50、コードは抜かないで
50、コードは抜かないで
「日立さん見て、珍しい雲ねえ、あの辺に小さい穴が開いたと思ったらホラ、どんどん穴が大きくなっていくよ」
「本当、ドーナツみたいになってきたわね、あーちょっと小腹が空いてきたわ」
「そうね、これ干したらオヤツにしなきゃ。リーもそろそろ帰ってくるだろうし」
リーちゃんのお母さんは、お隣の奥さんと珍しい気象現象を見ながら、物干し竿に洗濯物を干し直していた。その雲の中で我が娘がエライ目にあっているとも知らずに。
そして、誰もいないリビングにジャブ君がコソッと降りてきた。すずちゃんの本体はテレビの画面の方に顔を向けてコードが抜けたままほったらかしにされている。
「ありゃありゃ、コードが抜けとるやないか、急に気を失ったのはこのせいやな、ほな、挿しとこか、んしょ」
ジャブ君は扇風機のコードを近くの延長コードに挿し直した。扇風機の羽根は回転し始め、首もゆっくりと動き出した。するとほぼ同時に子供部屋から歓声が上がった。
ジャブ君はそれを聞いて二ッと笑い、扇風機の方向を直して子供部屋へと向かった。
間もなくジャブ君と入れ替えに洗濯物を干し終えたお母さんが、オリジナルソングを口ずさみながらリビングに戻ってきた。
「♪さぁてさて、オーヤツオヤツっと♪あれ?扇風機動いてる? なんで? コンセント挿したっけ、えーっと倒してぇ起こしてぇそれから……アハ♪覚えてなーい、年かしらん♪」
主婦はとっても忙しい。コンセントに挿したかどーかなんて、どっちでもいい。ちゃっちゃと家事をこなしていかないと……お母さんはサラッとスルーしてオヤツの準備に取りかかった。
「ミッション終了~すずちゃん起きたか? 何か知らんけどお前のコード抜かれてたわ」
「そうなのー? ありがとうねジャブ君、あー? 私、顔のココへこんでるー、やーんサイテー」
すずちゃんはお母さんに倒された時、へこんだところをさすりながらぼやいた。
「すずちゃん、へこんだところは後で直してもらおう。とりあえずリーちゃん達を玄関まで下ろして普通に外から帰ってきたことにしなくちゃ」
五重丸の言う通り、リーちゃんとサンヨーはお母さんから見れば、まだ帰ってきてない事になっている、靴も持ってるし。
二人と五重丸はジャンボデッキに乗り込み、子供部屋の窓から玄関へ降りていった。出発した時のように家の隙間にコッソリ降りて、空を見上げた。入道雲はもうほとんど消えかけている。「あんな高い所から落ちかけたんだ、あーコワ」二人は眩しそうな顔でため息をつき、リーちゃんはドアホンのボタンを押した。
「ただいまー、のど渇いたよー、サンヨーもいるしー」
リーちゃんは恰も今帰ってきたかのようなふりでドアホンに話した。まもなくお母さんがドアを開けてくれ、「リーちゃん普通に帰宅」のシーンは終了。
「完璧だね、リーちゃんのさりげない演技。大きくなったら女優になったらいいのに」
「五重丸、感心してんと、ボク等も戻るで」
プロデューサー目線で感心している五重丸を乗せジャンボデッキは子供部屋へ向かった。
「あーっオレのラッキーターン半分以上食べてるし」
「あら、これ三井君のだったの? 知らなかった、食べ出したら止まらないのよねーラッキーターン」
「残ってただけマシじゃない、お母さんがサンヨーの分もオヤツ用意してくれるからそれでチャラにして、ごめんねぇ食いしん坊な姉で」
「何よリー、あんた保護者みたいに」
レイズ達が戻ってみると子供部屋では、サンヨーとリーちゃんが「姉のオヤツ食べすぎ被害」に関する示談交渉の真っ最中。
「ヘブレ、ヘブレ」レイズはバビエオを解除し、レイちゃんとすずちゃんに戻った。
「リーちゃん、オヤツも大事だけど、すずちゃんのことも考えないとね。空を飛ぶーんは便利だけど、今日みたいなことが又あったら危なくてしょうがないよ」
「そうね、今日はベフちゃんが助けてくれたからよかったけど……えーっと、コードを抜かれないようにするには……あっそうだ、いいこと考えたーっと」
リーちゃんの頭上に100ワットの電球がピカーっと輝いた。何か思いついたように立ち上がろうとすると、「コンコン」ドアをノックする音がした。
「はーい」という間もなくドアがカチャっと開き、外面笑顔のお母さんがお菓子の入ったカゴとオレンジジュースを持って入ってきた。
「はいどうぞ、仲良く食べるのよ、こぼしちゃダメよ」
「ありがと、あ、お母さん、この扇風機なんだけど2階の扇風機と換えてもいい?」
「え?どうして?こっちの方が新しいのに」
「ねえ、いいでしょ?2階のヤツの方があたし好きなの、ね? ね?」
「べ、別にいいけどぉ?」
「やったぁ、じゃお姉ちゃん運ぶわよ、手伝って」
なるほど、子供部屋で使ってるただの扇風機とすずちゃんを交換して3階に上げてしまえばコードを抜かれる心配はグッと減る。お母さんの気が変わらないうちに姉妹は扇風機を持って階段を降りていった。
「プス」また、すずちゃんが気を失った。リーちゃんが電源コードを抜いたようだ。
「わっしょい、わっしょい」2階からお神輿を担いでるような掛け声とともにすずちゃん本体が子供部屋に運び込まれ、本棚の横にトンと置かれた。早速電源コードを挿すと、気を失っていたすずちゃんが目を覚ました。
「あっわたしだー、ありがとーね、リーちゃん。これで3人でガールズトークできるねー」
「うん、それとねぇ、これにこう書いてっと……」
リーちゃんは夏休みのプリントをランドセルから取り出し、床に寝っ転がり何かを書き始めた。
「ジャーン、これでどう?」
リーちゃんが自慢げに見せたのは「夏休みのカレンダー」予定はまだ書かれていないが「夏休みのお約束」のところに何か書かれていた。読んでみると……
~~~~~夏休みのお約束~~~~~
1、白分で早おきをする。
2、白分のへやをちゃんとかたづける。
3、
「いい考えだね、お母さんもお約束の邪魔をするわけにはいかないからね」
「リー、あんた自分の『自』横棒が一本足らないわよ、それと3つ目のお約束は書いてないけど、どうするの?」
「3つ目はお母さんと考えるのよ、プリント見せた時、お母さんが考えたお約束で3つになったら困るし。先に書いておいたら、それ見て部屋のもの触らなくなるでしょ。ハイ、直したわよ。これでいい?」
~~~~~夏休みのお約束~~~~~
1、百分で早おきをする。
2、百分のへやをちゃんとかたづける。
3、
「……消しゴムで消して書き直し。あんたお約束の3つ目は『漢字を覚える』にしたら?」
「ぶー」
リーちゃん、知恵はよく回るようだが漢字はイマイチ。夏休みはしっかり勉強をした方がよさそうだ。
「リーちゃん、わたしそろそろ戻るねー。戻るって言ってもここだけどねー」
すずちゃんが本体にスッと手を伸ばすと、ちゅるんと本体に吸い込まれていった。本体に戻ったすずちゃんはガードのへこんだところをさすりながら、ウンウンとうなずいた。
「そーなんだ、お母さんがコードを足に引っかけて倒しちゃったんだー。その時ここがへこんだのねー」
「え?すずちゃん何でそんなこと分かるの?」
「んーよく分からないけど、分かるんだー」
分からないけど、分かる? そんなこと言われてもよく分からない。
分からない事はヒエール様に聞いてみよう。




