっなんで? かっこいいのに」
東芝は振り返りながら自分のマントを見て、首を傾げた。戦闘スーツの色やデザインは自由に変えることが出来る。まだまだ細かい修正が必要なようだ。
「じゃ、練習を始めましょ。頭の中で天に舞い上がるイメージを描きながら両足で地面を軽く蹴るのよ、せーのっ」
リーちゃんの掛け声に合わせみんなは地面を軽く蹴った。マントがフワッと風になびくように持ち上がり、体が30センチほど宙に浮いた。あとは自転車と同じで練習あるのみ、みんなは、ゆっくりと高度を上げて行った。
十数メートル上昇し木の先端が目線に来た頃、ソニーがサンヨーに声をかけた。
「なあサンヨー、お前のその刀よく切れるよな」
「うん、これおもちゃの刀みたいに軽いのにスゲー切れるんだ。ソニーのは? その腰についてる丸っこいヤツはどうやって使うんだ?」
サンヨーはソニーのベルトの両脇についている円盤を指さして言った。ソニーは円盤の一つを手に取り、サンヨーに見せた。CDのように虹色に輝き、周囲に文字のような記号がぐるっと刻まれている。
「どうしたの? 二人で何話してるの」
離れた所にいた東芝もサンヨーとソニーのところへやって来た。東芝のベルトには銀色の棒のようなものが付いている。東芝もそれを手に取り二人に見せた。
「ぼくのはこんなの。ぼくも使い方が分からないんだ」
「サンヨーのは刀だし分かりやすいけど、おれたちのは武器なのか何なのか分からないもんな。ヒエール様に聞いてみようか」
ソニーは、ヘルメットの外に移動した帽子のワッペンを手に取り、ヒエール様を呼び出した。
「おお、ソニー君か。どうじゃ、練習はうまくいっておるかヴェ?」
「うん、今も空中に浮かんでるけど、もうちょっと練習したら自由に飛べれそうだよ。それでさ、おれのベルトについている丸いヤツ、これどうやって使うの? 東芝のも分からないんだけど」
「それらは我ら神の力を宿した神具じゃヴェ。武器ではあるが、あくまでも自分達の身を守るためじゃヴェ、面白半分に使っちゃダメじゃヴェ」
「うん、分かった」
サンヨーが魔神オカマの腕を一刀両断したことでも分かるよう、男子3人に与えられたアイテムはヒエール様、ブラウン様、ペタンコ様が創り出した神具だ。
そんなの子供に持たせていいの?
疑問点はいっぱいあるが神様達の説明は続く。
「サンヨー君に与えたのは我ヒエール作の魔剣『アイスブレード』じゃヴェ。抜けば玉散る氷の刃、切れ味抜群、念を込めれば冷気を飛ばすことも出来るヴェ」
「そしてソニー君のは我の自信作『ディスクシールド』ダォ。ベルトから外せば盾として使えるォ、え? 小っちゃすぎるとな? フェフェッ安心せい。念ずれば大きさは自由に変えられるし、投げればフリスビーのように飛んで、武器としても使えるォ」
「最後に東芝君の棒のような筒のような物は『ランドリースピア』だボー。筒の中からやりが飛びだし、長さも自由に変えられるボ。さらに……」
男子3人が自分らの武器を見せ合っているのを雪ウサギの横で見ていたリーちゃんは、パチンコを手に取りつまらなそうにパチンと弾いた。
「いいなぁサンヨー達、武器もらって。あたし達は何もないのかしら」
「元々リーちゃん達を守って戦うのは、ぼくらの役割だからね。武器は必要ない、というのがヒエール様の考えなんだろう。でもちょっとかわいそうだからこれを渡しておこう。神様にはナイショだよ」
そう言って五重丸は、リーちゃんに赤いカードをそっと渡した。
「五重丸、何これ」
「B-CASカードだよ。困った時このカードを出せば、一回だけぼくらの魔法を使うことが出来るんだ」
「え、すごーい。誰の魔法でもいいの?」
「うん、ただし一回だけだからね。使うとカードは消えてしまうから本当に困った時に使ってね」
リーちゃんはニコッと笑ってうなずき、カードをベルトのケースにしまった。
そして、高い木の上から手招きしているミーちゃんの所へ行こうとしたその時。
「ガウガウッ、ベフベフベフベフ!」
道を見張っていたベフちゃんが勢いよく戻ってきた。




