41、サンヨーの決心
41、サンヨーの決心
消しゴムくらいの大きさになり、机の中に忍び込んだレイちゃん。図太い声でサンヨーに「タマシール張り付け容疑」に対する取り調べを始めた。
「それでは始めようか、言っておくが授業はちゃんと聞けよ、授業も聞いてオレの質問にも答える。分かったら机を2回叩け」
コンコン
「よーし、その調子で頼むぜ、じゃ、最初の質問だ、おまえ最近オレ以外のオバケを見た事があるか?」
コンコン
「そうか、やはりな。で、そのオバケはどんな奴だ?もしかして電気釜……炊飯器のような奴だったか?」
コンコン
レイ太捜査官の取り調べにサンヨーはビビりながらも正直に答えた。しかしレイちゃんの声が聞こえない先生には、だらしない格好で机をコンコン叩いているようにしか見えない。先生は、指示棒でサンヨーを指し質問した。
「三井、さっきからコンコン、コンコンと。ちゃんと聞いてるか? 短い針が3と4の間で長い針が6の時、何時だ? 答えてみろ」
「えっ? はい……えーっと」
先生に指名され、サンヨーは慌てて立ち上がった。アナログ時計の問題は苦手だ。答えがさっぱり分からず、もじもじしていると、
「3時半だ、3時30分って言っとけ」
レイちゃんが助け舟を出してくれた。サンヨーは机をコンコン叩き、先生の方を見て答えた。
「3時30分です」
「お? 正解だ、よく分かっているじゃないか、じゃ、長い針がここならどうだ?」
先生は教壇に置いた時計の長針を9の所に移動させ、再びサンヨーに質問した。
「えーっと長い針が9のところなら……」
「長い針が9なら45分やで、ホレさっさと答えて」
「分かった、45分、3時45分だ」
「おぉ~」
クラスメイトの東芝、ソニー以下全員、教室中がどよめいた。
「大正解! 出来るじゃないか三井。なんでテストの時計問題は全滅だったんだ?」
レイちゃんに言われた通りに答えただけだが、一応先生に褒められたのでサンヨーは頭を掻きながら照れるように言った。
「あはっ、テストのときはちょっとトランプで……」
「スランプだろ? それ言うなら。ま、いいや座って、座って」
少し照れながら着席したサンヨーは、手で口元を隠しながら机の中にいるレイちゃんに、
「サンキュー、助かったよ」と囁いた。
「ああ、いいってことよ。じゃ、続きは給食が終わってからにしよう。食べ終わったら絶壁の裏側に一人で来い。もしすっぽかしたら貴様を雪だるまにしてやるゼ」
絶壁とは、校舎の裏側にある石の記念碑のことである。高さは3メートル位でその裏側が岩肌で崖のように見えるので生徒たちの間でそう呼ばれている。木陰で薄暗く七不思議的な噂もあって、あまり人が寄り付かない場所だ。
「雪だるまにしてやるゼ」
微妙な脅し文句を残し、レイちゃんは机を抜け出し、リーちゃんに「呼び出し作戦」成功の報告をするため1組の教室に向かった。
「ここやな、じゃ、お邪魔しまんにゃわ」
レイちゃんが1組の教室に入ると、ちょうどリーちゃんが立って教科書を読んでいるところだった。レイちゃんに気付いたリーちゃんはチラッと視線を送り、微笑んだ。
「はい、松下さん元気よく読めました。じゃあ次は……」
教科書を読み終え、席に着いたリーちゃんの横にレイちゃんがやって来て敬礼のポーズをし、報告を始めた。
「お疲れぇーっす、昼休みに呼び出し作戦、無事完了しましたっ、やはりサンヨーはボクの姿が見える様ですっ。という事でタマシールを使ったのはサンヨーで決まりやな」
リーちゃんは「やっぱりね」って言う顔をして小さいため息をついた。
ホントにもう、いつも余計な事しかしないんだから、あいつは……
「じゃ、昼休みまでヒマやし学校見学でもしてくるわ、ほなっ」
そう言い残してレイちゃんは教室から出ていった。リーちゃんは教科書の陰から小さく手を振り見送った。給食の時間まであと3時間。ちょうどいい作戦タイムである。
「さあ、どうしてやろうか……」
しばらく考え、そしてリーちゃんは、悪い顔でニヤッと笑った。
その頃、あの一人と一匹は……
「フガフガッ、ベフベフベフ」
「こらこら、走るな、走るなってもう、しんどいやん。散歩やさ・ん・ぽ、これやったらジョギングやん」
リーちゃんに頼まれ、ベフを散歩に連れ出したジャブ君は疲れ知らずのベフに引きずり回され、へとへとになっていた。
「しかし何やな、他のみんなは魔法使って戦ったりしてるのに、オレまだ魔法一回も使ってへんねんで。一応役に立ちたいとは思ってるねんけど、初めて頼まれたと思ったらベフの散歩やし」
「キャイーン、ベフベフッハッハッ」
「ベフもそう思っとるんかいな、そういやお前もまだ魔法使ってへんしなぁ、ってアレ? 何かお前の言ってること、分かるようになってきたわ。ハハッなんでやろ、っておいおい、どこ行くねん、なんや電柱か、まさかオシッコなんかせえへんわな炊飯……」
「シー、ベフッ」
「するんかーい! まったくもう。ほんでココどこやねん、ちゃんと帰れるんやろな。知らんで、あーまた走る、待てってオイオイ」
ベフが納得するまで、当分家に帰れなさそうだ。さて、一方こっちは、今すぐ早退して帰りたい気分の男子1名。1時間目が終わり休憩中、机の中をのぞき込みゴソゴソしている。
「サンヨー何してるんだ? 何か無くなったのか?」
「え? ああ、ちょっとな」
「お前、おかしいぞ? 急にオバケだーって騒いだり、時計が分かるようになったりさぁ」
ソニーが話し開けてきたが、サンヨーは聞く耳持たず机をゴソゴソ探し続けている。レイちゃんはとっくに教室を抜け出し、学校見学に行ってしまったので怪しいものは何も見つからない。
(あいつは一体何なんだ? 昨日のオカマ炊飯器の仲間か? でも香織の家にいたヤツとそっくりだし香織の? 一人で来いって言ったてよな、行かないと雪だるま……えー)
サンヨーは頭を抱え込んで悩んだ。何人かが声をかけてきたようだが全然聞いていない。
しばらくそのまま固まっていたが、急に腹をくくったような顔でガバっと立ち上がった。心配そうにのぞき込んでいた東芝とソニーはびっくりしてのけぞるように飛びのいた。
「しゃーない、もう行くしかないな、もう」
「お、おいサンヨーどこ行くんだよ」
「トイレだよ、トイレ」
サンヨーはのしのし歩きながら教室を出ていった。
「なんだよそれ、トイレ行くだけなのにそんなにがんばらなくっても」
「分かった、ウンコだ。ウンコ我慢してたんだよ、あいつ」
ウンコの憶測をあびながら、口を真一文字に結び、手をポキポキ鳴らすポーズをしながらサンヨーはトイレに向かった。
「とりあえず武器がいるな……」




