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リーちゃんと家電たちの夏  作者: 大門しし丸
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91、オカマ、エジプトに現る

91、オカマ、エジプトに現る

 五重丸の50インチ大画面に映し出された衝撃映像。

 観光客が偶然撮影したその動画は雄大にそびえたつピラミッド群が映し出され、何語か分からないが、おばちゃん数人の感激する声をBGMに広角域からピラミッドの頂上に向け、若干手振れをしながらズームアップされてゆく。


 次の瞬間。


 画面の奥左上ぎりぎりに突如黒い物体が出現、それは猛スピードでピラミッドに激突し頂上付近を破壊した。その後フレームいっぱいの位置でつまずいてバランスを崩したような体勢で急停止。

 その黒い物体がヒト型であることがここで初めて確認され、物体はそのまま上空へと消えて行った。


 「エジプト政府はテロの可能性も含め調査しています。続きまして……」


 何も知らない人が見ても、結構な衝撃映像であるが、その黒い物体に心当たりがあるリーちゃんは、食べていたスイカを吹き出し、固まった。


 「もー! 何してんのあんた達、汚いわねえ」


 お母さんが、眉間にしわを寄せテーブルを拭きながら文句を言った。

 目を見開いて固まっていたリーちゃんは、我に返りミーちゃんの方に視線だけを向けた。ミーちゃんも口をポカンと開け、画面を見つめたまま固まっている。


 「見た? お姉ちゃん。今のあれ……」

 「あ、アイツに似てた、ってかアイツじゃん。なんでエジプトに?」

 「大変! ヒエール様に知らせなくちゃ」

 「どうしたのよ、あんた達。さっきからすずちゃんがどーしたとか、ヒエール様がどーしたとか。誰よそれ、新しい友達? あっちょっと、どこ行くの、スイカはどうすんのよ」


 リーちゃんは跳ねるようにイスから立ち上がり、スイカを食べ残したまま、大慌てで子供部屋に消えて行った。


 「もしもーし、ヒエール様、大変大変!」

 「おお、リーちゃんよ心配しておったヴェ。なんじゃ魔神オカマをやっつけたとか聞いたが、本当かヴェ? 神の御霊は回収できたのかヴェ?」

 「あれ? ヒエール様よく知ってるね。誰に聞いたの?」

 「ついさっき、サンヨー君から連絡があったヴェ、やっつけたから明日DSをくれ、と」


 (あのバカ……)


 「で、他の二人にも褒美の話をしたらしくて、何かもらえると思ってすごく喜んでるそうじゃヴェ。ソニーはプレステが欲しいとか何とか……」

 「あのね、違うのよ。あのあと空を飛ぶ練習をしようって事になって、みんなで学校の屋上に行ってさあ……」


 リーちゃんは、屋上であった出来事、神の御霊を回収していない事、消えたオカマがエジプトに現れたこと等、いつものようにとても分かりにくく説明した。

 ヒエール様も、もう慣れたもので、リーちゃんの口から出た名詞を頭の中で並び替え、意味がある文章にしながら話を聞いている。


 「フムフム、なるほどのう。空を飛ぶ練習をしていたら突然ヤツが現れおって、やり合ってるうちにエジプトまでヤツを吹っ飛ばしてしまったか。ダイさん、なかなかやりおるのう。フォフォッ」

 「そうなのよ、でさぁ、すずちゃんとダイさんはバタンキューになっちゃうし、先生まで屋上に来ちゃうし大変だったんだから」

 「しかしこれでは、やっつけたことにはならないダォ」

 「そうじゃのう、いくら遠くに吹っ飛ばしてもヤツは空を飛べるヴェ。しばらくすればこの町に戻って来るヴェ」

 「きっとすごく怒ってるボー、帰ってきたらタダじゃすまないボー」


 カミテレコンの向こうで、三人の神様が不安そうに話しをしているのを聞いて、リーちゃんはニコッと笑って話しかけた。


 「アハッそれならここに帰ってくる前に、みんなで一緒にエジプトまで行って捕まえちゃえばいいんじゃない?」

 「おいおいリーちゃんよ、簡単そうに言うがエジプトがどこにあるか知っておるのかヴェ?」

 「え? よく知らないけど外国でしょ? アメリカみたいな」

 「バッカねえあんた、何言ってるのよ。ちょっとこっち来て」


 横で話を聞いていたミーちゃんは、リーちゃんの手を引っ張って自分の机の所に連れて行って、デスクマットの世界地図を見せた。


 「ほら、ここが日本でしょ? それでエジプトはここ。こんな遠いところまで子供だけで行けるわけないでしょ」

 「遠いって、どれくらい遠いの?」

 「えーっとね、ヒエール様どれくらい遠いの?」

 「大体1万キロくらいかの。遠いのもあるが、人間界には勝手に他の国に入ってはいけないという掟があるヴェ?」


 掟じゃなくって法律なんですけど。

 どっちにせよパスポートもなしに入国した上、現地でハデに戦うなんてのは絶対良くない。


 「とにかく、遠いから時間はかかるじゃろうが、ヤツは必ずここに帰ってくるヴェ」

 「エジプトが気に入って、向こうで幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。ってことはないかしら」

 「ないない、それは絶対ないヴェ。負けず嫌いのヤツのことじゃ、絶対帰ってくるヴェ」

「ヤツが帰ってくる前にリーちゃん達は練習してちゃんと飛べるよう、家電達は作戦を立て準備をするダォ」


 リーちゃんの「ハッピーエンド予想」は、ばっさり否定された。魔神オカマは一週間足らずで日本に到着するらしい、というのがヒエール様の試算だ。

 その隙に空を飛ぶ練習をし、万全の態勢で魔神オカマを迎え撃たなければならない。


 「でも、もう屋上も使えなくなったし、どこで練習しようかな」

 「すずが回復したらジャブとベフを連れて、適当な場所を探してもらうヴェ。人が来そうもない山奥のようなところがよかろうヴェ。ベフにマーキングしてきてもらえば、次に行く時はマーキングベフで行けるヴェ」

 「分かった、あっサンヨーの家からヨドバシ先生の声がしたよ。うまくゴマかせたのかな?」


 リーちゃんは網戸を開け、ベランダに出た。見下ろすとヨドバシ先生が玄関前でサンヨーのお母さんと何やら話をしている。

 地デジカに汚い屋上で投げ飛ばされたので、先生の背中はドロドロだ。腰のあたりをさすりながら、お母さんに通信簿やプリントを手渡している。ちょっと気の毒だ。

 お母さんの後ろからサンヨーがひょこっと顔を出し、向かいのベランダにいるリーちゃんと目が合った。

 リーちゃんはニコッと笑いながら手を振った。

 それを見たサンヨーは、一瞬アカンベェをしてお母さんの後ろにシュッと隠れた。


 「バッカ……」


 リーちゃんもお返しに、両手でほっぺたをつまみ変顔をして、網戸をピシャッと閉めた。


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