47、SR-18を救え!
47、SR-18を救え!
「サンヨーは心優しい、いい子じゃヴェ」
その言葉がどーしても納得できないリーちゃんに、ヒエール様はゆっくりと説明し始めた。
「今、サンヨー君から当時の状況聞いたところ、彼は困っているSR-18に手を差し伸べ、何とか助けてやろうと頑張ってくれたのじゃヴェ」
「じゃあなぜ電気釜さんはあんなになっちゃったの? 喜んだのなら『助けてくれてありがとう』ってお友達になるはずでしょ? どーして怒ってるのよ」
「そうじゃのう、助けてもらったんだからお友達になってもいいはずじゃヴェ、しかしSR-18に張り付けたのが絆創膏ならよかったのじゃが……」
(やっぱりオレ、まずい事やっちゃった?)ヒエール様の話を聞いてサンヨーはうつむいてそう思った。ふと、レイちゃんの方に目をやると冷凍庫の下辺りに丸いシミのようなものを見つけた。タマシールを貼り付けた時にできたシミだ。
自分が電気釜に張り付けた時には全身が真っ黒になってしまったのに……
「オレの貼り方が悪かったのかな。へこんで穴が開いた所に貼ったから?」
「いやいや、貼り方は関係ないヴェ。タマシールは家電に魂を定着させるためのアイテムじゃヴェ。じゃがのう、サンヨー君がタマシールを貼ったSR-18には既に魂が宿っておったのじゃヴェ」
「へ?」
ヒエール様はサンヨーにそう言った。自分が貼ったシールにそんな魔力的なあるなんて思いもしなかったし、そもそも言われていることもよく分からない。タマシーをテーチャク? どういうこと?。
「そうよ、電気釜さんは神様からもらった魂を持っていたの。そこにアンタがタマシールを貼って、魂が2個になってしまったから真っ黒になっちゃったのよ。それくらい常識でしょ」
リーちゃんにそう言われ、サンヨーはまたうつむいてしまった。(そうか、常識なのか、知らなかった……)
めちゃくちゃなことをしてお母さんに叱られた時「そんなの当たり前でしょ! わかんないの?」ってよく言われているサンヨーなので「当たり前」って言葉にはすごく弱い。
タマシールに関する「当たり前」は世間一般には通用しないのだが。
「SR-18に宿っていた魂が天界より頂いた神の御霊であったからよかったものの、2枚のタマシールを張り付けておれば拒絶反応で大爆発するところじゃったヴェ、危なかったヴェ」
えー! 大爆発? きょぜつナンチャラはよく分からないけど、危ないトコだった、死んでしまうトコだった……サンヨーは冷や汗をかき、床に座り込んでしまった。
「とにかく大事に至らなかったのは不幸中の幸いじゃヴェ。残る問題はSR-18を邪悪な魔物にしてしまった事じゃヴェ」
「魔物にしてしまったって? じゃアイツがあんな風になったのは、やっぱオレのせい?」
ヒエール様の言葉に、そんな悪いことをした覚えが全くないサンヨーは声を上げて立ち上がった。近くにいた他のお客さんが何だろうと振り返ったが、リーちゃんが「シーッ!」と言ってサンヨーを睨みつけたため、ハッと我に返り落ち着きを取り戻した。
「サンヨー君、汝はSR-18が黒く変色した後、ちょっとしたケンカになりSR-18につい言ってしまったことがあるであろうヴェ?」
「何? あんた何て言ったのよ」
「えーっと、確かオカマ野郎って……言ったかな?」
「うわ、やってもうたな、サンヨー」
「ホンマや、そのタイミングでそれはあかんわ」
「完全にNGだね。どうしょうもないね」
「やだ、サンヨーさいてー」
「ガルルルルゥー、ベフッ」
家電達のひんしゅくの嵐の中、サンヨーは口をとがらせて言い訳した。
「だ、だってアイツが先にバカにしてくるから……つい言っちゃったんだよ」
「もー、そうやっていつも人の嫌がることばっかりするんだから」
「まあまあ、みんな落ち着くヴェ。サンヨー君も流れでつい言ってしまったことじゃ。悪気はないヴェよ。しかしのうサンヨー君、レイ太が言ったように、ちとタイミングが悪かったのう」
サンヨーはあの時の映像をもう一度巻き戻し考えた。アイツがああ言って、オレがこう言い返して……うーんタイミングは悪くないぞ? どっちかというとバッチリじゃん。ウーン……そしてボソッとリーちゃんに聞いた。
「タイミングって何?」
「え? タイミングはアレよ、今だって時のちょうどいいヤツよ。わかる?」
「だよな、オレの知ってるタイミングと一緒だ、別に悪くなかったと思うけど」
二人がタイミングの意味について話し合っているところにヒエール様は説明の続きを話し始めた。
「二人共、今言っておるタイミングとはそう言うことではないヴェ。我の言うタイミングとはサンヨーが『オカマ』という言葉を言ったタイミングじゃヴェ、あの時SR-18の魂、タマシールで宿った魂、両方とももまだ名前を付けられていない状態じゃったヴェ」
そう、SR-18は天界から授かった称号を伝えられる前にリサイクルショップから逃げ出してしまっていた、そしてタマシールを張り付けられた時もサンヨーと言霊の契約をしていなかった。つまり「名無しさん」の状態であったのだ。
「神の御霊と張り付けられた魂とでは、神の御霊の方が圧倒的に強いヴェ。じゃからSR-18は平静を保っておったのじゃが、汝がヤツに『オカマ野郎』と言った時、悪い方へと流れが変わったのじゃヴェ」
「悪い方へ?」
「タマシールで張り付けられた魂は、非常に気性の荒い魂だったようじゃヴェ。汝にオカマと言われた瞬間、それが自分をバカにして付けた名前と思い込み、怒りの感情に支配され、邪悪な魔物になってしまったヴェ」
サンヨーは思い出した。そう言えばアイツ自分のこと「魔神オカマ」って言っていたな、と。
「名前を持たないSR-18つまり神の御霊はダークネームにより、強大な悪のパワーを得た魔神オカマに圧倒され体の主導権を奪われてしまったのじゃヴェ」
それを聞いてリーちゃんは首をすくめ猫背になり、サンヨーを突っついた。ポーっととしていたサンヨーはよろけてコケそうになった。
「ほらぁもう、やっぱりあんたのせいで、めんどくさい事になっちゃったのよ。ねえヒエール様、どうしたらいいの?」
「フム」
ヒエール様はいつもよりまじめな顔で口元に手を当てながら話し始めた。
「魔神オカマはタマシールを貼られ魂を吹き込まれたあと、レイ太達のように幽体離脱をしていないはずじゃヴェ。で、ちと危険じゃが……」
「危険」……! そりゃあ相手が魔神だし、危険じゃない訳ないでしょうけど。
ゴクッと生唾を飲み込んで二人はヒエール様の次の言葉を待った。
「魔神オカマを本体から引っ張り出すヴェ。成功すれば生気を失っているSR-18を救出することができるかもしれないヴェ。しかしこれができるのは名前を付けた者だけじゃ」
ヒエール様の話を聞いて、リーちゃんに家電達、そして神様達も一斉にサンヨーの方を見た。
注目の的となったサンヨーはオロオロしながら、とりあえず確認してみた。
「そ、それってオレ? オレなの?」
「そうじゃヴェ」
エライ事になってしまった、しかし、ついさっきまでいい子だって言ってくれてたのに。いい子にそんな事やらせる?
シャララララーン♪
「わっ!」
突然、リーちゃんのカミテレコンの着信音にサンヨーがやや大げさに驚いた。
「あ、お姉ちゃんだ、なんだろ。もしもーし」
「リー、あんた今どこにいるの、え? リサイクルショップ、ふーん、何しに? そろそろおやつの時間だから帰ってきたら? 私もう食べてるよ、ボリボリボリ」
ミーちゃんはサンヨーが持ってきたおやつを勝手に食べながら電話をしてきたのだった。
「このお気楽オバハンめ……」




