87、ダイさん発進
87、ダイさん発進
呪文を唱えたダイさんは、砂埃を舞い上げロケットのように飛びだして行った。
サイクロン掃除機のダイさんは、ノズルからゴミと一緒に吸い込んだ空気を推進力にし、飛ぶことが出来る。言うなれば電動式魔法の箒と言ったところか。
「わぁ! 扇風機じゃなくても飛べるのね」
「感心してる時じゃないよ、ヨドバシらが戻ってくる前に何とかしなきゃ」
「そっか、どうしよう」
うっかり者のヤマダ先生が、カギを取りに戻ったおかげで少しは時間が稼げたが、戻って来るのにそう時間はかからないだろう。
ヨドバシ先生は相変わらず、ドアをドンドン叩いてわめいている。
五重丸は臨場感の範囲を狭め、リーちゃん達を囲いながら屋上の端っこに避難した。
「この辺で静かにしていればしばらくは見つからないだろう。今、シナリオを作っているからちょっと待ってね」
「五重丸、シナリオって何の?」
「ガセネタだよ」
「ガセネタ?」
五重丸は腕組みをし、目を閉じて何かを考えなが辺りをうろうろし始めた。
それを見てトコちゃんも立ち上がり、出入口のドアに近づき両手を前にかまえた。
「みんな頑張ってるし、私も何かしなきゃね」
トコちゃんはそう言って屋上の出入り口に近づき呪文を唱えた。
「急速冷凍フリーズ!」
トコちゃんの魔法で出入口のドアは一瞬にして分厚い氷に覆われた。夏の炎天下ではあるが、しばらく開閉不能にするには十分だ。
そして、内側でドアを叩いていたヨドバシ先生は、急に霜で覆われたドアにびっくりして飛び退き、ちょうど鍵を持って上がってきたヤマダ先生とぶつかってしまった。
「イテッ、どうしたんですかヨドバシ先生」
「うっ! ああヤマダ先生、見てみろよ! ドアが急に凍り付いて……なんでなんだ、この暑い日に……とにかく鍵だ鍵、屋上で何が起こってるんだ」
ヨドバシ先生はヤマダ先生の手から鍵をふんだくり、鍵穴に差し込みまわそうとした、が、凍り付いて全然回らない。
「クソッ」
と無理やり回そうとしたら、
ボキ
「あ、折れた」
そのころ上空では魔神オカマとレジャズ、そしてダイさんのにらみ合いが続いている。
「おやおや、今度は掃除機のお出ましかギャ、それにあの冷蔵庫、この前みたいな作り物ではなさそうだギャ」
「てやんでぇ、このダイ様にかかりゃぁてめえなんぞイチコロでぃ! 降参するなら今のうちだぜ」
「ダイさん! コイツは心の中が読めるんや、あまり余計なことを……あかん、思ったことがそのまま口に出るタイプやなダイさんは……やーぁおしゃべりな男きらーい」
「お? 誰がおしゃべりでぃ」
校門辺りの野次馬も増えてきたし、とにかく早く何とかしないと。トコちゃんは上から見えないよう臨場感の中に避難し、ひとかたまりになったみんなは少し場所を移動した。
「どうすんだよ五重丸、屋上でちょこちょこ逃げ回っててもいつか見つかるぜ」
「とにかく今はレジャズちゃん達が魔神オカマを何とかしてくれるのを待とう。タイミングを見計らってクランク・インするからね。今回はあぶないからリーちゃん達の出番はなし。はい、トコちゃんこれ、初めてで難しいと思うけど頑張ってね」
五重丸はトコちゃんにシナリオを渡した。トコちゃんは、突然の御指名に戸惑いながらシナリオを受け取り、ペラペラと読み始めた。出番がないリーちゃん達もそれをのぞき込んで見た。
「……か……か?……の……UFO……る?難しい漢字ばっかりで読めないや」
「私の役は……大道具?」
「うん、その絵コンテみたいなイメージでお願いするよ。演者にはメールで送っているから」
「ねぇ、えんじゃって何?」
五重丸はそう言って上空のレジャズちゃん達の様子を見守った。
「おうおう! そろそろオレも混ぜてくれや」
ダイさんはレジャズの横に止まり、取り出したトリセツをパタパタ振った・
「分かった、一台増えればそれだけパワーアップするからな……ホンマこいつ大丈夫か?……やる気だけは満々だからー、大丈夫じゃないー?」
「んなら行くぜぇー、バビエオッ」
ダイさんは、レジャズが差し出したトリセツに自分のトリセツを重ねた。するとダイさんの体は光に包まれ、レジャズの体に溶けるように吸い込まれ、レジャズの頭に掃除機の吸い込み口がカブトムシの角のように生えた。
「新製品、レジャダイズ様見参! いきなりフルパワーでいくぜぇ!……っておいおい、何する気やねん……また名前長くなったねー、覚えられなーい」
レジャダイズは、吸込み口を魔神オカマの方に向け、ブラシを回転させ始めた。それを見て魔神オカマはニヤッと笑い、熱々水蒸気を一発撃ち放った。
ドーーン!
シュイーーーン
レジャダイズちゃんは吸い込み口を上手くコントロールし、向かってくる水蒸気弾をきれいに吸い込み、お尻の排気口から排出した。
「熱っ! 何すんねん……吸い込むより避けてえやオレ猫舌やのに……お?……変なのー洗濯機なのに猫舌ー?」
「ケッ吸い込みやがったギャ、相変わらずややこしいヤツだギャ、一人でもめおって」
「お、おい!また何か爆発したぞ? 鍵は折れるしどうしたら……そうだ、非常階段だ! 3階の非常階段から屋上に上がれる梯子があったはずだ。ヤマダ先生、行くぞ!」
「は、はい!」
ヨドバシ先生は非常口のことを思い出し、バタバタと階段を駆け下りていった。ヤマダ先生もその後に続く。
先生達がいた屋上の出入り口から階段を下りて、廊下を突き当りまで行くと非常口があり、そこから校舎の外壁に設置された非常階段へ出られる。ドアノブはプラスチック製のカバーで覆われているが、非常時には壊せば外に避難出来る。その3階の踊り場には屋上に登れる梯子が設置されているのだ。
「ゲッ、ヨドバシのやつ、あっちの梯子から登ってくるみたいだぜ」
「そうか、上はまだ決着がついてないようだけど仕方ないね。じゃ『緊急速報! 現実か幻か? 謎の円盤UFO現る』スタート! トコちゃん頼むよ」
「あ、はい」
条件はまだ整っていないが、五重丸はぶっつけ本番を決断した。それを聞いて大道具のトコちゃんは、腰に手を当て偉そうな顔で呪文を唱えた。
「勝手に氷のUFO―ッ」
トコちゃんの魔法で突如、屋上のど真ん中に白い雲の塊が発生し、その中から氷でできたアダムスキー型の大きなUFOが現れた。五重丸はそれを見て満足そうに頷いた。
「よくやった、トコちゃん。じゃ、こっちも演者を呼び出そう」
そう言って五重丸は両手の人差し指と親指をL型に立て呪文を唱えた。
「いでよ、地デジカ!」




