70、氷のオリ
70、氷のオリ
リーちゃん姉妹の住む郊外のベッドタウン。その昔は見渡す限り田畑が広がる田園地帯であったが、徐々に宅地開発が進み、今やそこそこの町になりつつある。
そんな町の住宅と田畑の境界線に立つマンション。この辺りでは高い建物の部類に入るその最上階の7階、サンヨーの親友、東芝はそこに住んでいる。
窓を開けて網戸にしておけば今の季節なら扇風機だけで十分快適なのだが、今夜の東芝は何となく寝つきが悪い。
「羊が86匹……羊が87……ハチ……ふぁ~、あーやっぱ羊じゃ寝れないや」
ベッドから体を起こし、東芝は頭をボリボリ掻きながらボーっと窓の外を見ていた。
「あれ? 今日はカエルが鳴いていないな」
子守歌代わりのカエルの声が、今日は全然聞こえてこない、東芝は立ち上がりベランダの窓から外の様子を伺った。
「ん?」
ふと、少し離れた所にある神社の方を見ると、何か煙のようなものが木々の間から立ち上るのが見えた。
「なんだろ? もしかして火事?」
ドンドーン、と何かが爆発するような音も聞こえる。しかし煙のようなものはすぐに消え去り、消えたかと思うとまた立ち上りその度に爆発音がする。しかし、火の手は上がっていないようなので火事ではなさそうだ。
何を言ってるのかよく分からないが、人の声も聞こえてくる。
「不良が集まって花火かなんかしてるのかな」
神社ではリーちゃん達が魔神オカマを封印しようと必死で戦っている……そんなこと東芝は知る由もなく、寝ぼけ顔で神社の方を眺めていた。
その頃、神社の方では……
カチーン
五重丸のカチンコが乾いた音を神社に響いた。
「五重丸、カチンコ鳴らしたけど、これからどうするの?」
「さっきから結構大きな音をたててるからね、近所の人が騒ぎ出す前に片付けないと。とにかくアイツを神社の中から出られないようにするんだ」
リーちゃん達が学校に行っている間に、家電達は色々と作戦を立てていたようだ。五重丸の持っているカチンコをよく見ると「氷のオリ」と書いてある。
レジャズはそれを見て頷き、少し前かがみになり片膝をついた。
「ヘブレ、ヘブレッ」
レイちゃんが融合合体バビエオ解除の呪文を唱えた。レジャズの背中がボワッと光り、中からジャブ君とすずちゃん「ジャブズ」が勢いよく飛び出した。
「ほな、行ってきまーす……キャッホーイ」
ジャブズはレイちゃんだけを地上に残し上空へ舞い上がった。
「お、お前はこの前、入道雲もろとも消滅させたはずの空飛ぶ冷蔵庫じゃないか? まだ生きておったか、しぶといヤツだギャ」
魔神オカマはジャブ達と分離し、顔から「洗濯機感」が無くなったレイちゃんを見て入道雲でのことを思い出した。
そして早速、神眼コンタクトでレイちゃんの心を読んだ、しかし読めたのは「氷のオリ作戦」という言葉だけだ。
「? 何の事だギャ? さっぱり分からんギャ」
そう、家電達はいくつかの作戦に名前を付け、カチンコに書かれた文字を見るだけで即行動できるよう打合せをしていたのだ。
「そっかぁ、あたし達は隠れているから心は読まれないし、カチンコだけレイちゃんに見せれば伝わるもんね」
「その通り。このカチンコは神眼コンタクト対策なのさ」
「ギャギャッ! 待てぃ」
魔神オカマは飛んで行ったジャブズを追いかけようと上空を見上げた。
「行かせるかいっ! 瞬間冷凍フリーズ!」
レイちゃんは魔神オカマの足元めがけフリーズの魔法を撃った。足は一瞬で地面に凍りつき飛び上がることが出来なかった。
「チッ」
魔神オカマはうっとおしそうに凍り付いた足を溶かし、再び上を見ると自分の真上、神社で一番高い木の先端で、ジャブズが両手を広げて回転し始めているのが見えた。
「ほな、いっちょいったろかぁ、水量全開ウォーターフォール!」
回転するジャブズの両手から、大量の水がスプリンクラーのように放出され、神社全体を滝の壁で覆うように降り注がれる。
「おお、すごい水量やな、じゃ、次はボクの番や」
両手を上げ、それを合図に空中のジャブズは急降下! レイちゃんは呪文を唱えた。
「高速製氷ロックアーイス!」
レイちゃんの手から発射された冷気は、ジャブズの作りだした滝に当たり、流れ落ちる水はみるみる透明感のある氷となり神社全体を覆いつくした。
「バビエオッ」
同時に急降下して来たジャブズとレイちゃんが融合合体、再びレジャズとなり魔神オカマの前に立ちはだかった。
「どやどや、『氷のオリ』完成やで……カチコチの氷やちょっとやそっとじゃ溶けへんでぇ……バッチリ決まったわー私達スゴーイ」
「フン、何だこんなもん、一発でぶち壊してやるギャ」
「ねえ、あんなこと言ってるよ五重丸、大丈夫なの?」
木の裏に隠れているリーちゃんは心配そうに訊ねた。
「高密度の分厚い氷でできているから頑丈だけどアイツの言う通り本気を出されたらすぐ壊されちゃうだろうね。だから次の作戦はこれだよ」
五重丸はリーちゃんにカチンコを見せた。そこにはこう書いてあった。
ガンガンいこうぜ
「……どっかで聞いたことがある作戦ね」
「オリを壊している暇もないくらい、たたみかけて攻撃をし、ヤツの動きを止めるんだ」
「そっか、じゃオレの出番ももうすぐだな。準備しとこ」
サンヨーはそう言って戦闘スーツを着直し始めた。




