42、絶壁サスペンス
42、絶壁サスペンス
3時間なんてあっという間だ。特に今日のサンヨーには3時間がほんの数分に感じられた。
算数の後、午前中の授業は何事もなく終わり、今は給食の時間。献立は人気メニューのプリプリ中華炒めだが、まるで粘土でも食べてるみたいに全然味がしない。
「ごちそうさまでした」
「あれ? 三井、おかわりしないのか、まだあるぞ」
先生が不思議そうに訊ねたが、
「今日はいいや」
サンヨーはそう言って、さっさと食器を返し教室を出ていった。小走りにトイレに入り、さっき見つけておいた手洗い場の下のスッポンを手に取り、それを隠し持って待ち合わせの場所、校舎の裏側にある絶壁へと向かった。
3時間のうちにサンヨーが考えた作戦は、
「とにかくあのオバケより先に絶壁に行き、物陰に隠れてヤツを待つ、そしてヤツが現れオレを探しているところを、後ろからこのスッポンでガーン! 一発で仕留めてやるぜ」
いささかセコイが、何せ相手は得体の知れないバケモノ。子供のサンヨーが勝つためにはそんな綺麗事言っていられない。
「よしよし、まだ来ていないな」
校舎の陰から絶壁の方の様子を伺い、サンヨーは低い体勢で絶壁の近くに移動。スッポンをかまえて、茂みに身を隠しバケモノがやって来るのを待った。
と、その背後に、こそ~っと忍び寄るリーちゃん。腕組みをしてサンヨーの真後ろに立ち、名探偵のような決め台詞を浴びせかけた。
「サンヨー! 犯人はお前だ!」
「わっ! な、何だよ、え? あれ?」
サンヨーは驚いて立ち上がり、そして周りの景色を見て更に驚いた。
学校にいたはずなのに、目に飛び込んできた景色は全然知らない崖の上。断崖絶壁のその下は海で岩肌に波が打ち寄せる音が聞こえる。
「ここはどこ? 何でオレこんなところにいるんだよっ」
うろたえるサンヨーを指さし、リーちゃんはドヤ顔でこう言った。
「もう逃げられないわよっ。観念しやがって白状しやがれっ」
ジャンジャンジャーン♪
リーちゃんの決め台詞を合図に、聞いたことのあるサスペンスドラマのBGMが流れ、荒波が岸壁で激しく砕け散った。それと同時に小さくなっていたレイちゃんが実物大になり、サンヨーをキッと睨みつけた。
「わっ出た! オバケだオバケ! やっぱり香織の仲間だったのか?」
サンヨーは慌ててスッポンを構え、間合いを取るため後ろに下がった。そしてふと、足元を見るとそこはなんと崖の外!サンヨーは空中に浮いた状態で立っていた。
「ギェーッ! あぶねーっ! 落ちる落ちる……あ、あれ、何で落ちないんだ?」
「あーあ、バレちゃった。五重丸、もういいよ」
リーちゃんがそう言うと、崖の景色がブロックノイズのように崩れていき、景色は元の校舎裏にもどった。
「どうなってんだ? 今、何があったんだよ」
地面を踏みつけ、辺りを見回しながらサンヨーはリーちゃんに聞いた。リーちゃんは残念そうな顔で横にいるレイちゃんを見上げた。
「ボクが登場するタイミングがちょっと早かった? リーちゃんがタマシールのことをもっと聞いてから出た方がよかったかな」
「そうね。レイちゃんがいきなり出てきたから、サンヨーがあっちへ逃げちゃったんだよ。あ、五重丸も出ておいで」
リーちゃんに呼ばれ、茂みで小さくなって隠れていた五重丸がヌワッと実物大に戻った。五重丸は1時間目が終わった後リーちゃんに呼び出され、「臨場感パーソナルモード」で崖の上の映像をサンヨーに見せるようお願いされていたのだ。
「ごめんごめん、動きを想定してサンヨー君が山側になるアングルにしなきゃダメだったね」
リハーサル無しぶっつけ本番の作戦。リーちゃん達3人の反省会に花が咲いているところにサンヨーが文句を言った。
「な、何だよお前ら、わざわざ人を呼び出して何のイタズラだよ。おい香織コイツら一体何? よく見たら全然怖くないじゃん」
「呼び出したのはあんたに白状させるためよ、犯人に白状させるのは崖の上って決まってるでしょ。だから五重丸に頼んだのよ」
犯人を追い詰めるのは崖の上でなければいけない、という決まりはない。
「サンヨー君、よく聞いてくれ。ボク五重丸とレイちゃんは、普通の人には見えない存在なんだ。ボク達の姿が見えるのは、タマシールというものを使った人間だけなんだけど、最近キミは変わったシールを何かに貼った覚えはあるかい?」
「えっ、ひょっとしてあのシールがそのシールだったのか?」
ジャンジャンジャーン、ジャンジャンジャーン♪
五重丸が再びサスペンス劇場のBGMを流した。リーちゃんは名探偵の顔に戻り、サンヨーを問い詰めた。
「やっぱりあんただったのね、電気釜さんにタマシールを貼ったの。とんでもない事をしてくれたわね。で、そのタマシールをどこで手に入れたの?」
「アレは道で拾ったんだよ、ほら、お前がトラックに轢かれそうになったあの時に。それよりお前、なんでそんなこと知ってんだよ、あの電気釜もこいつらの仲間かよ」
「違うよ、電気釜さんは神様になるはずだったんだけど逃げだしちゃって、それで神様に頼まれて探してたのよ」
「は? 神様? あのオカマが? 何言ってんだよ、お前頭おかしいんじゃねえか? イテッ」
サンヨーの頭にピンポン玉くらいの氷が落ちてきて当たった。
「リーちゃんをバカにするな! 神様はいるんだよ」
「いってぇーまた氷が……あっ分かった、お前か、この前からオレの頭の上に氷を……」
「勝手に雪ダルマっ」
レイちゃんがエラそうな顔でそう言うと、サンヨーの頭上にそこそこ大きい雪だるまが現れた。「勝手に氷」の進化バージョン、しかも雪だるまは落下しないでサンヨーの頭上に浮いている。レイちゃんは魔法の腕を上げたようだ。驚いたサンヨーは頭を抱え、頭上の雪だるまを見上げて叫んだ。
「わわっ! やめろってば、分かった、分かったって。ちゃんと言うから」
「分かった、雪だるまはカンニンしたるから全部言うてみ」
レイちゃんはそう言って指をパチンと鳴らした。すると雪だるまは一瞬で昇華し消えてしまった。
観念したサンヨーは、タマシールを拾ってSR-18に貼ったこと、そのあと電気釜が真っ黒になったことなどを正直に話した。
「……そして、ちょっとあいつにバカにされたんで、言い返したら、すっごい怒って屋根を突き破って飛んでったんだ、誰にも言うなよ」
「言わないわよ、どうせ信じてもらえないでしょ。でもヒエール様には報告しなくっちゃね」
「誰? ヒエール様って」
サンヨーは不安そうにリーちゃんに聞いた。リーちゃんは真顔でサンヨーに囁いた。
「ヒエール様は冷蔵庫の神様よ。報告してバチをあててもらわなくっちゃ」
「ひぇー! バチ? なんで、なんで。バチってどんなバチだよ」
バチと聞いてうろたえるサンヨーに、リーちゃんは悪い顔で囁いた。
「フフッそれはね……」




