78、東芝とソニーも仲間入り
78、東芝とソニーも仲間入り
「東芝、ヒエール様に触っちゃダメよ。ソニーも大丈夫だから、逃げないでこっちに来て」
東芝は小学一年生なのに、昭和の香りがするレトロなものが好きな、ちょっと変わった子だ。
話し始めたヒエール様が展示してあるコーナーのロープをくぐり、握手しようとしたが、近くを通りかかった店員さんに咎められ、慌ててロープの外に戻った。
そして、小柄ですばしっこいソニーは、じりじりと後ずさりして、出入り口付近のガチャガチャの陰から半分顔をのぞかせ、こっちを見ている。
「ソニー、早くこっちに来て、怖くないから」
「フォフォッ我らは家電の神、三種の神器じゃ、恐れることはないヴェ。リーちゃん達とそこのベンチに座るがよい」
ヒエール様に促され、ソニーは警戒しながらベンチに近づき、リーちゃんの隣にゆっくり腰を掛けた。
「驚かしてすまんのう、ではしばらくの間我の話を聞いてくれるかの。言葉ではなく心に話しかけておるヴェ、ちゃんと届いておるヴェか?」
「ほんとだ、離れているのに目の前にいるみたいに聞こえる……凄いや」
「汝らも声に出さなくてもその思いは我に届くヴェよ、神眼コンタクトというやつじゃ」
「へえ……」
周りの人には、ただの古ぼけた家電にしか見えていないようだが、自分達には顔と手の生えた家電の神様が、やさしく話しかけているのが見える。信じられないけど、もう信じるしかない。
二人はポカンとした顔でヒエール様の話を聞き始めた。
「ヒエール様の話が始まったみたいやな。どうするんやろ、あの二人も仲間にするのかな」
「仲間っちゅうても東芝もソニーもオレらの姿も見えへんし、声も聞こえへんのやろ? こみにけいしょん取りにくいやん」
「……コミュニケーション、だね。確かにそうだ、ボクらが見えないとレイズちゃんに乗ることも出来ないし色々問題がありそうだ。マーキングベフみたいな魔法はかけられるけどね」
「あーっ、見てみてー、リーちゃんが二人に何か配っているよー」
すずちゃんは首を伸ばし、ベンチの方を見て指さした。
「はい、1枚ずつしかないから、よく考えて使うのよ」
「あ、これサンヨーがあの炊飯器に貼ったやつと同じシールだ」
リーちゃんが東芝とソニーに渡したもの、それはタマシールだった。ヒエール様にもらった小袋の中に残っていた3枚のタマシール。それを1枚ずつ二人に手渡した。
「そのシールには、家電に魂を定着させる神の力が宿っておるヴェ。家電以外の物や電池や電球のような部品に貼っても効果がないので注意するヴェ」
「確かに綺麗なシールだけどこれを貼るだけであの炊飯器みたいに喋るようになるのかな」
「ホホッ信じられないのは無理はないヴェ、信じれれないのが当たり前じゃ。では二人とも、あっちの方をちょっと見てみるヴェ。何か見えぬか?」
ヒエール様はそう言って、少し離れた所で雑談しているレイちゃん達の方を指さした。東芝とソニーは、言われた通り目を細め、指さされた方をよーく見てみた。
「あっ!」
「何かいる、四角い白いのが二つに黒いのが一つ……冷蔵庫と洗濯機とテレビみたいだ。それと扇風機? 周りを走り回ってるのは……犬? いや、炊飯器だ」
「薄っすらだけど何か見える、あっ! あいつらもこっちを見て何か言ってるよ」
タマシールはそれを身につけているだけでも家電達の存在を感じたり、薄っすらではあるが家電達の姿を見ることが出来る効果があるのだ。
「どうじゃ? 見えたかの? それがタマシールの力じゃヴェ。あの者たちはリーちゃんがタマシール張り付け魂を定着された家電達じゃヴェ」
「あの二人、さっきからボクらを指さしてなんか言ってるな。ひょっとしてボクらが見えるようになったんかな?」
「それやったら近くに行って、このジャブ様は魔神オカマと違ってフレンドリーな家電達やってコトを説明せんと」
「ベフベフッ」
おもちゃコーナー付近にいた家電達は友好的な微笑みを浮かべ、一斉にベンチの方へ駆け寄ってきた。ソニーはビクッとして立ち上がり、逃げ出そうとしたがリーちゃんが腕をつかんで引き戻した。
「大丈夫、みんなイイ子ばっかりよ。魔神オカマみたいに悪い奴はいないし、魔法を使ってあたしらを助けてくれるんだから」
「な、何か半分透けてて幽霊みたいだけど、このシールを貼った人のことは何でも聞いてくれるの?」
「家電達は家来でも道具でもないヴェ、頼りになる仲間じゃヴェ。さあ、汝らも家に帰って家電にタマシールを貼るがよい。家電がしゃべり出したら、優しい心で名前を付けてやってくれヴェ。バカにしたような名前付けると、魔神オカマのような怪物になるからのう、そこだけは気を付けるヴェ」
東芝とソニーは、もらったタマシールを見つめ、そしてレイちゃん達を見て少し考えた。そして東芝は恥ずかしそうに笑った。
「分かった、やってみるよ。ボクも冷蔵庫……ヒエール様みたいな仲間が欲しいし。じゃ、みんなの名前を教えてくれるかな、参考にしたいし」
「よっしゃ、ほなオレはジャブや。全自動洗濯機のジャブやで」
「ボクは大型冷蔵庫のレイ太。レイちゃんって呼んでや」
「ボクは五重丸。地デジ対応大画面液晶テレビだよ。分からない事があれば何でも聞いてくれ」
「ヤッホーィ! 扇風機のすずちゃんでーすっ。お友達になれてうれしいわー」
「ベフベ、ベフベフ、ッベッベベフ」
「え?」
「こいつはIH炊飯器のベフや。見ての通り、犬やけど結構やりよるで」
みんなはしばらく雑談をして、東芝とソニーはそれぞれの家へ帰っていった。お昼ご飯を済ませた後、シールを張り付け、引っ張り出した家電達を連れてくるという約束をして。
「じゃ、あたしたちも帰りましょ、お腹空いたし」
「うん……」
家に帰る為、バビエオでレイズにならなければいけないのだが、レイちゃんは何故か心配そうに元気のない返事をした。
「どうしたの? レイちゃん難しい顔して」
「うん……ソニーは分からんけど、東芝がなぁ」
「東芝がどうかしたの?」
「あいつヒエール様のこと、すごく気に入ってたし自分家の冷蔵庫にタマシールを貼るんちゃうか? と思って。そしたらボクとキャラがかぶるやん」
「なーんだ、そんな事か」
「むっちゃ重要なことやん! たのむから電子レンジとかにしてくれへんかなぁ」
キャラかぶりを心配するレイちゃんだが、東芝とソニーがちゃんと家電にタマシールを貼り、優しい気持ちで名前を付けてくれるか?
どっちかというとそれの方が心配だと思うが。
魔神オカマの恐ろしさを知っている二人故に、そんな失敗はしないであろうヴェ、とヒエール様は名付けも任せてしまった。
大丈夫だろう、多分。
知らんけど……
時間は過ぎ、昼食後リサちゃんに先にやってきたリーちゃん姉妹はヒエール様の前で東芝とソニーが来るのを待っていた。
しばらくすると東芝とソニーが店の通路を歩いてくるのが見えた。ソニーは掃除機のような家電達を連れている。そして東芝は、白い四角い家電達の手を引いている。
「うわっ、やってくれた……」
レイちゃんの庫内温度が一気に下がった。




