43、バチとオシッコ
43、バチとオシッコ
「そうなの、あたしが横断歩道で落としてしまったタマシールをあのバカが電気釜さんに貼ってしまったらしいの。あ、今から終わりの会だからまた後でね」
昼休みの取り調べが終わり絶壁から教室へと戻る途中、リーちゃんは早速ヒエール様に捜査の結果報告をした。
もちろん報告したからと言ってサンヨーにバチが当たる事はない。バチを当ててもらうってのは、サンヨーをビビらせ素直に言う事を聞かせるための作り話。
で、リーちゃんがサンヨーにどんな話をしたかというと……
「耳がとんがって、鼻からオナラが出るようになるのよ」
「えー!鼻からオナラ?そんなのやだよぉ」
そんなバチが当たったら日常生活に支障が出そうだ。こりゃたまったもんじゃない。
「しょうがないわね、じゃあ、あたしがヒエール様にバチは勘弁してってお願いしてあげるから、このことは内緒にしておくのよ、わかった?」
キーンコーンカーンコーン♪
リーちゃんがサンヨーにそう言った時、ちょうど昼休み終わりのチャイムが校内に鳴り響いた。
サンヨーはコクッと言ってうなずき、教室に戻って行った。
リーちゃんもレイちゃん達と別れ、教室へ戻った。ドアをガラッと開け、中に入るとクラスのみんなが何やらざわついていた。
「あっ竜巻だ!見てみて」
窓際の席の子がそう言って運動場の方を指さした。その声につられ、クラス中の子が窓際の方に集まってきた。見てみると鉄棒のあたりに砂煙が上がっている。
普通の人にはつむじ風が砂埃を上げているように見える。
が、リーちゃんにはその中心にベフとジャブが見えた。
ベフはコケてしまったジャブを引きずり、運動場を走り回っている。
「どゎーっ! お前なんちゅうパワーしてんねん、ストップストップ、お座り~」
ジャブは必死で止めようとするがベフは何かを探すよう猛スピードで走り回り、全然言う事を聞かない。
どんどんスピードを増すベフ。シッポのコードは赤いテープの所まで引っ張り出され、それを必死で握っているジャブの体は凧のようにフワッと浮き始めた。
「わーっ! ベフッ、アカン、アカンって! ドゥドゥ!」
(あらら、お散歩頼んだだけなのに学校まで来ちゃったのね。それにしても随分激しいお散歩ね)
クラスのみんながワイワイと運動場を見ていると、先生がポンポンと手を叩いて生徒たちを振り向かせた。
「はいはい、みんな座って、座って、今から配るプリント大事なお知らせが書いてあるから帰っておうちの人に見てもらうように……」
そう言って先生が一番前の席の子にプリントを配り始めた。
リーちゃんは席に座った後も運動場の方をチラチラ見ていると、運動場の端っこにレイちゃんと五重丸が現れベフに向かって手を振った。
レイちゃん達を見つけたベフは、猛スピードでレイちゃん達の方に向かって走り出した。ベフは散歩中にレイちゃん達の匂いを嗅ぎつけ、学校まで来てしまったようだ。
ベフはようやくスピードを落とし、レイちゃんの所へトコトコ歩いてきた。宙に浮いていたジャブの方は雑に落下し、行き倒れのオッサンみたいに倒れ込んだ。
「いってぇー、や、やっと止まりよった、コノヤロ」
伸びたコードをクルクル巻き取り足元にやってきたベフの頭を撫でながら、レイちゃんは尋ねた。
「ジャブ君どうしたん?ベフにお散歩させてもらってるん?」
「ハァハァ、ちゃうちゃう、反対やて。リーちゃんにコイツの散歩を頼まれたから出てきたんやけど、もう言うこと聞かへんわ、ションベンするわもう大変やったで」
「そうなんや、そら大変やったなあ、ベフちゃんジャブに迷惑かけたらアカンで」
レイちゃんは言い聞かすようにベフの頭をポンポンと叩いた。するとベフはキューンと鳴いてレイちゃんにお尻を向け、ヒョイと片足を上げた。
「シー、ベフッ」
「うわーっ! ベフ、何すんねん、なんでボクにオシッコを……もぅキッチン家電は清潔が一番やのに、ってベフも同じキッチン家電やん、分からんかなあ」
ベフにオシッコをかけられたレイちゃんは後ろに飛びのいて大騒ぎ。一方ベフは悪びれた様子もなく、レイちゃんの周りを嬉しそうにクルクル走り回った。
ジャブはそれを見てクスッと笑った。
「ホレ見てみ、油断も隙も無いんやからコイツは。まあええわ、オレにまかしとき」
ジャブはレイちゃんに手招きをした。呼ばれたレイちゃんはチビッたような情けない歩き方でジャブの方へ歩いてきた。
「オレはキッチン家電と違って汚れは大歓迎やからな、オレの初めての魔法やピシッと決めるで~」
うれしそうな顔でジャブは両手の指をピストルのような形に組み、オシッコのかかった所に照準を合わせ呪文を唱えた。
「スッキリシミ取りー」
ジャブの指先からキラキラした水が勢いよく発射され、レイちゃんに当たった。水はブクブクと泡立ち、まもなく消えた。
※「スッキリシミ取り」この魔法の効果は衣類や体に着いたがんこな汚れ、シミをきれいさっぱり落とすことができる。とてもつまらない魔法のように思われるが、脳天を直撃されると狙った記憶だけを消し去ることもできる。ペタンコ様の神技「マッシロケー」の小型版のような強力な魔法だ。
「おおきに、ジャブ君スッキリしたわー。ん? まだちょっとシミみたいなのが残ってるけど、どうなん?」
「あれ? ほんまや、しかもベフのシルエットみたいなシミやな。シミ取りと除菌は完璧に出来てるはずやのに……家電達のアレは強力なんかな? ま、一応清潔にはなってるし我慢しいや」
「もう、いい加減やな……うん、臭いもないし大丈夫みたいやな、おおきに。ベフちゃんもうやめてや、オシッコかけるの」
ベフを優しく言い聞かせるレイちゃんだが、ベフは逆に喜んでシッポコードを振っている。
「ベフッキャンキャン、グフー」
「ベフは、『友達のしるし』だって言ってるで」
「なんでやねん、なんで友達にオシッコかけるねん、ってジャブ、ベフの言ってること分かるんか?」
「ああ、一緒に散歩してるうちに何となくやけどな。でもオレはオシッコかけられてへんで、話が分かるようになったけど、オレは友達とちゃうんかな?」
オシッコかけられなくてラッキー、のはずなのになんとなく寂しそうなジャブ。そのジャブの後ろに五重丸が回り込み、指をさして言った。
「よかったね、ジャブ君。キミのお尻辺りにベフのオシッコが掛かった跡があるよ。これでキミもベフちゃんの友達だね。あ、ベフちゃん、ボクはオシッコかけなくてもキミのこと友達だと思ってるからお構いなく」
「うわ、いつの間に……ほんまコイツ油断も隙も無いわ」
「ベフフッ」
まもなく終わりの会が終わり、リーちゃん達1年生は午後からの授業がないので家に帰るだけだ。
だけなんだけど、ただちょっと雲行きがあやしくなってきた。梅雨明けの雷が鳴りそうだ。




