51、キヲク
51、キヲク
この数日リーちゃんは不思議な家電達と出会い、家電達のことも受け入れ、結構理解している、と思っていたが、まだまだ知らない事があるようだ。
分からない事は……あの御方、ヒエール様に聞いてみよう。
「もしもーし、ヒエール様ぁ」
聞いても半分ほどしか理解できないが、全然分からないよりはマシだ。
「おお、リーちゃんよ、オヤツは無事だったかヴェ? 先ほど上空で一瞬、邪悪な気が弾けたのが感じられたが何か見たかヴェ?」
「あーそうそう、魔神オカマがまた現れたのよ。それでね、すずちゃんが気を失ってね、ベフちゃんが……」
……と、まあ、ざっくりと帰る途中の出来事を説明した。ヒエール様は凍り付いて全身が冷凍庫になるかと思うほどビックリした。
「リーちゃんよ、冷蔵庫をヒヤヒヤさせるもんじゃないヴェ。危ないところじゃったの、おそらく奴は自ら水蒸気を発生させ、隠れ家用の雲を作り出しておるのだ。地上に降りるときは人に見つからないよう小さくなって降りてきておるのじゃろ。奴は何を企んでいるのか判らんヴェ、もう面白半分に雲に近づいてはダメじゃヴェ」
「わかった、気を付けるわ。あとねえ、すずちゃんが扇風機に戻った時、出かけている間にあった事が分かるって言うんだけど、何でかしら」
「フム……」
リーちゃんの質問の答えはすぐに分かった。
それは家電が元々持っている「キヲク」のことだ。家電の本体に起こったことの記録で、自我を持ち成長してゆく生命のようなものではなく、たとえば何時にスイッチを入れた、切った、故障した、修理した……ありとあらゆることがログとして淡々と記録されてゆく。
その扇風機のキヲクを、貼りつけられたすずちゃんの魂が戻った時、自動的に読み取り、離れていた間に起こったことが分かるのだ。
これを一年生のリーちゃんに説明しても、半分どころか余計に分からなくなるヴェ、と思ったヒエール様は……
「フォフォッ我ら家電はそういうもんじゃヴェ、リーちゃんは気にしなくてよいヴェ」
めちゃくちゃ適当な答えを返した。
「ふーん、そうなの。不思議ね、家電達って」
リーちゃんもリーちゃんで、その適当な答えにあっさりと納得した。
小学一年生、周りにある物ほとんどが仕組みの分からないブラックボックスばかりだ。一個くらい増えてもぜーんぜん気にならないのだ。
「いーなぁそれ、算数の時間とかに寝てても覚えられるってこと? うらやましいな」
「何言ってんのよサンヨー、寝てたら先生に怒られて起こされるでしょうに」
「だよな、でもオレ、計算とかしてるとすごく眠たくなるんだよ。何とかならないかな」
それは何ともならない、頑張れサンヨー。
「リーちゃんよ、今からサンヨー君用のカミテレコンを送るから使い方を教えてやってくれヴェ、形は違うが使い方は一緒じゃから。じゃ、ヒエヒエホイっと」
ヒエール様が呪文を唱えるとリーちゃんの目の前に野球帽が現れた。サンヨーの被ってきたものとそっくりだ。リーちゃんはビビっているサンヨーの横に放り投げてあった野球帽を拾い上げ、見比べてみた。汚れているところや内側の汗じみとかもよく再現されている。
「うわ臭っ! 臭いまで一緒だ。ホラこれかぶって前についている野球のマーク取ってごらん、ボタンがあるでしょ、これ押したら神様としゃべれるから。パケ代とかはいらないし大丈夫よ」
リーちゃんはポカンとしているサンヨーの頭に、カミテレコンの帽子をギュッとかぶせ、使い方を簡単に説明をした。サンヨーもリーちゃんがカチューシャで話しているのを見ているので、特に疑う事もなく話し始めた。
「もしもーし」
「おお、サンヨー君よ、帽子の具合はどうじゃヴェ?」
「うん、オレの帽子とそっくりでサイズもぴったりだよ。すごいなコレ、くれるの?」
「そうか、よかったヴェ。それではさっきの続きじゃが、汝はSR-18にタマシールを貼り、更にダークネームを付け魔神オカマを誕生させてしまった、知らなかったとはいえ、奴を創ったのは汝なのじゃ。そして奴を封印するには汝の協力が不可欠なのじゃヴェ」
ムリだよ~あいつとんでもない化け物だしこっちは子供だぜ?
男の子はみんなヒーローだから勇気を出して戦えってか?
ムリムリ、絶対ムリ。
サンヨーの頭の中は「ムリ」というカタカナ2文字で埋め尽くされた。
そりゃそうだ。相手は殺る気満々の魔神オカマ、勝てっこないわな。
「ムリだよヒエール様。オレそんなに強くないし、アイツめちゃくちゃ強そうだし……」
カミテレコン越しに伝わってくるサンヨーの弱気にヒエール様達は、顔を見合わせフムフムうなずいた。
「サンヨー君、我は魔神オカマを汝一人で倒して来いと言っているのではないヴェ。前にも言ったが魔神オカマをSR-18本体から引っ張り出せるのは汝だけなのじゃ」
「サンヨー君にお願いしたいのは、そこんトコロだボー。もちろんレイ太や五重丸も協力してくれるボー。汝に危険が及ばぬようしっかりサポートしてくれるボ? そして……」
「そして……何?」
ペタンコ様の言葉に逃げ腰だったサンヨーも耳を傾け、聞き返した。
「我らに協力し、みごと奴を封印できた暁には汝に褒美を授けるヴェ」
「え? 褒美? なんかくれるの?」
食いついた。普段怒られることの方が多い彼にはご褒美は最高のエサだ。
「そうじゃヴェ、不老不死とか宇宙の支配者だとか、とんでもないものは叶えられぬがのう。そこそこの物なら何でもOKじゃヴェ」
「じゃオレDSがいいな、ソフトもいっぱいつけて」
「分かったヴェDSとソフトじゃな、お安い御用じゃヴェ。では、この大役、引き受けてくれるヴェか?」
「やるやる! 引っ張り出した後はヒエール様達で何とかしてくれるんだろ? よっしゃーDSゲットだぜ」
散々ひどい目にあっているのに、ご褒美に目がくらみ、危険なミッションをあっさりと引き受けたサンヨー。もうDSをもらったかのようにガッツポーズをした。
その話を横で聞いていたリーちゃん姉妹も黙ってはいない。
「えー! サンヨーだけずるーい、あたしも何かちょーだい」
「そうよ、私たちだって協力するんだからさあ、不公平よ」
「ヴェヴェッ」
リーちゃん達まで……ヒエール様は一瞬ひるんだが、ま、ミーちゃんの言う通りサンヨーにだけ褒美を出すのは不公平じゃ、とヒエール様は思った。
「承知したヴェ、ではこの件が解決した暁にはリーちゃん達にも褒美を授けよう。で、何がいいヴェか?」
「あたしダイニングテーブルとお食事セットがいいな」
「私は赤い屋根の大きなお家がいいな」
ダイニングテーブル?ああ、ヒエール様を探しにリーちゃんと初めてリサイクルショップに行った時、欲しがってたアレか、とレイちゃんは思った。でミーちゃんの大きなお家って……?
「承知したヴェ、テーブルと家じゃな。それにしてもさすがミーちゃんはお姉さんじゃの。不動産を欲しがるとは、もうその年で将来のことを考えておるのかヴェ」
「え? 不動さんって誰?」
果たしてリーちゃん達は無事、魔神オカマを封印し、希望通りのご褒美を受け取ることができるのだろうか。それは神のみぞ知る……いや頼んだ神様が大ボケしそうなので、それは神にも分からない。
「じゃ、オレそろそろ帰るわ、お邪魔しましたー」
サンヨーはそう言って嬉しそうにスキップしながら帰っていった。頭の中は「ムリ」から「DS」に完全に書き換わっているようだ。
「あっ! あいつ自分の汚い帽子置いて帰ったよ、どうする?」
「届けに行ってもややこしい事になるし、袋に入れてベッドの下にでも隠しときなよ」
「えー、臭いのにー」
リーちゃんは迷惑そうにサンヨーの帽子をつまみあげ、お菓子の入っていたレジ袋に入れて、くしゃくしゃっと丸めた。
「ところでヒエール様、サンヨー君に引っ張り出してもらった魔神オカマの魂。その後どうするんですか?」
「それはの、これを使うんじゃ、ヒエヒエホイっと」
レイちゃんが質問すると、ヒエール様は何かを送ってきた。光が止むとそこには茶色で四角い箱のようなものが現れた。大きさは縦横3センチ位か。リーちゃんはそれを拾い上げ、聞いてみた。
「ヒエール様、これ何?」
「フォフォ、それは神具コンポーダンボールじゃヴェ」
コンポーダンボール? それって……




