44、雨の中の下校
44、雨の中の下校
「みなさん、さようなら」
終わりの会が終わり、みんながガタガタと席を立ち、帰り支度を始めた。ふと、外を見ると空は黒い雨雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうだ。
「やーねぇ、雨降りそう」
「ねえ、リーちゃん傘持ってきたの?」
「あ、うん。置き傘があるから大丈夫よ」
と、シャープちゃんに言いながらも、あいにく傘を持っていないリーちゃんは、トイレに駆け込みカチューシャ(カミテレコン)のリボンを手に取った。
「たぶんいけると思うけど……こうかな?」
リーちゃんはリボンを掲げ、ミミクリーのボタンを押しながら合言葉を唱えた。
「ミミクリクリクリ、傘になぁーれ」
すると、手に持ったリボンと頭につけているカチューシャが光り出し、カチューシャの方がぐにゃりと形を変えながらリボンの方に吸い寄せられるように動いていった。
まもなく光が止むとカミテレコンは赤い傘に形を変え、リーちゃんの手に握られていた。
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※カミテレコンのおさらい
カミテレコンとはヒエール様が創った神様や家電達とのコミュニケーションツール。最初はおもちゃのリモコンのようなダサい外観だったがリーちゃんの厳しいダメ出しでカチューシャ型に「機種変」された。主な機能は以下の通り。
・家電達をどこでも呼び出したり戻したりできる。
・家電達の今の状態をリボンの裏にあるボタンの色で確認できる。
・携帯電話のように神様と姉のミーちゃんなどと通話することができる。
・擬態変形機能ミミクリーのボタンを押すことにより、思い描いたものに変形することができる。
以上、カミテレコンの主な機能である。不都合があればその都度、神様が改良してくれる。
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「やったぁ、いけるじゃん」
ヒエール様にもらった大切な神具カミテレコン。○ラえもんの秘密道具のようにお気楽な使い方をしていいのかしら? などという迷いや遠慮はリーちゃんには一切ない。トイレを出て校舎の出入り口で傘をバッサバサ開いて雨の降り始めた校庭へと出ていった。
と、そこに、
「ベフベフッ」
校門へと向かうリーちゃんの気配を感じ、ベフがどこからともなく現れ、嬉しそうに足元にまとわりついてきた。そしてベフを追うようにレイちゃん達もやってきた。
「リーちゃんお疲れさん。もう学校終わったん?」
「うん、お姉ちゃんは昼からも勉強があるけど、一年生は終わりよ。雨が降ってきたしレイちゃん達は先に戻すね……あっそうか、カミテレコン、傘にしちゃったから戻せないわ、どうしよう」
ミミクリーで別の物に変形させたカミテレコンは呼び出しボタン等が消えて、押すことができなくなってしまうので、家電達を戻すことができない。変形を解くには、合言葉「オーチャイジュー」を唱えれば元に戻るのだが。
「ええよ、またアイツが出てくるかも知れんし、リーちゃんと一緒に帰るわ」
「そやそや、オレらリーちゃんのボデーガードや。まかしとき」
ジャブはそう言って指でピストルの形をつくり、ボディガードのようなジェスチャーで辺りに睨みをきかせた。リーちゃんはそれを見て半笑いの顔で言った。
「そう……一応頼もしい、かな? じゃみんな一緒に帰ろっか。小さくなってランドセルの上に乗るといいよ」
「ハッハッ、ベッフベフ」
「ベフは自分で歩くって言ってるで。ホンマこいつお散歩が好きやなあ」
「へえ、ジャブはベフの言ってること分かるんだ、じゃ、ベフちゃんはそのままね、走っちゃダメよ」
「ベフッ」
リーちゃんはベフのシッポコードをカリカリ伸ばし手に持った。レイちゃん達3人は小さくなってランドセルの上に飛び乗り、小雨の降る中リーちゃんと家電達は下校し始めた。
「さてと、タマシールを貼った犯人も判ったし、貼った相手もSR-18でほぼ決まりや。リーちゃん、これからどうする?」
「うーん……サンヨーはケンカして悪口を言ったら、怒って飛んで行ったって言ってたし……まず、二人を仲直りさせなくちゃね。仲直りして電気釜さんの機嫌がよくなったら、ヒエール様の所に一緒に帰りましょって言うのよ。電気釜さん、前はいい子だったってヒエール様が言ってたからきっとうまくいくわ」
そんな子供の仲直りのような「ごめんね♪いいよ♪ルンルン」的なハッピーエンドストーリーは絶対ない、と家電達は思った。
「あの、ボク達は直接アイツに会ったけど、ケンカしてただ怒ってるだけって感じじゃなかったで。邪悪そのものって感じやったし」
レイちゃんの意見を聞いてリーちゃんはちょっと困った顔でランドセルに乗っかっている家電達の方を横目で見て言った。
「そうね、あたしも五重丸の生中継で見たけど、すっごい怖かったねえ。やっぱり仲直り出来ないのかしら」
「どっちにしろ今、SR-18がどこにいるか分からないからどうしようもないね。それは帰ってからヒエール様と相談しよう。あとサンヨー君もぼく達が見えるようになったんだから、仲間に加わってもらったらいいんじゃないかな? 家に呼んで一緒に打ち合わせをしよう」
「えーーっ! アイツもぉ?」
五重丸のごもっともな意見にリーちゃんは難色を示した。幼稚園の頃はけっこう仲良く遊んでいたのだが、小学校にあがってから変なちょっかいをかけてくるので少し苦手なのだ。男子だし、エッチだし。
「ま、成り行き上しゃあないわな。昼休みに思い切り脅しておいたから、おとなしく協力してくれるやろ。何かしよったらボクが雪ダルマ落としてやる」
「そやそや、オレかて黙ってへんでー、知らんけど」
「うーん……」
あまり気が進まないけど仕方ないか、とリーちゃんは思った。
ふと、後ろを見ると少し離れた所にそのサンヨーが歩いていた。小雨の中、傘もささずにアサガオの鉢を抱えてトボトボ歩いている。リーちゃんは呆れたような口調で家電達に言った。
「ほらぁ見てよ、あんな奴なのよ? なんで雨降ってるのにアサガオ? バカすぎるでしょ」
「しゃーない奴やなホンマ、おーいサンヨー! こっちや、こっち来い」
レイちゃんは大声でサンヨーを呼んだ。サンヨーはビクッとしたが、呼ばれたので仕方なくリーちゃんの方へ早歩きで近寄ってきた。リーちゃんは迷惑そうに文句を言った。
「やーよ! レイちゃん。傘になんか絶対入れないわよ、相合い傘になっちゃうじゃん」
「大丈夫、ボクにまかしとき」
リーちゃんに追いついたサンヨーは、学校を出てまだ数分しか歩いていないので、それ程濡れてはいない。
「なんだよ」
「なんだよじゃないでしょ、こんな雨の日にどうしてアサガオ持ってんのよ」
「だって、お母さんがアサガオ持って帰ってこいって、持って帰らないと怒られるし」
「雨降ってんだから明日でいいじゃん、ずぶぬれで帰ったらどっちにしても怒られるわよ? ホントバカなんだから」
「パーシャル!」
「バカって言うなよもう……あれ? 雨降ってるのに雨がかからなくなったぞ。なんで?」
二人が言い合いをしている間にレイちゃんはサクッとサンヨーにパーシャルの魔法を使った。そしてシールド効果により雨は体に当らなくなった。
「あ、ありがとう。お前色んな事ができるんだな」
「これで、時計の問題の件とで二つ貸しやな。家に帰ったらすぐリーちゃん家に来るんや、打合せするから」
サンヨーは「分かったよ」とうなずいた。本当に分かっているのかは分からないが。
二人は特に会話をすることも無く小雨の中を歩いて行く。そして二人がゴミ屋敷に差しかかった時、おっちゃんは表に積みあがっている「財産」にブルーシートを掛けていた。
「ふう」
荷造りロープをギュッと縛り、タオルで顔を拭きながら、おっちゃんはリーちゃん達をみてこう言った。
「おやおや、あの女の子、珍しいものを散歩させておるのう……」




