53、不法投棄とお父さんのアレ
53、不法投棄とお父さんのアレ
リーちゃんと家電達が暮らすこの街は数年前から開発され始めた郊外のベッドタウン。
昔は辺り一面、田畑が広がる田園地帯であったが徐々に宅地化が進み、カステラを切って並べたみたいな3階建ての家と、小さな公園がセットになった「○△タウン」的な一まとめの町がひとつ、また一つと田畑のカンバスの上にパッチワークのように描き加えられていった。
近頃、環境の良さが評価され宅地開発に加速がかかり、7階建てのマンションや単身者向けのワンルームマンションも建設され、ここを商機とスーパーマーケットにコンビニ、大手外食チェーン店も進出してきて、住民の数も右肩上がりだ。
住民が増え、街に活気があふれてくるのは良い事であるが、その反面ちょっとした事件もそう多くはないが増えてきている。
「ねえ、お父さん知ってる? あそこのゴミ屋敷、前よりちょっとすっきりしたから片付けたのかしらと思ってたけど、アレ片付けたんじゃなくって盗まれたんだってねえ」
夕食の時間、リーちゃんのお母さんが近所で聞いた世間話を話し始めた。
「あ、それこの前、集団登校の時見たよ。パトカーが来てお巡りさんとおっちゃんがケンカしてたよ」
「そうか、ここら辺も物騒になってきたな、うちも気を付けないと。それにしてもあんな粗大ゴミ誰が盗んでいったんだろ? 物好きな奴もいるもんだな」
お父さんはそう言って、少し残ってた缶ビールをキュッと飲みほした。
お母さんは、
(ホコリがたまるおもちゃを集めて飾るあんたも物好きだよ)
と思いながらハンバーグを飲み込んで話を続けた。
「ゴミって言えばさあ、最近そこいらに不法投棄されてる電気製品が無くなってるね。布団とかカラーボックスみたいなのはそのままだけど、なぜか電気製品だけ無くなってるのよ」
「ねえ、ふほーほーきって何?」
「ふほうとうき、だよリーちゃん。いらなくなったものを決まりを守らずに勝手に捨てることで、とても悪いことなんだ。あ、右のほっぺたにご飯粒がついてるよ」
リーちゃんが質問すると、誰よりも早く五重丸が教えてくれた。ついでにご飯粒のことも。
「あ、ほんとだ。ありがとね五重丸」
「?」
五重丸の答えにうっかり返事をしてしまったリーちゃん。
家電達の声が聞こえないご両親は、テレビに向かってお礼を言っている我が娘をボケてきたおばあちゃんを見るように心配そうに声をかけた。
「リー大丈夫? 誰としゃべってるのよ、五重丸って何?」
ほっぺたのご飯粒をつまみ取り、人差し指で口に入れようとしていたリーちゃんは視線に気付き、びっくり目ん玉になった。
(し、しまった!)
「あ、ああ思い出したのよ、勝手に捨てちゃダメってことでしょ? この前学校で習ってさ、ちゃんと答えてさ、五重丸もらってさ、よくできましたって。えーっと、ふとうほーき?」
思いっきりグダグダな言い訳をする我が娘を呆れ顔で見るご両親。
「なんだ、知ってるじゃない。でも『不法投棄』よ、ちょっと間違ってるからちゃんと覚えておきなさいよ」
「ほーい」
「……っつたくもう、3人ともベラベラしゃべってないで早くたべなさーいっ」
家電達のことがバレないかとヒヤヒヤしながら聞いていたミーちゃんが、キレた。
「はーい」「はーい」「ほーい」
父、母、妹はそれぞれ良い返事をして大人しく食べ始めた。そして、ミーちゃんは、小声でこっそりリーちゃんに注意のイエローカード。
「ダメじゃない、お母さんたちの前で五重丸と喋っちゃ」
「ごめん、ついうっかり……」
反省は、多分ほとんどしていないだろうが、姉として一応注意しておかないと。ため息をついてミーちゃんも食べ始めた。
「ハイ、ごちそうさまでした。では……」
早食いのお父さんが、いつも通り一番に食べ終わり、また話し始めた。
「明日から、ヤスイ電気さんが来て工事をするからな、ミーもリーも気を付けるんだぞ」
「えっまた何か買ったの?」
「何? 工事って何すんのさ」
「フフッそれはな……」
突然の発表にリーちゃん姉妹は食いつくように質問した。リビングとキッチンにいる家電達も興味津々だ。
「なんだろうね、工事のいる家電ってBSアンテナかな」
「まさかボクを買い替えるんやないやろうな、ボクお母さんに嫌われてるし」
「キューン……」
「心配せんでもベフは違うやろ。工事いらへんし」
「エアコンよエアコン! 夏で電気工事と言えばエアコンだしー」
みんながお父さんの発表を待った。リーちゃん姉妹と家電達にしか聞こえないが五重丸は気を利かしてドラムロールを流した。
ダララララララララララララララララララ……♪
「太陽光発電だよ。ソーラーパネルを屋根に取り付けに来るんだ。頭上注意だぞ」
ジャジャーン♪
工事が必要な家電、それは太陽光発電システムだった。土曜日の「屁こき娘事件」の時に言っていたアレとはソーラー住宅のことだったんだ。
新しいもの好きのお父さんは、五重丸を買った時、太陽光発電も一緒に契約していて、その工事が明日から約3日間の予定でやるらしい。
「なーんだ、しょーもなー」
「しょうもないなんて言うなよ。これからはそんな時代だし、今取り付ければ補助金とかも出て得なんだよ。それに余った電気は買い取ってくれるんだぞ。エコだよエコ」
「とにかく明日から工事の人が来るからね。邪魔しないようにね」
リビングの家電達、特にレイちゃんはホッと胸を、いやドアを撫でおろした。
「あーよかった。本当、モーターに悪いわ」
「ぼく達にとっても今、レイちゃんが欠けるのは非常に痛い。とりあえず一安心だね」
松下家のソーラー住宅の件はいいとして、町から忽然と消えた不法投棄の電化製品。一体だれが、何のために……?
そして、今夜も町のどこかで……
「ヤッパ、ヤスモンダカラ」
「そうか、じゃ来いギャ」
「オハライバコダナ」
「おまえもギャ、仲間だギャ」
「モウシワケナイガ、オヤクゴメンッテコトデ……」
「なんじゃそりゃ?それでどうしたギャ?」
「ナデデ、モラッタ、ゴクロウサマッテ」
「ケッおまえはダメだギャ、仲間じゃないギャ」
「タンクリヤクシブワ……ギャッ」




