80、ハイパー……
80、ハイパー……
リーちゃんは汗で湿った2つの帽子を指でつまみ五重丸に手渡した。
受け取った五重丸はキッチン家電ほど潔癖症ではないが、少し迷惑そうに帽子を受け取り、帽子は五重丸の臨場感エリアにスッと消えていった。
「ジャブ君、あとでいいからこの帽子洗ってくれないかな」
「ええで、家に帰ってからサンヨーのやつと一緒にまとめて洗ったるわ」
「じゃ、お願いするよ。あ、そうだ。ヒエール様、SR-18を持ってきました。これです」
五重丸は神社で回収したSR-18のことを思い出し、持っていた袋をヒエール様達だけに見えるように差し出した。
「おぉ、懐かしいのう、やっと我らの元へ戻ってきたヴェ。皆の者よくやってくれた、感謝するヴェ。どれ……」
ヒエール様は嬉しそうな顔で袋に入ったSR-18にそっと触れた。その中には魂は入っていないが電気釜としてのキヲクは残っている。ヒエール様は目を閉じてそのキヲクに触れ、しばらくしてコクリと頷いた。
「今、SR-18のキヲクを覗いてみたが、やはりSR-18にはいいキヲクしか残っておらんヴェ。それで魔神オカマはSR-18本体が邪魔になったのであろう」
「だから神の御霊だけを抜き取り不要、いやむしろ邪魔になった本体だけを捨てていったのだボー」
「そういう事ダォ。今のヤツはダークパワーと負のキヲクの塊ダォ。神の御霊さえ取り返すことができればヤツの動きを止めることが出来るんじゃが……」
天空の神から家電の神として認められているヒエール様達、そして神の御霊を力ずくで取り込んでいる魔神オカマらは、コンセントにつながっていなくても動くことができ、家電達のようにバタンキューになる心配もない。
しかし、レイちゃん等家電達は、本体がコンセントにつながっていないと電気の供給が途絶え、気絶して動けなくなるのだ。
「そうか、廃棄家電の集合体である魔神オカマの体は元々電源につながっていない。神の御霊の力が無ければこの前のすずちゃんみたいに動けなくなってしまうんですね」
「そのとおりじゃヴェ、気絶させてしまえば、今度こそコンポーダンボールでゲット……いや捕まえる事ができるヴェ」
ヒエール様は、いとも簡単に捕まえられるように言い放った。
でもちょっと待てよ?
気絶している魔神オカマを捕まえるのは簡単かもしれないけど、その前に神の御霊はどうやって取り戻すの? と全員が思った。
そしてその思いは神眼コンタクトですぐに伝わり、ヒエール様は答えた。
「そうじゃの、魔神オカマと実際に戦った汝らじゃ、神の御霊を取り戻すのはそんな簡単なものではないと言う事はよく分かっておろう。じゃが汝らは力を合わせ、魔神オカマの動きを止めることが出来たではないか」
「でもあの時、魔神オカマはSR-18の本体から抜け出すためわざと手を抜いて負けよったんやで。次に戦っても勝てるかどうか分からんで」
レイちゃんの弱気な発言を、少し離れた所で魔法のトリセツを読み自習していたダイさんが聞きつけ威勢よくこちらの方に駆け寄ってきた。
「おうおう!このへなちょこ野郎め、情けねえこと言ってんじゃねえよ! このダイ様とトコちゃんが仲間に加わったんだぞ? オカマだかフライパンだか知らねぇが、オレがコテンのパーンにしてやらぁ」
(は? ほぼ初対面やで? 失礼な奴やなー、さっきもパスッって……)
レイちゃんが声にならない声でブツブツ言った。
(戦ったこと無いくせにえらそーに……フライパンには勝てるかもしれんけど魔神オカマには絶対勝てへん、掃除機やで、あんた)
その様子を見たすずちゃんはフワッと飛び上がり、レイちゃんとダイさんの間に割って入るようにストっと着地してダイさんを睨み付けた。
「なによー、あんたダイさんだっけー? どれだけ強いか知らないけどー、私と同じで使わないときはコンセント抜かれちゃうでしょー?」
「わっ! 何でぃ急に上から下りてきやがって! で、コンセント抜かれたらどうなるってんだい」
「気絶して動けなくなっちゃうのよー、わたしは子供部屋に引っ越ししてもらったから大丈夫だけどねー」
すずちゃんに限らず家電達は、電気の供給が無くなるとその場で気絶して動けなくなってしまう。三種の神器である冷蔵庫、テレビ、洗濯機はコンセントを抜かれることはほぼ無いが、季節家電のすずちゃんや掃除機のダイさんは、家電達として活動している最中にコンセントを抜かれてしまう危険性が高いのだ。
すずちゃんは、勝手にコンセントを抜かれない対策をしてもらっているが、ダイさんは……
「へっ、それなら心配ご無用だぜ、オラぁコードレスだ、曽仁の母ちゃんも綺麗好きだし常にフル充電状態だからよ、ちょっとくれえ抜かれたってへっちゃらだぜ」
「そうか、お前は蓄電池を搭載しておるのかヴェ。それなら気絶の心配はないヴェ」
※本体に蓄電池が搭載されている家電達はコンセントを抜かれてもしばらくは活動することが出来る。ただし、五重丸のリモコンに入っている乾電池は何の足しにもならない。
「とにかく、新しい家電達も仲間に加わったことじゃ、一致団結して挑めば必ずや魔神オカマの動きを止めることができるヴェ。ヤツの動きを止めたならその次に……」
「テッテレー♪ ハイパーコンポーダンボール、とかかいな」
「あっ、また変なアイテム出してくれるの?」
「違うヴェ!そんなパクリみたいなやつじゃないヴェ。使うのはSR-18本体じゃヴェ」
ヒエール様はそう言って五重丸が持っているSR-18を指さした。
ただのレトロ家電になってしまったSR-18が神の御霊を取り返すアイテムに?
天空の神から頂いた神の御霊は神聖でピュアな魂。その魂が初めて与えらえられた体がSR-18である。
言うなれば、神の御霊にとってSR-18は故郷のようなもの。
魔神オカマの拘束の手が緩めば、神の御霊は吸い寄せられるようにSR-18の元へ戻ってくるのだ。
「動きを止めた魔神オカマの体に一瞬でもSR-18を触れさせるだけでよいヴェ、そうすれば……」
「分かった、コンセントにつながっていない魔神オカマは気絶して動けなくなるのね」
「そうじゃヴェ、簡単じゃろ?」
「うん、でもねぇ」
「ほ? なんじゃ?リーちゃん言うてみい」
「これ結構重いのよね。大きいし持ちにくいし、持って歩くの大変なんだけど」
「フォフォッ、安心せい。これを使うがよいヴェ」
そう言ってヒエール様は、リーちゃんの足元に小さな箱を落とした。表面はメタリック調でキラキラ光っていて一見、上等なコンポーダンボールのよう。
「わー、出たっ、これハイパーコンポーダンボールやろ、やっぱりパクリやん」




