40、レイちゃん学校へ
40、レイちゃん学校へ
「だってさ、おっちゃんの家の前に置いてあった冷蔵庫とかって、ガラクタみたいなのばっかだったじゃん」
「くず鉄にして売るんだよ、きっと。アルミ缶だってたくさん集めて持ってけば買ってくれるらしいし」
「ふーん、そうなんだ。じゃあおっちゃんも、けっこうお金持ちなんだな」
登校中に目撃したローカルニュースはすぐさま、ちびっ子コメンテーターの話題の中心となった。もはや、「農具小屋謎の爆発事件」は過去の事件となりつつある。サンヨーは少しホッとした様子だ。
そうこうしているうちに、リーちゃんの登校班は無事、学校に到着。校門の前に立っている先生にあいさつをし、それぞれの教室へと散っていった。
リーちゃんも自分のクラスへ小走りに向かっていると、後ろからサンヨーが追いかけてきた。
「香織、ちょっと待てよ! 昨日お前の部屋にオバケみたいなのがいたけど、アレは何なんだ?」
……今さらだが、何であたしのこと下の名前で呼び捨てしてくるんだこいつは! しかもオバケがいたなんて訳の分からない事を……リーちゃんは吐き捨てるように言った。
「オバケ? 知らないわよそんなの。窓に自分の顔でも映ってたんじゃないの?」
「違うって、俺が見たのはあの、白くって、四角い、えーっとなんだ、その……」
サンヨーはしどろもどろに説明しようとしたが、リーちゃんは全く聞く耳をもたない。さっさと自分のクラスの教室に入ってしまった。
「おっはよー、(ホントにもう、何が白くて四角いオバケよ、まるでレイちゃんみたいじゃない)……え? レイちゃん?」
リーちゃんは寝不足の頭をフル回転させ、よ~く考えてみた。
(家電達は普通の人には見えないはずよね、見えるのはタマシールを使った人だけ……ってことはアイツがSR-18にタマシールを貼った犯人なのかしら? でもどうして……)
「リーちゃん、どうしたの? 何ブツブツ言ってるの?1時間目は国語よ」
ランドセルを背負ったままブツブツ言っているリーちゃんに、隣の席の紗谷さんが心配そうに声をかけてきた。リーちゃんはハッと我に返り、半笑いの顔で答えた。
「へ? ああ、シャープ、何でもないよ、ちょっとトイレ行ってくるね」
「あ、そう。いってらっしゃーい、それ可愛いカチューシャね、おニューなの?」
「うん、可愛いでしょ、じゃあね」
紗谷さん、名前は「しゃたにプリマ」であだ名はシャープ。やや昭和っぽい名前のリーちゃんが羨ましがるキラキラネームの女の子だ。リーちゃんはランドセルを机の横に掛け、手を振りながらトイレに向かった。
そしてトイレの個室に駆け込み、カミテレコンでレイちゃんを呼び出した。
ボン
「むぎゃ! ちょ、ちょっと何で実物大なの? 潰れるっ! せまいよっ、早く小っちゃくなってよ」
トイレの個室の中でレイちゃんを呼び出したが、まさかの実物大で登場。個室はぎゅう詰めになり、リーちゃんは壁にめり込みそう。レイちゃんは慌てて小さくなった。
「ごめんごめん、だって実物大の方が楽やし。何時どこに呼び出されるか分からへんしなあ」
「ふぅ、まあいいわ、そんな事より大変なの。タマシールを使ったのサンヨーかもしれないのよ」
「ええ? そうなん? アイツどうやってタマシールを……」
「もうすぐ1時間目が始まるから時間が無いの。ちょっと聞いて、あのね……」
リーちゃんはレイちゃんにヒソヒソ声で作戦を伝えた。レイちゃんは小さくうなずきながら聞いてニヤッと笑い、シュッと小さくなってトイレから出ていった。
ジャー
リーちゃんもトイレを済ました風に水を流し、教室に戻った。
「何かおもしろそうやな、えーっとサンヨーの教室は、3組か」
リーちゃんは1組、サンヨー達悪ガキ3人は3組だ。レイちゃんは3組の教室を目指し、トコトコ走っていった。先生と何回かすれ違い、3組の教室に到着したとほぼ同時に授業開始のチャイムが鳴った。
キーンコーンカーンコーン♪
教室からガタガタとみんなが着席する音が響き、黒板の前に先生が立つと、生徒の一人が号令をかけ、それに合わせ全員が立ち上がり朝の挨拶が始まる。
「お邪魔しまんにゃわ」
挨拶と同時にレイちゃんは、教室の後方に往年の吉本ギャグをかましながら入っていった。そして再び着席する生徒たちの中からサンヨーを探した。サンヨーは座ってからもガサガサと落ち着きなく動いているのですぐに見つけられた。そして授業が始まる。
「はい、じゃ、初めに先週やったテストを返しまーす。呼ばれた人は前に来るように」
「ハーイ!」
先生に呼ばれた生徒が次々とテストを受け取りに席を立ってゆく。テストを受け取り、振り向いた時の顔で、大体出来栄えが分かる、レイちゃんはそれを微笑みながら見ていた。
「この子は百点満点やな、ニッコニコや、次の子は、80点くらいか、頭ポリポリかいてちょっと悔しそうやし、サンヨーの苗字は三井やし最後の方か……じゃ、ちょっと一発かましてみよか」
レイちゃんはそう思い、エラそうな顔をして腰に手を当て呪文を唱えた。
「勝手に氷、クラッシュアイス」
すると、サンヨーの頭上に小さな氷の粒が現れて落ち、サンヨーの頭でワンバウンドして目の前に転がった。
コツッ
「いてっ、あれ? 何だ? 氷? また氷? 上から?」
サンヨーは驚いて中腰になり、教室の天井を見上げた。と同時にレイちゃんは指をパチンと鳴らした。すると落ちてきた氷の粒は一瞬に昇華して消えた。
「何で氷が、え? あれ、無くなってる、どうなってんだ?」
「おーい三井、テスト、テスト! 早く取りに来ないと点数言うぞー」
「あ、ハーイ待って待って」
みんなの笑い声の中、サンヨーは慌ててテストを受け取りに行った。そして、返してもらったテストの点数を見て「あちゃー」って顔になり、席に戻ろうとそのままの顔で振り向くと、その目に教室の後ろに実物大で立っているレイちゃんが飛び込んできた。
「サンヨー、その顔は……50点以下やな?」
レイちゃんはニヤッと笑ってサンヨーにそう言った。
「わーっ!オバケ、オバケ!先生!教室の後ろに白いオバケがぁぁ」
サンヨーは大声を上げ、教室の後ろにいるレイちゃんを指さした。しかし、レイちゃんの姿はサンヨーにしか見えない。先生は呆れ顔でサンヨーに言った。
「三井、オバケじゃなくっておバカの間違いじゃないか? テスト拾って席に戻りなさい」
「え? あっしまった」
サンヨーは落としたテストを慌てて拾った。周りの子供に点数を見られてしまい、その点数は45点。レイちゃんの読みは的中していた。
再び教室の後ろを見てみたがそこにはもう、レイちゃんの姿はなかった。首を傾げ、まるでキツネにつままれたような顔で席に戻って行った。
ひとつ小さなため息をつき、机に顔を付けてグデっとしていると、どこからか声が聞こえた。
「おいサンヨー、騒ぐんじゃねぇ、そのままおとなしくオレの話を聞くんだ。分かったか? 分かったら机を指で2回叩きな」
声の主は当然レイちゃんである。スキを見て小さくなり、サンヨーの机の中にもぐりこんだのだ。そしてテレビで見た悪者系の図太い声をまね、話しかけた。
サンヨーは机に突っ伏したまま固まった。そして言われた通り、震える指で机を2回叩いた。
コンコン
「よーし、いい子だぜ。ほんなら……じゃなくって、それでは始めようか」




