75、おねしょ劇場、その後
75、おねしょ劇場、その後
「あなた達よく寝てたから知らないだろうけど、夜中に大事件があったのよ」
「へぇ、何があったの?」
終業式の朝、朝食の準備をしながらお母さんは、その大事件にガッツリかかわっているリーちゃん姉妹に、昨夜の出来事を話しだした。
いよいよ明日から夏休みイェイ! と、本来ならウキウキ気分のはずだが、リーちゃん姉妹の気分は重い。
「お向かいの洋君が3階のベランダから落ちたらしいのよ。何で落ちたかは知らないけど救急車も来て大騒ぎだったんだから。多分、洋君今日はお休みすると思うよ」
「えーっ! 3階から落ちたの? 痛そー、骨とか折れたりしたのかな」
夜中に声優デビューを果たし、演技力がアップしたリーちゃんは、あたかも初めて知ったかのように白々しく質問を返した。
「それがさぁ、幸い大したケガじゃなかったみたいよ。男の子は頑丈ね」
「そうなんだ、『ふこうちゅうのわざわい』だね」
「何言ってんのよ、それを言うなら不幸中の幸い、でしょ。ほら、もう行くよ」
「あーっ待ってよ、あと一口、ムホッ……いっふぇふぃまーふ、モグモグ」
リーちゃんはロールパンを口にくわえ、ミーちゃんの後を追いかけた。行儀の悪さを注意されながら階段を駆け降りていくリーちゃんを、レイちゃんと五重丸は目を細めて見送った。
「よかったね、3階から落ちた……と言う事になっているから一応精密検査とかするだろうけど、今日中に退院できるんじゃないかな」
「そやな、ドラマの設定はすずちゃんに説明してもらっているから、余計なことをしゃべったりしないと思うし」
そう、あのあと、レジャズちゃんはバビエオを解除し、「サンヨーおねしょ劇場」の打ち合わせに参加していないサンヨーに状況を伝えるため、両親と一緒にすずちゃんだけ救急車に乗り込んでもらったのだ。
その時の場面をプレイバック。
ピーポーピーポー♪
救急車はサイレンを鳴らし、真夜中の町をひた走る。
気が付けば家に戻っていて、あれよあれよという間に救急車に乗せられ、全く状況が分からないサンヨーにすずちゃんが話しかけた。
「シーッ落ち着いてー、何でこうなっているか説明するからぁ余計なこと言わずに黙って聞いてねー」
「お、おう……」
「神社でさ、オカマをコンポーダンボールに閉じ込めたでしょ、でもねーあいつそれをブチ破ってー、その衝撃であんた吹っ飛ばされて気を失ったのー。分かったら唸ってー」
「うぅー」
「OKね、それでヤバいからー、ベフちゃんの魔法で家に帰ってきたのー。でー、あんたの今の設定はー『おねしょして怒られるのが嫌で、3階のベランダから家出しようとしたら、足を踏み外して落っこちた』ってことになってんのー、分かったー?」
「うぅ……う? おい何それ、布団も洗ってくれるってジャブが言ってたじゃん」
おねしょもみ消しの約束を破った上に、家出事件の罪まで着せられ、サンヨーは「冗談じゃねーよ」と言わんばかりにストレッチャーからガバッと起き上がった。
「お、おいボク! 起き上がって、どこも痛くないのか?」
「洋! まだ動いちゃダメよ、3階から落ちたのに!」
突然起き上がりわめき散らすサンヨーを見て、救急隊員と両親は慌てて立ち上がった。
「わー、ヤバーい。仕方ないわねー、かわいそうだけど5分やっちゃおー」
すずちゃんはタイマーを5分に合わせ、呪文を唱えた。
「眠れ良い子よ~♪」
「え? フガッ
」
バタッ
「あっ! この子また気を失っちゃった、洋、ひろしいぃぃ!」
「お母さん落ち着いて、一瞬、意識が回復しただけです。病院で精密検査してもらいましょう。さあ座って座って」
サンヨーがわめくので、すずちゃんは咄嗟に魔法「おやすみタイマー」をかけた。(魔法の効果は61話、ウイッチすずちゃんを参照)とりあえずこれで5分間は大人しく寝ていてくれるし、病院に着くころには超最悪な気分で目が覚め、半日はふてくされているだろう。
不機嫌な態度も、家出少年のキャラにはちょうど良いかもしれない。
「ま、これでいいかぁー、じゃあねーお大事にー、ブーン」
すずちゃんは救急車を抜け出し、家へと舞い戻った……
ということである。
リーちゃん姉妹がドーナツ公園に行くと、サンヨーのお母さんがお休みする事を班長さんに話していた。スッピンでTシャツに短パン、とても疲れている様子だ。
「お気の毒ね、リーお見舞いに行くの?」
「おやすみタイマーのせいでふてってるだろうし、行ってもねぇ。それよりヒエール様が学校が終わったら来てくれって言ってたよ」
「そっかあ、結局アイツ逃がしちゃったもんね。わたしも行くわ」
今日は終業式。体育館で校長先生の話を聞いて、通知表をもらったら後は帰るだけ。帰ったらすぐリサイクルショップに行かなくちゃね。
「おはよー、リーちゃん。あれ? 何か元気ないねぇ」
隣の席のシャープちゃんは、感受性の高い子だ。昨夜エライ事になってまいっているリーちゃんに声をかけてきた。
「ん? ああ、ちょっとね」
「あ、分かった、通知表でしょ」
「え? ああ、そうそう始めてだもんね、もらうの。今日は早く目が覚めちゃって」
(ってか寝てないだもんね……寝不足じゃないけど)
と、言うことであれこれ考えているうちに時間はあっという間に過ぎてゆく。もちろん校長先生の話など全然頭に入ってこない。
……終業式もあっという間に終わり、下校の時間。
リーちゃん姉妹が校門を出ようとしたところ、駆け寄ってきた男子に呼び止められた。二人が振りくと、そこには東芝とソニーが立っていた。
「松下さん、ちょっと聞いてもいい?」
「何? あたし忙しいんだけど」
「サンヨーが今日休んでるだろ? 怪我したみたいだって先生が言ってたけど」
(こいつら2人、いつも突撃レポーターみたいに現れるな……サンヨーの話だと電気釜にタマシールを貼った時、一緒にいたらしいし、何とかごまかさなくちゃ)
「そ、そうよ。救急車で病院に行ったみたいだけど、何でかは知らないよ」
「それって、おかしな炊飯器と何か関係あるのかな、前に生き物のような炊飯器を一緒に見たことがあるんだよ」
「知らないわよそんなの、何であたしに聞くのよ、じゃあねっ」
そう言い捨ててリーちゃん姉妹は早歩きで2人を振り切ろうとした。が、2人はしつこく追いかけてくる。
「僕見たんだよ、キミがトラックに轢かれそうになった時、タイヤが凍り付いて止まったり、氷の玉が突然、空の上から落ちてきたりさ、この頃変なことばかり……」
(うわー、色々見られてるなー、めんどくせー、シカトシカトっと)
「それに昨日の夜、神社にその炊飯器らしいのが現れて、でっかい怪物みたいになって空に飛んで行ったのを見たんだよ」
「えーっアイツあの恰好で空に飛んでったの! あ、しまった」
「あーもーう、バカなんだから」
あっさりとバレてしまった……ミーちゃんは呆れた顔でカミテレコンのリボンを外し、さっさと先に歩いて行った。
「あ、やっぱり知ってるんだ。アレ一体なんなの?」
「うう、お姉ちゃーん、ヒエール様に連絡……」
「分かってるって! 今するからもう全部言っちゃいなよ」
リーちゃんは勇敢で、心優しくって……おっちょこちょいである。




