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リーちゃんと家電たちの夏  作者: 大門しし丸
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7、リサイクルのリサちゃんへ

7、リサイクルのリサちゃんへ

 夏休み直前の7月のお昼時。太陽は雲の少ない空のてっぺんからじりじり照りつけ、外はこの夏一番、というくらいに暑い。

 外に出たリーちゃんは片目を(つむ)り、眩しそうに空を見上げた。


 「暑っ! だめだこりゃ。レイちゃん、ちょっとここで待っててね。忘れ物、忘れ物っと」


 と、言いながらレイちゃんを玄関前に待たせて何かを取りに家に戻っていった。しばらくするとピンクのキャップ帽をかぶり赤いリボンのついたショルダーバッグを肩に掛けて飛び出してきた。


 「お待たせー、さぁ行こ行こっ、こっちだよ」


 リーちゃんは飛び出した勢いでレイちゃんを追い抜き、手招きをしながら道路の方へ歩き始めた。


 松下家のあるこの辺りは、数年前から開発され始めた郊外のベッドタウン。電車の駅から少し離れていて街に出るには少し不便ではあるが、小さめのスーパーやお店なら歩いて行ける距離にあるので普段の生活には特に困ることは無い。

 車の往来も比較的少なく、よく言えば閑静な住宅街だ。


 そんなごく普通の住宅街を冷蔵庫を従えて歩く女の子。当然、目撃した人々はびっくらこいて大騒ぎに……なるはずだが特にそんな様子もなく、反応は至って普通だ。

 やはりこの手足の生えた奇妙な冷蔵庫はリーちゃん以外には見えていないようだ。

 いや、それだけではない。

 見えないから仕方ないのだが、リーちゃんの後ろを歩いているレイちゃんに横から歩いてきたおじさんがぶつかってきた……のだが、そのおじさんは、まるで何もないかのようにレイちゃんの体をすり抜けていった。

 おじさんは一瞬冷気を感じたのか、ぞくっとしたようなリアクションをとったが、そのまま通り過ぎていった。多分「気のせいかな?」とでも思ったのだろう。

 一方、すり抜けられたレイちゃんは、初めての事なので驚いたけど特にダメージはなさそうだ。

ダメージはなかったけど、おじさんが少し汗臭かったので冷蔵室の扉を開け「脱臭ボタン」を押した。


 「あースッキリした」


 「え?何が?」


 後ろで何か言いながらついてくるレイちゃんの方を振り向き、リーちゃんは集団登校の班長さんのような口調で注意した。


 「レイちゃん、そんなとこフラフラ歩いちゃダメよ。危ないからもっと道の端によってよって、それから横断歩道って言いうシマシマのがあったらね……」


 「右見て左見て手を上げて渡るんやろ?知ってるよ」


 リーちゃんの注意にレイちゃんは、食い気味に返事を返した。


 「へぇー、外に出たこと無いのによく知ってるね」


 「テレビで見た事あるもん。自分のことはよく分からんけど外の世界のことはそこそこ知ってるで」


 そうなのね、確かにベランダの窓際に置いてあるテレビはキッチンカウンター越しにレイちゃんから良く見える場所にあるし、それで見て色々知ってるんだ。お姉さん気取りが出来ると思っていたリーちゃんはちょっと残念そうな顔をし、軒先に咲いている朝顔を見ながら素っ気ない返事をした。


 「ふーん……」


 リーちゃんとレイちゃんは周りから怪しまれないよう小声で話しながら歩いて行った。

周りには同じような3階建ての家がずらりと並んでいる。それぞれの隣家との間隔は30センチほどしかなく、遠目で見るとまるでカステラを切って並べたようだ。所どころに田んぼや畑が残っており公園もあるので緑も結構多い。


 「次のドーナツ公園の角を曲がったらもう少しだよ」


 その公園にはまるでドーナツのようにペイントされた古タイヤと木材を使って作られたアスレチック的な遊具があるので近所の子供たちは「ドーナツ公園」と呼んでいる。

 ドーナツ公園を曲がると少し先にスーパーの看板が見えてきた。前には片側1車線の市道が通り、その両側に超有名なハンバーガーショップやラーメン屋、スーパーを中心にちょっとしたショッピングエリアになっていてリサイクルショップもこのあたりにあるらしい。

 信号のある交差点まで来たところでリーちゃんは立ち止まり、市道の向かい側をキョロキョロと見渡して、今いる所から少し離れた方を指さした。


 「ほら、あそこに看板が見えるでしょ」


 リーちゃんの指さす方に目をやると、ド派手な黄色い縦長看板が見えた。看板には「売ります!

買います! リサイクルのリサちゃん」って書いてある。

 横断歩道の信号がもうすぐ青になりそうだ。リーちゃんは物珍しそうに看板を見ているレイちゃんの前に手を出し、またお姉さんのような口調で注意した。


 「テレビで見たことあるかもしれないけど本物の横断歩道は初めてでしょ、信号が青になっても安心してホイホイ渡っちゃダメよ。ぼーそう族が走ってくるかもしれないから」


 「え?そうなの?警察庁24時みたいな?なんか怖いね」


 まもなく信号が青に変わり、リーちゃんは左右を見て右手をシュッと上げ横断歩道を渡り始めた。

 いつかテレビの「警察庁24時」で見た暴走族の場面を思い出し、ちょっとビビっているレイちゃんはキョロキョロしながら、ミーちゃんの左肘あたりをキュッと掴みながらそのあとをついて行った。横断歩道を無事渡り切り、そこから100mほど歩いて……


 「ハーイ到着でーす、暑かったねぇ。」


 二人は横断歩道あたりから見えた大きな縦長の看板のあるリサイクルショップの正面に到着した。

 店の前の5台ほど停められる第一駐車場は満車、自転車も10台ほど停まっている。土曜日なのでお客さんは多いようだ。

 入り口の横にはショーウィンドウがあり、おもちゃや家電製品が展示され、手前のワゴンには「どれでも100円」的な客寄せワゴンが置かれている。

 店に来た人たちは、そのワゴンの中をのぞき込んだり、ガサガサといじくりまわすが、結局何も手にせず店の中に入っていく。

 そうかと思えば、大きな段ボール箱を抱えたオタク風のお兄さんが、足早に自動ドアを抜け買取専用カウンターを目指して一直線に歩いてゆく。

 まぁ暑くなるこれからの季節は涼しい店内で暇もつぶせて、運がよけりゃ掘り出し物に出会えるかも……と、思ってやって来る暇つぶしに来ただけの人が一番多いのだが。

 とにかく色んな人達がリサイクルのリサちゃんにやって来る。


 一人でお店に入ったことはあまりないのでリーちゃんもドキドキ。でも今日はレイちゃんもいるからちょっぴり心強い。それに入らないとヴェーのおじさんも探すことができないし、勇気を出していくしかない。


 「さ、行くよレイちゃん」と小さく声をかけ、店に入っていく人達について行くように店内に入っていった。


 「わぁー、色んなものが置いてあるね、ボクと同じ冷蔵庫も売ってるかな?」


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