48、オヤツを確保せよ
48、オヤツを確保せよ
リサイクルショップへ出かけた時、子供部屋に置いてきたサンヨーの手土産。それが今、午後の授業を終え帰宅し、小腹の空いたミーちゃんの胃袋に吸収されようとしている。
「ボリボリボリ……あーウマ。早く帰ってこないとぜーんぶ食べちゃうよ~ボリボリ」
プチ
通信が途絶えた。
リーちゃんは呆れたような顔で話の内容をサンヨーに伝えた。内容と言ってもほとんどないのだが、
「学校から帰ってきたうちの姉があなたの持ってきたお菓子を勝手に食べてるわよ」と。
「うわ、オレのおやつが……」
それを聞いてサンヨーは焦った。お母さんが持たせてくれたお土産であるが、サンヨーの今日のおやつも兼ねているのだ。
「大変だわ、急いで帰らないと全部食べられちゃう。レイちゃん、すずちゃん早く早く、帰るわよっ」
急にバタバタと帰ろうとするリーちゃんをヒエール様は慌てて呼び止めた。
「リーちゃんよ、ちょっと待ってくれ、魔神オカマの話はまだ終わっておらんヴェ、いくらミーちゃんが食いしん坊でも、二人分の菓子を一人で全部食べたりしないヴェ。ちゃんと残しておいてくれるヴェ」
「残しておいてくれるけど4個あったら3個食べてしまうヤツなの、お姉ちゃんは。ほら、行くわよ、魔神のことは神様たちでゆーっくり考えといて。じゃ、また明日ね」
そう言いながらリーちゃんはサンヨーのシャツを引っ張りジャンボデッキに乗せ、せかせかと帰っていった。残された神様たちはため息をついて話し始めた。
「ハァ……リーちゃんにはかなわんのう。魔神とオヤツとではオヤツの方が重要なのかヴェ」
「今日のオヤツは今日食べなきゃいけないボー。育ち盛りの子供たちじゃ、仕方ないボー」
「とにかく今のSR-18はかなり危険な存在になっているダォ。家電達がついているとはいえリーちゃんらの手に負えるか心配ダォ」
「この件に天界が気付き、介入してくると厄介だヴェ。それまでに何とかSR-18を確保し、魔神オカマの魂を封印せねば……」
天界の神は万物に対して平等である。一方を善、対する方を悪と決めつけ、どちらかの見方をするようなことはない。
人間たちにとって善であっても他の生物、はたまた地球から見ればそれは悪かもしれない。どうするかは人間と他の生物、地球、お互いが決めることだ。
その結果人間が滅んでも神様は気にしない。別の種が大地の支配者となりまた何かが始まるだけだ。
ただ、今回のように地上を守護するヒエール様達が創り出したものにより誕生した魔物となると話は別だ。ヒエール様達は今、魔神オカマを悪とし、リーちゃん達人間を善とし、魔人オカマを封印しようとしている。
これはすべての物に平等というスタンスに反するし、神が創造した魂をいじくりまわした結果生まれたものであるからして、天界も黙ってはいないだろう。
最悪、この件にかかわったもの全てを消滅させ、無かった事にすることもあり得る。天界の神様はそんな暇ではないのだ。
「ねえねえ、レイズちゃん、この前雲の上に行ったでしょ? 雲って綿みたいにフワフワしてるの?」
けっこうデンジャラスなことに巻き込まれている事も知らず、ジャンボデッキの上ではしゃぐリーちゃん。目の前の大きな入道雲を見て、レイちゃんに訊ねた。
「いや、下から見てると白い綿みたいやけど中に入ると霧の中にいるみたいやで……そうそう、乗ったり触ったり出来ないのー」
「ふーん、そうなの」
ちょうど入道雲の下を通過した時、リーちゃんは目をクリクリさせてニコっと笑い、レイズちゃんの背中をポンポンと叩いた。
「レイズちゃん、ちょっと上に行ってみようよ、あたしも雲の中入ってみたーい」
「え? 今? オヤツは大丈夫なん……そうよー、ミーちゃんに全部食べられちゃうよー」
「ちょっと見てみるだけよ、お願ーい」
もう、言い出したら聞かないんだから……
「理科の勉強にもなるしいいんじゃない? ちょっと雲の中を見学してすぐ巻きで帰ればロスも大したことない、大丈夫だよ」
「ほら、五重丸もそう言ってるし、行ってみようよ」
「まあいいか、今日はアイツもいないだろうし……じゃ、上にまいりまーす、ブーン」
レイズは前進速度を緩め、ヘリコプターのように垂直上昇を始めた。パーシャルの効果で気圧の変化は感じないが、町並みがグングン小さくなってゆく加速感にリーちゃん達は楽しそうにキャーキャーはしゃいだ。
「わー、ホントだ真っ白で何も見えないねー、あ、あっちにも小さい雲があるけどあれにも乗ったり出来ないんだね」
「そやな、雲は雲やし、ここと一緒やで。ほなボチボチ帰ろか」
レイズは入道雲の特別授業をさっさと切り上げ、家に帰ろうとしたその時、低く恐ろしい声がかなり近い所から聞こえた。
「おまえらまた来たのかギャ、今度は逃がさないギャ……」
ま、魔神オカマだ! 奴はずーっと空の上にいたのか? リーちゃん達は不安そうな顔で、レイズちゃんは臨戦態勢に入り辺りを見回した。
「テッテレー♪オレのモノマネでしたーっ、どや? 似てたやろ?」
「なんやねん! ジャブかいな、びっくりするやん」
「わりぃわりぃ、びっくりさせて申し訳ないヴェ、許してくれヴェ」
「今度はヒエール様かいな、芸達者やなあ、ジャブは」
恐怖の緊張感から解放されたジャンボデッキの乗客は、ホッとして和やかな雰囲気になった。でもベフだけは何故か空を睨み付け、低く唸り声をあげていた。
「ガルルルルゥ、ベフッ」
「ホレ見てみぃ、ベフはまだ警戒しとるがな、ベフちゃんもうええで、座っとき」
「おまえら、そこにいるのかギャ?姿は見えぬが声と気配は感じるギャ」
「だから、ジャブもうええっちゅうのに」
レイちゃんは、めんどくさそうにジャブの方を見た。ジャブは違うよ、という感じで手を横に振り、もう片方の手で指をさした。
みんながジャブの指さす方向に目をやると、そこには鈍く黒光りした魔神オカマが浮かんでいた。リーちゃんは口を手で押さえ悲鳴を止めた。サンヨーはびっくりしすぎて声も出ない。
「この感じは、この前出会った奴だギャ、生きておったか。他にも何人かいる様だギャ? ケケッ何人来ても一緒ギャ、オレには勝てないギャ」
まずい、非常にまずい! 今日はこの前と違ってみんなを乗せてるし、パーシャルのシールドで守られているとはいえ、素早い動きをすると振り落としてしまうかもしれない。
どうする?
「ちょっと、みんなを下ろしてくるから待っててネ♡」
ってお願いしても聞いてくれへんわな。逃げても追いつかれるやろうし。
レイズは内緒話が聞こえない程度、静かに間合いを開けた。雲の陰に隠れたため、相手は神眼コンタクトも使えないはずだ。リーちゃんは小さな声でレイちゃんに囁いた。
「レイちゃん怖いよ、このままこそっと逃げられないかな」
「うーん、このまま一気に急降下出来たら……何とかなるかな? リーちゃんはジェットコースター好きなタイプ?」
「わかんない、年齢とか身長が足らないから乗ったことないし」
「あー」
「どこへ行ったギャ? うまく雲の陰に隠れよって、ええい面倒だギャこの入道雲ごと吹っ飛ばしてやるギャ」
魔神オカマはそう言って合掌し、気をため始めた。オカマのフタがカタカタと振動し、隙間から蒸気が漏れ始める。
「うわ、そんな無茶苦茶な、すずちゃん全速で急降下するで……わかったー風力ギガ全速……」
プスッ
すずちゃんがフルスロットルをかけようとしたその瞬間、突然気を失ってしまった。飛行能力を失ったレイズちゃんはみんなを乗せたまま、地上へ真っ逆さまに落ちていった。
「キャーーーーーいやーーーっ」
リーちゃん達の悲鳴が空中に響き渡り、そして入道雲の中心がオレンジ色に輝き出した。




