65、神社到着
65、神社到着
「ご乗車ありがとうございます、サンヨー家、サンヨー家でございます、お降りの際は足元に……」
「レジャズちゃん、もういいから」
両家は道路を挟んで5メートルちょいの距離。ほんの数秒しかかからないし、もちろん降りる人もいない。
関西系家電達二人が融合合体したせいか、無駄なボケが濃い目になったレジャズ。絶妙なタイミングでリーちゃんにツッコまれ、嬉しそうにコケけた。
声はすれども姿は見えず状態のサンヨーはベランダの外に手を伸ばしてみた。柵から10cm程の所で指先がスッと消えた。見えないけど、レジャズが目の前のいることを確認したサンヨーはベランダの物置に足をかけ乗り込もうとした。
「ちょっと待った」
空中にリーちゃんの生首がにゅっと現れた。周辺の住民は寝静まっているのでよいが、もし見られたら夏の夜の怪奇現象だって大騒ぎになるだろう。
「な、何だよ、急いでんだろ? 乗せろよ」
「ダメダメ、オシッコまみれの人は乗せられないわ。ジャブ君お願いね」
「ジャブ君、時間が無いから巻きでたのむよ」
「よっしゃ! 任されたっ、10秒や10秒だけ我慢して、騒いだりすんなよ……すんなよーわかったー?」
「へ?」
何の事やらさっぱり分からないサンヨーはベランダに立ちすくんだ。レジャズは両手をサンヨーにかざし、呪文を唱えた。
「丸洗い、超お急ぎコーーースッ」
すると、サンヨーの体がその場でクルクルと回転をし始めた、と同時に頭上から泡がドッと落ちてきてサンヨーを包み込んだ。
「わ……」
一瞬声を出しそうになったが、こらえた。すると次は、空中から棒状の水がジョロジョロ現れ、サンヨーの体にまとわりつき泡を洗い流しだした。
すすぎが終わった水はどこかへ消え去り、ゆっくり回転していたサンヨーの体は徐々に回転速度を上げ、コマのように激しく回り始めた。
水しぶきが飛び散りサンヨーの体と体操服から水気が取り除かれてゆく……
「ぷぷぷっぷぷぷぷーっ……」
脱水終了、回転がゆっくりと緩やかになり、スッと止まった。乾燥が終わったサンヨーはフラフラとその場にへたり込んだ。
「うう……目が回って気持ち悪い……ウェ~」
「おいおい、吐いたらあかんで。せっかく洗ったのに……ゲロゲローやめてー」
※「丸洗い」この魔法を使うと、洗濯物がおろしたてのようにきれいになる。様々なコースが用意されており、今回の「超お急ぎコース」だと10秒ほどで洗濯から乾燥まで終わってしまう。
魔法っぽさがあまりないが、忙しい主婦にはありがたい魔法だ。洗うものの大きさ、素材は問わないのだが……
「こ、この魔法、人間も洗ってよかったのかよ、ゲホゲホ」
「トリセツには『なんでも洗える』的に書いてあったから、ええんちゃうの? ……そやなあ、一応清潔にはなったみたいやし……そーそー、これなら乗ってもOKよー」
「でもさぁ、アイスとか洗ったら溶けてなくなっちゃうじゃない。ダメなものもあると思うよ、そう思わない? 五重丸」
「そうだねミーちゃん、洗うと壊れるものとか、生き物は洗っちゃダメかも知れないね。ジャブ君、もう一度トリセツを読み直した方がいいよ。生きてて良かったねサンヨー君、無事でなによりだ」
呆れ顔でぶっ倒れているサンヨーを、レジャズはそっと抱き上げ、背中に乗せた。まだ頭がくらくらしているサンヨーは、ボーっとした顔でレジャズに訊ねた。
「パジャマと布団は? 洗ってくれないのか?」
「今は急いでるからムリやな、作戦が終わってから洗ったるわ……忘れてへんかったら……えー、おねしょ布団放置ー?、くさーい、キモーイ」
ま、とりあえず、体はきれいになった。おまけにバラの花のようないい香りがサンヨーの体から漂ってくる。ジャブは上等な洗剤で洗ってくれたようだ。
「あんた、そのいい匂い全然似合ってないね」
「うるせーよ」
「しゅっぱーつ、しんこーぉ」
レイ太車掌の鼻にかかったアナウンスが流れ、みんなを乗せたレジャズは少しだけ高度を上げ出発した。
こうやって何度か空を飛んでいるが、夜のフライトは初めてである。月明かりと夜風が心地よく、まるで魔法のじゅうたんに乗っているようだ。
眼下には100万ドルの夜景……いや、せいぜい80ドルくらいの住宅街の町灯りを眺めながら、神社へと向かった。
やがて一行は住宅街を抜け、田んぼ地帯に差しかかった。街灯もなく月明かりだけが辺りをぼんやりと照らし出す。前方にいよいよ神社が見えてきた。
リーちゃん姉妹とサンヨーは緊張しているのか口数が少なくなり、ごくっと生唾を飲み込んだ。
「とうとう着いちゃったね」
「そうだな、着いちゃったよ」
レジャズは、あぜ道にスッと着陸した。ゲロゲロやかましく鳴いていたカエルの声がピタリと止む。リーちゃん達は周りを気にしながらそっと降り、レジャズは、子供の身長に合わせて小さくなった。
「じゃあ、準備を始めよう。まず初めに、神社の草むらに隠してある廃棄家電を、みんなで運んであぜ道に並べよう。リーちゃん達でも運べる小さなものもあるから」
地デジカが一晩がかりで集めた不法投棄の家電、これを神社の周りに並べて魔神オカマをおびき寄せる。これが五重丸プロデューサーの考えた作戦その1だ。
五重丸は生い茂った草をかき分け進んで行き、辺りをガサゴソ探し出した。そして突然探すのを止め、草むらから困った顔をのぞかせた。
「五重丸どうしたん?」
「無い、無くなってるんだ、ここに隠しておいた不法投棄の家電が……全部」
「無くなってる? そんなアホな……農家の人が片付けたんちゃうか……板っ切れとか被せて隠しておいたのにーサイテー」
ゴソゴソ……いつの間にか草むらに入っていたベフちゃんが出てきて、レジャズちゃんの方に駆け寄ってきた。
「ベフベフッベベベフッ」
「ホンマかいな! みんなえらいこっちゃ、ベフがこの辺に魔神オカマの匂いがするって。集めた家電はヤツが持って行ったんとちゃうか」
「そうか、昨日の夜、大勢の地デジカが集めているのに気づいて、盗りにきたんだな」
「どうする? 五重丸」
「ぶっつけ本番の作戦だから、この程度のアクシデントはなんてことないよ。今から集め直すわけにはいかないから、ボクの臨場感とレイちゃんの勝手に氷で何とかしよう」




