89、地デジカ星人
89、地デジカ星人
「なにがデジデジだ、この野郎! さっさと出てこいってんだよっ」
ヨドバシ先生は、ヘッドロックをかけながら地デジカの背中をまさぐってチャックを探してみたが、それらしいものが見つからない。それに表皮も作り物っぽくないし、犬のような動物の感触が伝わってくる。
「こ、これひょっとして本物……の生き物?」
取っ組み合いをしている相手が得体のしれぬ生命体で、少し離れた所にUFOのようなもの。柔道3段、腕には自信のあるヨドバシ先生も流石にビビって、地デジカを掴んでいた手を少し緩めた。
かたや地デジカはADレイちゃんのカンペを見た瞬間、人が、いやシカが変わったかのように反撃に出た。
顔はまるで肉食獣のような形相になり、筋肉もパンプアップ。地デジカは、ヨドバシ先生を投げ飛ばした。
そして3匹そろって雄叫びを上げ、先生たちを威嚇した。
「キョェェーン! デジデジッ」
「いててっ、急に狂暴化しやがって、それにあの顔どう見ても着ぐるみじゃないぞ。本物のシカじゃないのか」
「大丈夫ですかヨドバシ先生、落ち着いて、本物のシカは喋りませんよ」
「あらら、先生投げられちゃったよ、地デジカどうして急に強くなったの?」
「カンペで指示を出したんだ」
「ふーん、何て書いてあるのかな」
五重丸にそう言われたリーちゃんは、整列している地デジカの後ろに隠れながら、レイちゃんのカンペを見に行った。
リーちゃんは、カンペをのぞき込み首を傾げた。そしてミーちゃんの方を見て手招きをした。
「何よ、もう」
呼ばれたミーちゃんも臨場感の外に出て、コソコソと隠れながらリーちゃんの所へ行った。気になった男子3人もその後に続く。
「これなんて書いてあるの? 読めないんだけど」
「どれどれ、ん? 『発情期のオスで』って……ヤダ」
「ねえ、はつじょうきって何?」
「さ、さあ?」
ミーちゃんは、発情期の意味を何となく知っていたが、ちょっと説明しにくいので知らないふりをした。
「なんだよはつじょうきって。パワーアップする事か?」
「水蒸気の仲間かしら」
「水蒸気ってお湯が沸くと出るんだよね」
「そうか! はつじょうきは沸くと力が出るんだ」
「じゃ、オレもはつじょうきしたい! で、何を沸かしたら出るんだ?」
「デジッ、それは大人になったら色々……」
「あー、もう地デジカは余計なこと言わないっ、あんたらも、その話はもういいから」
そもそも五重丸がカンペに変なこと書くから脱線するのだが、五重丸は全然気にしていないようだ。生放送にはアクシデントは付き物、とでも思っているのだろう。
ミーちゃんが1年生たちの討論を強制終了させたのを見計らって、五重丸は子供たちに声をかけた。
「みんな、そろそろ地デジカ星人が動くから、臨場感のなかにもどって。先生に見つかっちゃうよ」
「やべっ、みんな戻るぞ」
逃げ足の速いソニーを先頭に、戦士たちはあたふたと臨場感の中に戻った。全員が戻ったのを確認した五重丸は、カチンコを取り出し「本番スタートッ」カチンコの乾いた音が屋上に響き渡る。
それを合図にUFO前に整列していた10数匹の地デジカ星人は、次々と屋上のフェンスを勢いよく飛び越え、校庭へ降りていった。
シタッ! シタタタタッ!
屋上から飛び降りた地デジカ星人は見事に着地し、それを見た野次馬から歓声が上がった。
「凄い身体能力だな、パルクールとか言うやつの達人かな」
「じゃ、さっきまで空に浮かんでた黒いのは、この宣伝のアドバルーン的なものだったのか?」
野次馬がざわつく中、地デジカ星人は校舎前に整列し、フェラーリの跳ね馬のようなポーズからの超ロングスキップで、野次馬のいる校門前にやって来た。その跳躍力に驚き、逃げようとしたが、よく見ると地デジカなので再び校門の前に戻ってきた。その前で地デジカは宇宙人っぽく話し始めた。
「チキュウジンヨ、キケンナモノハ、ワレワレガ、ハイジョシタ、アンシンシロ」
「あ、あんたらは一体……」
「ワレワレハ、ギンガケイ、ボウエイタイ、ウチュウノ、センシ」
「えっ? 地デジカって宇宙じ……」
「地デジ化キャンペーンのゆるキャラじゃ……」
たたみかけるような野次馬の質問の嵐を無視し、地デジカ星人は食い気味にドスの効いた低い声で話した。
「今見たことは決して口外しないよう、万が一我らの存在が警察や軍隊、国家権力の耳に入り、我々に接触しようとするならば、我々も断固たる処置をとらねばならない。地球をカチ割る事くらい我々には容易い事だ。デジデジ」
突然現れた謎の物体を、これまた謎の宇宙の戦士が現れ一瞬にして退治した。
その宇宙の戦士の口から飛び出した「地球カチ割りなんて簡単だもんね」発言……
野次馬たちは凍り付いた。
屋上で先生たちを足止めしていた地デジカ星人も、同じような内容を先生たちに伝えた。
2人とも魂が抜かれたような顔をしてその場にへたり込んだ。
その様子を見て五重丸は再びカチンコを振り上げ叫んだ。
「はーい、次のシーン、『UFOの帰還』スタートッ、トコちゃんよろしくっ」
カチンコの音を聞き、トコちゃんは頷き、両手を氷のUFOに向けた。するとUFOはゆっくりと浮上し始めた。
「ああっUFOだ! UFOが浮かんできたぞ!」
「本当だ……地デジカは宇宙人、だったのか?」
「ワレワレハ、キケンナモノヲ、タオスタメ、チデジカニ、ナリスマシ、シャカイニ、トケコンデイタノダ、ワレワレハ、チデジカデハ、ナイ」
溶け込めてない、むしろ目立ってますけど。と、ほぼ全員が思った。
「チキュウジンヨ、ソロソロ、オワカレダ、ウチュウノヘイワヲ、ワレラト、トモニ」
地デジカ星人は再び超ロングスキップで校舎の前に戻り、なんとワンジャンプで屋上まで飛び上がり、浮遊しているUFOに次々と乗り込んでいった。
「さあ、いよいよクライマックスだ。トコちゃん、地デジカ諸君、ぶっつけ本番一発オッケーお願いしますよ」
五重丸はUFO飛行の効果音を流し、それに合わせてトコちゃんの操るUFOは一気に上昇。地デジカはUFO内でゲートを開き、自分たちの世界へと帰っていった。
「ふぅ、そろそろよさそうね」
トコちゃんは小さくなったUFOを見上げ、指をパチンと鳴らした。UFOは上空で昇華し、小さな雲のようになり消えていった。
「あっ、消えたぞ? 今の今まで見えてたのに」
「ワープだ、ワープしたんだよ! 警察だ、警察に電話しなきゃ」
「だめだ、通報したら地球をカチ割られるぞ」
ひとまずこれで付近の目撃者の口止めは出来た。リーちゃん達はバタンキューになったすずちゃんとダイさんを本体に戻すため今日の所は帰ることにした。




