52、コンポーダンボール
52、コンポーダンボール
小さな箱のようなもは、6個、ピラミッドのように積まれた状態で子供部屋に送られてきた。
リーちゃんはてっぺんのやつを1個取り、耳元で振ってみた。中は空っぽのようで何も音はしない。
「何なのこれ?」
リーちゃんはコンポーダンボールの臭いを嗅ぎながらヒエール様に訊ねた。
「それはコンポーダンボールといって、家電達の魂を捕獲する神具じゃヴェ。サンヨーが魔神オカマをSR-18から引っ張り出した後、暴れ出す前にそれで捕獲するヴェ」
「うそっホントに? こんなちっちゃい箱で本当にあんなのが捕まえられるの?」
「安心せい、大きさなどという概念は神具にはないのだヴェ。では、使い方を説明するヴェ」
タマシールにカミテレコン、そして今回のコンポーダンボール……ヒエール様がくれるものは、どれもこれも見た目はダサいものばかりだ。確かにそれぞれは人間界にない不思議な力を秘めているが、外観的デザインセンスは限りなくゼロに近い。
疑いの気持ちでコンポーダンボールをサイコロみたいに転がして遊んでるリーちゃん姉妹にヒエール様は説明し始めた。
「使い方は至極簡単、狙いを定めて相手に投げるだけじゃヴェ。小さなその箱は瞬時に標的を包み込むように展開し、ゲットして元の小箱に戻るヴェ。そしてこのコンポー……」
投げてゲット? まさかそれは……ミーちゃんは聞いたことのあるフレーズを聞き逃さなかった。
「ちょっと待ってヒエール様、それってモン○ターボールのパクリじゃないの?」
「な、何を言うかミーちゃんよ、神がパクリなどする訳なかろう。あっちのはボール、こっちのはダンボール、全然違うヴェ」
「だって、ゲットって……」
「どこにキャッチボールをして遊ぶとき、段ボール箱を投げるヤツがおるかヴェ? おらんじゃろ、逆にミカンがダンボール箱じゃなくってドッジボールとかに入っていたらむちゃくちゃ出しにくいヴェ? 何故かといえばボールと段ボールは全然違うものであって……」
「あーもう、分かった、分かりましたっ、もういいから続きを説明してよ」
ヒエール様はパクリ疑惑をきっぱり否定。グダグダと屁理屈を語り出した。面倒くさいので、とりあえず話の続きを聞くことにした。
「このコンポーダンボールは神具ではあるが、人間にしか使うことができないのじゃヴェ」
「ふーん、ま、ヒエール様達は動けないからどっちにしてもムリだもんね。あれ? じゃあ誰がやるの? まさか……」
なーんかイヤな予感が頭の中を過った。サンヨーはオカマを引っ張り出すので、いっぱいいっぱいだし、あと人間といったら……?
「この重要な役割をリーちゃん姉妹にお願いするヴェ。リーちゃんは我が見込んだ勇敢な女の子じゃ、姉のミーちゃんと一緒ならきっとうまくいくヴェよ」
「えーーーーーーーっ」
イヤな予感的中、大通りの横断歩道を渡っただけで「勇敢な女の子」扱いされているリーちゃん。不思議なことは大好きで好奇心旺盛ではあるが、それほど勇敢ってことはない。
まあ、サンヨーよりはマシだが。
「あたしに出来るかなあ、こんなのやったこと無いし」
「誰でも最初は初心者ヴェ、簡単なことじゃ、何度かやれば上手く出来るようになるヴェよ。おーい、ジャブよ、そこにおるかヴェ?」
「ん? おるけど、なんか用?」
壁によっかかって座っていたジャブ君はこっちを見て返事した。
「リーちゃんよ、コンポーダンボールをジャブに投げつけてみい、うまく当たればジャブを封印できるヴェ」
「ちょ、ちょっ、ちょっと! 待ってぇや! 何でオレを封印すんねん。何にも悪い事してへんやん」
いきなりの封印宣告に慌てふためくジャブ君。2段ベッドの上に駆け上がり、不安げに顔だけ出してリーちゃんの方を見ている。
「ジャブよ安心せい、本気でお前を封印しようというのではないヴェ。リーちゃん達の練習相手になってやってほしいのじゃヴェ」
「練習って、コンポーダンボールの?」
「そうじゃヴェ、練習がいるほどのものではないが、ぶっつけ本番じゃと不安じゃろう。どんなものか、お試しで使っておいたほうがよかろう」
「なるほど、そりゃそうやな。でも何でオレでお試しするん?」
「何となくじゃヴェ。オイシイ役まわりはお主好きそうじゃからの」
「……嫌いじゃないけど……ま、しゃーないな、ほな、リーちゃん遠慮なくぶつけてや。中途半端やとかっこ悪いからな、ほんでヒエール様、一応聞くけどこれ、痛くない?」
ジャブ君が質問したその後、ヒエール様からの回答がない……いやーな沈黙。ひょっとしてメチャ痛いの? ジャブ君は再び不安げな顔になった。そして沈黙の後、ヒエール様から申し訳なさそうな返事が返ってきた。
「すまんのうジャブよ。気の利いたボケが思い浮かばんかったヴェ。我もまだまだ修業が足らぬようだヴェ」
「なんやそれ、もうドキドキするやん。ほな、痛くないちゅうことやな。リーちゃん、ちゃっちゃとやってしまおうや」
「わかったわ、じゃ行くわよ。行けっコンポーダンボール!」
リーちゃんは特に必要のない掛け声をかけ、コンポーダンボールをジャブ君めがけて投げつけた。
2段ベッドの上にいるジャブ君との距離約3メートル。要望通り遠慮なく投げつけられたコンポーダンボールは、ジャブ君の目の前まで飛んできた。
「あ、当たるっ」
と、思ったジャブ君の目の前でコンポーダンボールは宙に浮いたままピタッと静止した。
「あれ? 何で止まったん?」
次の瞬間コンポーダンボールはパタパタと平面状になり、十字架のような形に変形した。
「おお!十字架みたいや、見た目は神具っぽくなったな」
などと思っていると、6面体の展開図のように開いた十字架は輝き出し、折りたたまれた蛇腹が拡がるようにジャブ君の体を包み込んでいった。
「わわわ何やこれぇ、キモいで」
ジャブ君は逃げるようにベッドの上から飛び降りた。しかしコンポーダンボールはジャブ君をロックオン、追尾しながら拡大を続けていき、とうとうジャブ君を完全に包み込んでしまった。
「や、やられたぁ」
コンポーダンボールは輝きを少しづつ弱めながらキュッと小さくなり、元の小箱に戻り床にコロリと転がった。
「やったぁ、ジャブ君捕まえたーっと。大丈夫? 苦しくない?」
「ああ、別に苦しくはないで。逆に居心地はいいくらいやで」
その様子をカミテレコン越しに聞いていたヒエール様は、自慢げに話しかけてきた。
「フォフォッどうやら上手くいったようじゃの。これが神具コンポーダンボールの力じゃヴェ、封印された魂はどうあがいても中から出ることはできないのじゃヴェ」
「あとは捕獲したコンポーダンボールを我らが回収し、言霊の契約を解除すればミッション終了ダォ。めでたし、めでたしダォ」
「心配なのはサンヨーだボー。やんちゃだがちょっとビビりな所があるから心配だボ」
「フム、DSというニンジンを目の前にぶら下げておるから、勢いでやってくれると期待はしておるが、魔神オカマを目の前に怖気づいてしまわないかのう……心配だヴェ」
「あの……すんまへんけど、そろそろ出してもらえへん? 忘れてない? オレのこと」
放置されていたジャブ君が、コンポーダンボールの中からぼやいた。




