77、三種の神器との接見
77、三種の神器との接見
「ほな、出発しまぁーす……ブーン、キャッホーイ」
大きな入道雲が遠くに見える夏空を、レイズに乗ったリーちゃん姉妹はリサイクルショップを目指し飛び立った。
リサちゃんまで直線距離で約1キロ、レイズなら1分少々でリサちゃんに到着できる距離だ。ド派手な黄色い看板が見えた頃、大通りをパトカーがサイレンを鳴らしながらレイズとは逆の方向に走って行くのが見えた。
「あ、パトカーだ。何か事件かな」
遠ざかっていくパトカーの行く先を気にしながら、レイズは裏駐車場側の入り口から店内に入り、展示コーナーの物陰にリーちゃん姉妹を降ろした。
「じゃ、迎えに行ってくるね」
展示コーナーの三種の神器、ヒエール様達に小さく手を振り、リーちゃん姉妹は待ち合わせ場所の正面入り口の方へ向かった。
「お? 新しい男の子を迎えに行ったようダォ。今度はどんな子を連れてくるのかォ」
「サンヨー君のような面倒を起こしそうな子だったらどうするヴェ? 記憶を消してしまうヴェか?」
「それはあまりにも可哀そうだボー。親のことも今までの思い出もみーんな忘れてしまうかもしれないのだボー」
「なぁに、思い出と言っても生まれてまだ数年間の思い出じゃ。親御さんもついておることじゃし、月日が経てば元通りに近い記憶がすり込まれるじゃろうヴェ」
「ヒャー、ヒエール殿はけっこう冷たいんダォ」
「クールと言ってほしいヴェ、なんせ我は冷蔵庫じゃからのう、ホッホ」
開店直後のまだお客さんが少ない店内を、リーちゃん姉妹が勢いよく駆けてゆく。
家具や家電製品が陳列されている正面コーナーから店の外を見ると、ドア付近に東芝とソニーが暑そうな顔でウロウロしているのが見えた。
「あ、いたいた。おーい」
リーちゃんの呼び声に反応し、二人は振り向いて店内の方を見た。
(あれ? いつの間に店に入ったの?)
店内には正面入口を通らないと入れないはず? 知らない間に店内にいるリーちゃん姉妹に少し違和感を感じながら東芝とソニーは店内に入った。
「ず、ずいぶん早いね。車で送ってもらったの?」
「あー、涼しい」
「こっちよ、二人とも、電気釜さんで慣れてるから大丈夫だと思うけど、騒いじゃダメよ。声を出して喋るのもダメ」
「え?」
東芝とソニーは首を傾げた。
怪物の話を聞きに来たのに、話すなって? 電気釜で慣れてるって、何が?
「喋らなくても喋れちゃうから」
は? リーちゃんの説明は、聞けば聞くほど分からなくなっていく。
とにかく、その人に会えば、分からない事も分かるか。そう思いながら東芝とソニーはリーちゃんの後をついていった。
「お、ヒエール殿、リーちゃんが戻ってきたォ」
「どれどれどんな子を連れてきたヴェ」
ヒエール様はブラウン様の視線の先にいる、男の子の顔を見てハッとした。
「おぉ、あの背の高い子は見たことあるヴェ。よくここに来て我をジロジロ見ている子じゃヴェ」
「こっち、こっち、二人ともここに並んで」
リーちゃんは展示コーナーの前で立ち止まり、東芝とソニーを呼び寄せた。
「ここ? 誰もいないじゃないか」
「シーッ、黙って前の冷蔵庫を見て。ヒエール様、東芝とソニーを連れてきたわ。姿を見せてあげて。いい? 周りの人に変に思われるから絶対騒いじゃダメよ」
「承知したヴェ。ブラウン殿、ペタンコ殿、準備は良いかの、ウオッホン」
「いつでもオッケーダォ」
「ウッウーン、ボボボーのボー」
神様たちは、まじめな顔で発声練習をし始めた。その様子はまだリーちゃん姉妹にしか見えていない。リーちゃんはその様子を見ていたずらっぽく笑った。
「な、なんだよニヤニヤして……あっ」
神様達は東芝とソニーに心を開き、その真の姿を見せた。
すると、目前のレトロな家電に突然顔が浮かび上がり、手がニョキっと生えてきた。
「汝らが東芝とソニーか。よく来た、我は冷蔵庫の神リフリージェヒエールじゃヴェ」
「そして我がテレビの神、モノクロームブラウンカーンダォ、よろしくダォ」
「最後に我が洗濯機の神、アフターワッシュペタンコだボー、我ら三種の神器、君たちに会えてうれしいボー」
「わっ! 出たっ! おい松下、こいつらもあの炊飯器と同じかよっ!」
ソニーの脳裏に秘密基地での事件がよみがえり、喋るなと言われていたにも関わらず、大声で叫んで尻もちをついた。
片や東芝はヒエール様を見つめ、なぜかうれしそうな顔でガッツポーズをし、声を震わせ言った。
「凄いや、まさかキミと話せるようになるなんて」
「ヴェヴェヴェッ?」
三種の神器の真の姿を前にして、正反対のリアクションを見せる東芝とソニー。果たして二人はヒエール様の話を聞いてリーちゃんに協力してくれるのだろうか。
そしてその頃、この地域の救急指定病院。検査を終え、一般病棟に担ぎ込まれたサンヨーの病室は、お母さん、お医者さんに看護師さん、そしてパトカーで駆け付けた警察官でザワザワしている。
「……何も見つかりませんね、窓の破損状況からして外部から大きな石のようなものが病室に飛び込んできたようなんですが……」
「うーん、でもここは7階だしな。何者かが投げ入れた、とは考えにくい。飛行機からの落下物? どっちにしてもこの窓ガラスを突き破った物がどこにもないし、床も傷一つついていない……こりゃ難事件だな」
「ま、不幸中の幸いは、その何かが息子さんに当たらなかったことですな」
警察官はサンヨーとお母さんの方を見て、小さく頷きにこっと笑った。お母さんは会釈しながらサンヨーの頭を撫で、ベッドに腰を下ろした。そしてふと枕元を見て不思議そうな顔をした。
「あら? 帽子? 洋、その帽子どうしたの?」
「ど、ど、どうしったって別に、オレの帽子じゃん。そこの紙袋に入ってたよ」
「あら、そぉ? 着替えとか慌てて詰め込んだから一緒に入れちゃったのかしら? まあいいわ、ケガも大したことないし、入院の必要もないって言ってくださったからちょうどよかったわ」
そう言ってお母さんは帽子をサンヨーの頭にギュッとかぶせた。
「よかったね、洋君。それにしても最近おかしなことが多くってね。昨日の夜も田んぼで爆発音がして、大きなものが空に飛んで行ったって何件か通報があってね、その前は家の前に置いてあった家電が盗まれたとか」
……その「おかしなこと」全部知ってるんですけど、とサンヨーは思った。
魔神オカマの存在を住民が少しづつ気付き始めている……早く何とかしなくては。




