79、トコちゃんとダイさん
79、トコちゃんとダイさん
2人は新しい家電達を連れてやって来た。前を歩くソニーはグレーとパープルの掃除機を連れて……
いや、どちらかというと、ソニーが掃除機に引っ張られて連れてこられたように見える。
そして東芝が連れてきたのは、レイちゃんがキャラかぶりを恐れていた冷蔵庫だ。
「ちっ東芝め……ま、やってしもたもんはしゃーない、とにかくボクが先輩やっちゅうことを始めにビシッと言うとかんと」
「レイちゃん、いきなりケンカなんかしちゃダメよ」
リーちゃんは止めようとしたが、レイちゃんはグッと踏ん張って実物大になり、険しい顔で東芝の冷蔵庫のところへスタスタと歩いていった。
(ん? よぉ見たら白やなくって、薄いピンク色か。それでもって目がパッチリで、あれ?)
「初めまして。冷蔵庫のトコです。あなたがレイ太さん? 随分大きな方なんですね」
「えっ? いや~これは実物大ちゅうて、こうやって踏ん張ったらトコちゃんにも大きくなれるで」
「あ、そうなんですか? 何も知らないもので。色々教えてくださいね、レイ太さん」
トコちゃんは、はにかみながらヒエール様のもとへ向かった。
「あっ、まぁ分からんことがあったら何でも聞いて、それとレイ太さんじゃなっくってレイちゃんでいいから、ははっ」
トコちゃんを見送りレイちゃんはくるりと方向転換して、ニヤニヤした顔でリーちゃんのところへ戻ってきた。
リーちゃんは呆れたような顔で、肘鉄を一発食らわした。
「なによ、レイちゃん、ビシッと言ってやるんじゃなかったの?」
「いてっ、だってその……女の子みたいやし、それにやっぱ冷蔵庫どうし仲良くせんと」
「そりゃみんな仲良くした方がいいけどさぁ、なんなのそのエッチな顔」
「またエッチって……なんで?」
東芝がタマシールを貼った冷蔵庫には女の子の魂が入ったようだ。見た目もマンション向きのスリムで背が高く、けっこうイケてるタイプだ。
だらしない顔で言い訳をするレイちゃん。と、その後ろから誰かの威勢のいい声が飛んできた。
「おうおう! なんだよそのにやけた顔は。情けねえな全く」
レイちゃんは驚いて振り向くと、そこには困ったような顔をしたソニーと掃除機の家電達が立っていた。
「おぅ、あんたがレイちゃんか。オラぁサイクロン掃除機のダイってえもんだ。ダイさんって呼んでくれ、よろしくなっ」
そう言ってダイさんは、レイちゃんの野菜室あたりをパスっと叩き、ヒエール様の所へ足早に歩いて行った。
「ずっとあの調子なんだ、オレの名前の付け方が悪かったのかな」
ダイさんの気性の荒さは自分の名付けのせい? ひょっとしてダークネームを付けてしまったのか? と悩むソニーに東芝が話かかけた。
「名前のせいじゃないと思うよ。たぶん掃除機に入った魂はチャキチャキの江戸っ子だったんだよ。ボクの東京のおじいちゃんもあんな感じだし」
「そ、そうなのか、別に怒ってる訳じゃ無いんだ。よかったぁ」
東芝にフォローされ、罪悪感が幾分和らいだソニーは、ホッとした表情で胸をなでおろした。
「なあ東芝、おまえ冷蔵庫の名前どうやって決めたんだ?」
「初めはゾウちゃんにしようと思ってたんだけど、声が女の子みたいだったし冷凍庫のトウコを縮めてトコちゃんにしたんだ」
「なるほどね」
「ソニーは?」
「オレ? オレは、家の掃除機にタマシールを貼ったら、いきなりあんな感じで騒ぎだしたんで」
「どうしたの?」
「つい慌てて掃除機の会社の名前を言っちゃったんだよ」
「それってダイソ……」
「うん、オレはそう言ったんだけど、アイツ聞き間違えて『ダイさん』って言う名前だと思ったみたいで」
タマシールを貼った後の重要なポイント「優しい心を込めて名前を付ける」
ここで馬鹿にしたような名前を付けてしまうと、魔神オカマのような化け物を誕生させてしまう……東芝とソニーは、その失敗事例を目の当たりにしている3人のうちの2人だ。
だから決してダークネームなど付けることはないであろう、とヒエール様は考え、東芝とソニーに名付けも任せたのであった。
東芝は冷蔵庫にタマシールを貼る前に、どんな名前にするか決めていた。リーちゃん家の冷蔵庫がレイちゃんなので、ゾウちゃんにしようと。
しかし冷蔵庫に入った魂が女の子だと気づいた東芝は、機転をきかせトコちゃんに変更した。ゾウちゃんでもダークネームではないが、もし女子の魂の機嫌を損ねたりしたら……
東芝グッジョブである。
一方ソニーは、家にある家電の中で一番新しくてカッコいいサイクロン掃除機を選んだ。
掃除機も三種の神器に匹敵する家電だ。チョイスは悪くない。ただ、入った魂がちょいと曲者だった。いきなり、べらんめえ口調でまくし立てられ、ソニーはついうっかり掃除機のメーカー名を言って掃除機に触ってしまい家電達を引っ張り出してしまった。
更に引っ張り出された家電達は、「ソ」と「さ」を聞き間違いしたうえに、自分のことを「ダイ」が名前で「さん」は敬称だと思っているようだ。
「だからあの掃除機の名前は『ダイさん』だから呼ぶときはダイさんちゃん、なのかな?」
「……ややこしいからダイさんでいいんじゃない?」
「そうだよな、ちゃん付けしたら余計に怒られそうだし」
「うん、あ、ヒエール様が呼んでるよ。話が終わったみたいだ」
東芝に言われ、展示コーナーの方を見るとヒエール様がおいでおいでをしている。その傍らでトコちゃんとダイさんが貰いたてのトリセツを見て自習しているようだ。
「ちょうど契約が終わったとこじゃヴェ。東芝とソニーよ、汝らにもこれを渡しておこう。使い方はリーちゃん達に教えてもらうヴェ」
ヒエール様は二人の足元に帽子型のカミテレコンをポトッと落とした。
「あっスゲー、オレの帽子とそっくりだ」
「そっくりだけど、これはカミテレコンといって、家電達を呼び出したりみんなに電話できたりする便利な道具なのよ。auでもドコモでもないから安心して」
「そうじゃヴェ、英雄ドッコモも関係ないし電池もいらないヴェ。本物の帽子はリーちゃんに預かってもらっておくヴェ」
「えー! またぁ?」
サンヨーの帽子を含め男子の帽子を3つも預かることになったリーちゃん。しぶしぶ2人から帽子を受け取った。
「あーもぅ、ヤダ。何か湿ってるし」




