49、マーキング!
49、マーキング!
リーちゃん達が入道雲の中で魔神オカマと遭遇しているちょうどその頃、松下家では……。
一年生が下校したころに降った通り雨もすっかり止み、真夏の青空が広がっていた。
「よっしゃー」
お母さんは、さっき慌てて取り込んだ洗濯物をベランダに干し直そうとソファーから気合を入れて立ち上がった。
テレビの前に置いてある、生乾きの洗濯物がどっさり入ったカゴをよっこらしょと持ち上げ歩きだした。と、その時、足の指に何かが引っ掛かった。
「わっ!」
「ガチャ」
「ドサッ」
お母さんは、膝まづくように倒れ、洗濯物が辺りにぶちまけられた。
「もぉ~何? あ、扇風機か。痛ったぁ~」
洗濯物カゴで足元が見にくかったのか、お母さんはベランダの前を横断している扇風機のコードに足を引っかけ、倒れてしまったのだ。
扇風機のコードはコンセントから抜け、本体もバッタリ倒れてしまった。
「あらぁ、ちょっとへこんじゃった。んーまぁいいか、羽根には当たらなそうだし」
お母さんは倒れた扇風機を起こし散らばった洗濯物を片付け始めた。
こんなこと、どこの家でも起こりうるちょっとしたアクシデント……なのだが、コードが抜け電源が断たれた事により、空の上では大変な事に……
「キャーーー! 落ちるぅぅぅ!」
すずちゃんが電源断で気を失ったことにより、飛行能力を失ったジャンボデッキは、地上に向かって真っ逆さまに墜落していった。
「なんやなんや! 落ちてるやないか? どないなっとんねん」
「すずちゃんの本体に何かあったみたいだ! このままだと地面に激突しちゃうよ」
「そやそや、ヤバいで、レイちゃん、何とかならんのかぁぁー」
「そ、そんなこと言っても……」
レイちゃんは鳥が羽ばたくように手をバタバタしてみた! ……やっぱり飛べるはずがない、だって冷蔵庫だし。
ヒエール様の説明ではたとえすずちゃんがバタンキュー状態でも、ベースのレイちゃんは、すずちゃんの魔法を使えるはずなのだが、電源断はまた勝手が違うようで、魔法を使うことができない。こりゃ非常にマズイ。
「とにかくみんな、落ち着いて! ボクがパーシャルで守ってるから大丈夫、ケガはさせへんでぇぇ」
レイちゃんは乗客を安心させるよう、まかせとけって感じで言った。
レイちゃんの言う通り、ジャンボデッキの乗客はパーシャルのシールドで守られている。ダメージはベッドの上にドサッと倒れ込んだくらいで済むはずだ。
しかし、パーシャルの魔法は冷蔵庫が食品の鮮度を保つ機能が魔法化されたもので、主に温度、湿度を相手が快適に過ごせる環境にする程度の魔法であって、外部からの衝撃から保護するものではない。
だが、外部から強い衝撃が加わるとシールド効果が自動的に発動し、ダメージを最小限に抑えてくれる。
そして、その抑えた分のダメージは、
「痛いの痛いの飛んでけー」って……
消えてなくなる訳ではない。必ずどこかにしわ寄せがくる。
そのしわ寄せはどこに来るかと言うと……
魔法を使った者、つまりレイちゃんに返ってくるのだ。
空高くから落下し地面に叩きつけられるダメージは相当なものだ。いくら家電最強のパワーと体力を持つ冷蔵庫のレイちゃんでも、ヘタすりゃ、
「死んでまうな、ボク……」
「なにー? レイちゃん、何か言ったー? 聞こえなーい」
「い、いや何でもない、しっかりつかまっときやー」
落下スピードはどんどん加速していき、風切り音でお互いに言っていることがよく聞こえない。
後方からは魔神オカマの攻撃がどんどん迫ってくる。魔神オカマを中心にサーカスの火の輪くぐりみたいなオレンジ色の輪が拡大し、入道雲を蒸発させてゆく。
「わーっ来るでぇ! すずちゃんまだアカンのかいなー」
「アカンみたい、全然反応がないわ」
(これからって時なのに、ボクはここまでか……いや、でも何とか耐えて生きていられたらヒエール様が何とかしてくれるはず、ボクはリーちゃん達を守るために生まれてきたんやし……諦めへんでー)
レイちゃんは腕をグンと伸ばし、衝撃に備え頭をガードするように構えた。
乗客のみんなも必死にジャンボデッキの背中にしがみついている。
その時、ジャンボデッキの上をぴょんぴょんと飛び越え前に走ってゆく家電達がいた。
ベフだ!
「ベフちゃんそんな前に行っちゃ危ないわよっ、おすわり、おすわり」
「フガッベフベフベフ」
「え? 何? ねえジャブ君、ベフちゃん何て言ってるの?」
「僕にまかしてって言ってるでー」
「えー! 何する気なのー」
ベフはまっすぐ前を睨み付け、シッポコードを目いっぱい伸ばした。シッポコードはカウボーイの投げ輪のように大きな輪を作り、ジャンボデッキの真上でクルクル回転し始めた。
「アオーーーン!」
ベフちゃんが狼のような遠吠えをするとシッポコードの輪が青白く光り出し、アッという間に、ジャンボデッキの上から下へシュッと通り過ぎた。
すると、ジャンボデッキは遠吠えの余韻を残し、空の上から姿を消した。そしてその直後、今の今までジャンボデッキのいた所に魔神オカマの放ったオレンジ色の輪が雲を切り裂くように通り過ぎていった。
「ボリボリボリ、あーウマ、ラッキーターンウマすぎ~それにしても何だろこのオヤツ。3時前から子供部屋にレジ袋ごと置いてあるけど、ボリボリ、あ、ひょっとしてサンタさん? 違うかー、今は夏だし、ボリボリボリ」
妹が大ピンチって時に出処不明のオヤツをボリボリ食べているお気楽ミーちゃん。ラッキーターンの包み紙をゴミ箱にポイっと投げて、ベッドにゴロッと横たわった。
ボーっと天井を見ていると、いきなり青白いリングがモワッと現れた。
「わっ! なになに?」
ミーちゃんは弾けるようにベッドの隅に避難した。すると天井の青白いリングの中からベフが、続いてリーちゃん、サンヨー、そして家電達がボテボテっと落ちてきた。
「ちょ、あんたたちどこから来たのよ! あっ靴、靴、布団が汚れちゃうよ」
「アタタタタ、あれ? ここ、あたしの部屋じゃない、どーして? でも、助かったぁ」
「べ……ベーフベフ……」
「マーキングベフだよ、って言ってるで、何か知らんけど」
※「マーキングベフ」ベフは今いる場所からマーキング(オシッコ)した場所へ瞬間移動できる。その時、自分だけでなくマーキング(オシッコ、なめる等)した相手も一緒に連れていくことができる。魔力をかなり消費するので頻繁には使えない。
「そっかあ、ベフちゃんが助けてくれたんだ。ありがとね」
「ハァハァ……ベフベフ……」
リーちゃんはぐったりしているベフちゃんの頭をなでながら、カミテレコンでベフちゃんの状態をチェックしてみた。「あ、やっぱり」ベフのボタンは赤になっていた。そして、よく見るとすずちゃんのボタンが点灯していないのに気づいた。
「ベフちゃんお疲れ……戻った方がいいね、あれ? すずちゃんのボタンどうしたんだろ、点いてないよ? ジャブ君ちょっと見てきてよ、あたし達まだ帰ってない事になってるし」
「よっしゃーまかしときー……って今日のオレ、パシリ的なことばっかりやな、ま、いいか。ほなちょっと見てくるわ」
ブツブツ言いながらジャブ君は、階段を降りていった。




