74、サンヨーおねしょ劇場
74、サンヨーおねしょ劇場
ベフの遠吠えが神社に響き渡り、青白く輝くシッポコードの輪がリーちゃん達の頭上からシュッと通り過ぎ、リーちゃん達は神社から姿を消した。
次の瞬間、みんなは学校の絶壁の裏に立っていた。
(あれ? なんで学校なの?)
てっきり、家に直行だと思っていたリーちゃんはキョトンとした顔で五重丸に聞いた。
「ねえねえ、どうして学校に来たの? 帰るんじゃなかったの?」
「いきなり家にワープすると、誰かに出くわす危険があるからね。マーキングベフで逃げる時は、一旦ここに移動するって決めてあったんだ」
五重丸の言う通りだ。
真夜中にコスプレ正義の味方と女の子が、突然空中から現れ、それを運悪くお母さんらに見られてしまったら、そりゃもう大騒ぎになる。
そうならないため、一旦誰もいない夜の学校で態勢を整えてから空を飛ぶーんで家の近くまで行き、見つからないようコッソリ帰る……と、慎重な五重丸らしい考えだ。
「ところで、サンヨー君の具合はどう?」
五重丸に聞かれサンヨーを抱きかかえているレジャズは、戦闘スーツのマスクを外してやった。
やはりサンヨーは気を失ったままだ。レジャズはサンヨーのほっぺたを、軽く叩いてみた。
「あかんな、目ぇ覚まさへん……それにしてもサンヨー、エエとこあるやん。体張ってリーちゃんを守ってくれて」
「……うん……」
いつもサンヨーのことをボロクソに言っているリーちゃんも、返事を返すのがやっとで、心配そうにサンヨーの顔を見つめていた。
「こりゃもう警察24時を呼んだ方がいいんちゃうか……いや、それより救急車やろ……そうそう、早く手当てしてあげないとー」
「いや、ダメじゃヴェ、警察も何でケガをしたとか、色々聞いてくるヴェ。バケモノと戦ってやられちゃいました、なーんて言っても信じてもらえないヴェ?
「ご両親のもとへお返しして、手当てをしてもらうのが一番なのだがォ?」
カミテレコン越しに聞いていたヒエール様達は心配そうにそう言った。病院や警察に本当のことを言ったとしても100%信じてもらえないだろうし、大人相手に適当なことをでっち上げてごまかすのも、まだ子供のリーちゃん姉妹にはムリだ。どうする?
「分かりました。ボクにまかして下さい」
「おお! 五重丸よ、何かいい考えがあるのかヴェ?」
「はい、少々お待ちを」
五重丸はそう言って、すぐさまシナリオ作りに取りかかり、まもなく画面にキャストを映し出した。
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主演:三井洋
サンヨーの声:松下香織
通行人Aの声:松下美香
演出、脚本、監督:五重丸
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「登場人物はサンヨー君だけで、あとは声だけの出演ね。はい、これシナリオ。ショートショートのストーリーだから移動中に読んで覚えてね」
「え?」
「あと、戦闘スーツは脱がしてリーちゃんが預かっといて」
唐突に台本を渡され、声優デビューする事になったリーちゃん姉妹はうろたえた。
「ちょ、ちょっとまってよ、あたし女だしサンヨーのモノマネなんて出来ないわよ」
「わたしだって『通行人A』って誰? どんな声で喋りゃいいのよ」
「大丈夫、声質はボクの魔法『ボイスチェンジャー』で変換するから、普通にしゃべってくれればいいよ」
「ぼいすちぇんじゃあ?」
「うん、サンヨー君の声はデータがあるし、通行人Aは……そうだな、リーちゃんのお父さんの声でいいか、夜中だし大人の男性の方が怪しまれないだろ」
「ゲッ、わたしの声をお父さんの声に? キモ」
「まあ、そう言わずに……じゃ、時間が無いしぶっつけ本番だけど、セリフ噛まないようにね。レジャズちゃん出発の準備はいいかな」
戦闘スーツを脱がされ体操服になったサンヨーを背中に乗せ、レジャズはロケ隊出発のアナウンスをした。
「えー、それでは出発しまーす。なお、緊急生ドラマのため、ロケ弁やケータリングの用意はございませんので各自……」
「レイちゃん、そんなボケいいから早く行きましょ」
「ちぇ……ほな行くでー……ドアが閉まりまぁーす」
ボケを途中で止められ、消化不良のままレジャズは飛び立った。
サンヨーの体を気づかい、いつもより速度は控えめに松下家周辺へ向かう。リーちゃん姉妹はその間、台本の読み合せ。ほどなくして現地に到着しレジャズはサンヨー家の敷地内に着陸した。
「じゃ、サンヨー君をその辺に寝かして、転落したようなかっこうで……そうそう自然に……オッケー。じゃ本番行きまーす、3、2……」
ここは、とある町のベッドタウン。夜の帳が下り、皆が寝静まった深夜に突然、何かが落下したような物音が響き渡る。
ドスーン!
三井洋 「うう……いててて……」ガクッ
通行人A 「な、なんだ、今の音はっ、あっ誰か倒れているぞ、おい、しっかりしろ!」
偶然通りかかったAが音のした方を見ると、センサーライトが反応し、玄関周りを照らし出している一軒の家が目についた。近づいてのぞき込むと、そこには体操服を着た男の子が倒れていた。
通行人A 「大変だ、警察を呼ばないと、いやそれより先にここの家の人に知らせなきゃ」
ピポピポピポピッポーーン
Aはけたたましくインターホンのボタンを連打した。ほどなく、その家の2階に明かりが点りインターホンから、女の迷惑そうな声が聞こえてきた。
洋の母 「誰っすかぁ、こんな夜中に……」
通行人A 「大変です、お宅の玄関に人が倒れています! 小さい男の子のようです」
洋の母 「えっ? なんですって? お父さーん、ちょっと起きて、起きてよぉ」
Aの言葉を聞き、迷惑そうに尻を掻きながら応対していたサンヨーの母は、慌てて父を叩き起こした。
二人は恐る恐る玄関の扉を開けた。するとそこには、変わり果てた姿の我が息子が倒れていた。なぜか体操服を着て。
洋の父 「洋! 洋じゃないか、しっかりしろ、えっ? お前3階から落ちたのか?」
三井洋 「お父さん、お母さんごめんなさい……おねしょしちゃって……ガクッ」
洋の母 「おねしょって洋、怒られると思って家出しようとしたの? あぁどうしよう、お父さん救急車、救急車呼んでー!」
「あらら、大騒ぎになっちゃったよ。五重丸、これでいいの?」
「上出来だ。あとはご両親に任せて、リーちゃん達も早くパジャマに着替えて寝ていたふりをしなくちゃ」
「そうね、急ぎましょ」
騒ぎに気付き、周りの何軒かの住民が心配そうに三井家の方を見降ろしている。その隙にリーちゃん姉妹は子供部屋に戻り、パジャマに着替えベッドに入った。
その頃、三井家では気を失っていたサンヨーが、やっと目を覚ました。
「う……ううん、あれ? お母さん? 香織は? オカマはどうなった?」
「ああ、よかった! ごめんね、この前きつく叱りすぎたからね、大丈夫、大丈夫よ」
「オレ、神社にいたのに、いつの間に? あれ? 戦闘スーツは?」
「この子ったら訳の分からない事を。落ちた時、頭を打ったのかしら? もうすぐ救急車が来るからね、ちゃんと診てもらおうね」
救急車のサイレンが少しずつこちらに近づいてくる。
主演サンヨー、お疲れ様でした。




