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リーちゃんと家電たちの夏  作者: 大門しし丸
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4、レイちゃん誕生

4、レイちゃん誕生

 「あーもう、分かりましたっ! いいわよ、これで。その代りいつかこのテレビが余裕で置けるでっかい家を買ってね、お父さん」


 「お、おぅ…」


 家族4人で話し合った結果、

 テレビが外から見えないようにカーテンを全開にしなければいいじゃん、という適当な暫定処置で問題はいちおう解決した。大豪邸の購入というとんでもない約束もおまけで付いてきたが、まあそれは夢のまた夢ということで。


 余計な仕事が増えなくて内心ホッとした電気屋のお兄さん達は、設置作業を再開した。

 お父さんとミーちゃんは、その傍らで新しいテレビの取説を見ながらあーだこーだと、お母さんは洗濯やら家事の続きをするため1階へ、

 そしてリーちゃんは相変わらずキッチンで冷蔵庫とお話続行中。不思議そうな顔で、何かを探すようにボクを見回しながら、


 「ところで冷蔵庫さん、あなたの目とか口とかはどこについてるの? あたしには見えないんだけど」


 「目とか口とか人間みたいに決まった位置についてないんや。それでも見えるし聞こえるし、こうやって話せたり出来るんや」


 「ふーん、なんか不思議だねぇ、変わってるね」


 普通しゃべるはずのない冷蔵庫と当たり前のようにしゃべってるリーちゃんの方がよっぽど変ってるやん。


 「でも、お母さんがボクのドアにカレンダーやらメモやらベタベタ貼っても前が見にくくなったりすることもないし、これはこれで都合がいいんやで」


 「そうね、パン祭りの応募の紙とか、いっぱいマグネットで貼るもんねー、やだねー」


 キミ達だってボクのドアとかにいっぱいシール貼るくせに……まぁ、そのおかげでボクはしゃべれるようになったんやけどね……


 「ところで、あなたは男の子なの? 女の子なの?」


 ホンマ、リーちゃんは突撃レポーターみたいにどんどん質問してくるなあ、でも自分でも自分の事よくわかってないし、聞かれてもなあ。


 「さあねぇ、分からへん、どっちなんやろ?」


 ボクがそう答えると、リーちゃんは耳のあたりをポリポリ掻きながら、ボクの体を見回し、しばらく腕組みをして考えそして、小さくうなずいた。

 冷蔵庫の男女っていったいどうやって見分けるんやろ?


 「わかったわ、じゃ、自分の事「ボク」って言ってるから男の子って事にしとこっか。」


 なんだ。けっこう適当やな……プロフィール上けっこう重要な項目をサラッと決められてしまった。

 でも、全然いやな気分やない。それどころか、体の芯が心地よい感じにホワッと暖かくなったような気がした、冷やすのが仕事の冷蔵庫のくせに。


 「じゃあ、おなまえは?名前は何て言うの?」


 「名前? 名前もないよ、冷蔵庫やし」


 「えー! 名前ないの? じゃあ、みんなから何て呼ばれてるの?」


 「ボクは冷蔵庫やし、ここから動けないし。みんなもクソも話し相手いないし、だから誰にも呼ばれた事がないんや」


 「そうなの……友達がいないなんて寂しいねぇ。じゃ、あたしがお友達になってあげるからもう『冷蔵庫やし』ってあきらめちゃダメよ」


 あきらめたって、ボク何かあきらめたかな?


 「ホント? ボク冷蔵庫やけど友達になれるかなぁ」


 「あたしは全然平気だよ。あ、でも名前が無いのはちょっと不便ね、わかった、まかしといてっ、あたしがイイの付けてあげる、えーっとねぇ……」


 リーちゃんは凄いや。どんどん質問してきてどんどん勝手に決めていくし。この調子で名前もかっこいいヤツをお願いしますよ。


 「……そうねぇ……冷蔵庫で男の子だから、レイ太君ってどうかしら?」


 レイ太クン? 冷蔵庫やから? ホンマにちゃんと考えたんかな、何か凄くベタな感じがするけど……。

でも何かドキドキするような、ざわざわするような、


 「どう?気に入った?」


 「う、うん。ありがとう」


 「よかった、気に入ってくれて。じゃ、これからもよろしくねっレイちゃん」


 そう言ってリーちゃんは冷蔵庫のドアをハイタッチするように叩いた。

 冷蔵庫だから普通は「ボン」と音がするはずだが、


 「ブニュ」


 リーちゃんの手に伝わってきたのはゼリーのような柔らかい感触で、ちょっとめり込むようにへこんだ。


 「キャッ!」


 驚いたリーちゃんは小さい悲鳴を上げ、手を引いた、それとほぼ同時に手をついた当りがポゥと光り、その光はリーちゃんの手についてきた。


 「何? なに?」


 冷蔵庫から伸びた光をよく見てみると、それは白い人の手のような形をしていてリーちゃんの腕をしっかり握っていた。

 その白い手はさほど強い力で握っているわけでもないので痛くはないが、ブンブン手を振ってもなぜか振りほどけない。振りほどけないなら引っ張ってみよう、と思ったとき、


 「あっ、リーちゃんちょっと待って」


 「えっ? レイちゃん? あなたから出ているこの手みたいなのは何なの? 取れないんだけど」


 「あの、それ……ボクの手…みたい」

 「なんだ、レイちゃん手があったんだ」


 「い、いや、ついさっきまではなかったんやけど突然…それに体が何か変な感じで」


 「もー何言ってんのかわかんなーい、とにかく離してよー」


 リーちゃんは掴まれたままの右手をぐいっと手前に引いた。思っていたほどの抵抗が無かったので後ろにこけそうになったが、それよりも、何よりも……

 冷蔵庫から、二回りほど小さい冷蔵庫が、しかも手足の付いた冷蔵庫が飛び出してきた。


 「うひゃー!」


 リーちゃんは驚いて結局こけてしまった……


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