39、集団登校で
39、集団登校で
今週で一学期も終了、来週からいよいよ待ちに待った夏休みだ。
どこに遊びに行く?
旅行には行くの?
お祭り一緒に行こうね、あと花火大会も……
もう子供たちの頭の中は夏休みの楽しい計画でいっぱいだ。通知表の成績や夏休みの宿題もちょっと気になるけど……。
夜が明けるのも早いし、お母さんに起こされなくても目が覚めちゃう。
集団登校の集合場所であるドーナツ公園には、そんな子供たちがいつもより少し早く集まりだした。全員が集合するまでの間、子供どうしの世間話に花が咲く。
「おはよー、昨日すっごい雨降ったね、カミナリも鳴ってめちゃくちゃ怖かったわぁ」
「うんうん、雨なんて降るって言ってなかったもんなー、オレなんて空き地でサッカーしてたから、もうずぶ濡れになったよ」
本日のトップニュースは昨日のゲリラ豪雨。何せ降水確率0%のお出かけ日和に、いきなりのドシャ降りだったので、登校班の中にも結構被害者はいるようだ。
でもそのゲリラ豪雨の本当の発生原因が家電達の戦いだと知っているのはリーちゃん姉妹だけだ。
そのリーちゃん姉妹も、やや遅れてドーナツ公園にやってきた。昨日の夜、ベッドに入った後も二人であれこれと話をしていたのでちょっと寝不足のようである。
「あー眠い……くゎ……」
「もう、大きな口開けてあくびするんじゃないわよ、恥ずかしいんだから」
「だってぇ、眠いものは眠いんだもん、ふゎあ~」
「ほんとにもう、うはぁ~……ほらもう、伝染っちゃったじゃない!」
突っつき合いながらドーナツ公園へと歩いてくる姉妹に、登校班の班長が声をかけた。
「ミーちゃん、リーちゃん、おはよー。あれ?何か眠そうね、大丈夫?」
「あっおはよー、うん大丈夫。ちょっと寝坊しちゃって」
「ああ、そうなの……あらら、その後ろからもっとダルそうな、おーい三井くーん、大丈夫? もう夏バテしたの?」
班長がリーちゃん姉妹の更に後方へ目線をやり声をかける。振り向いて後ろを見てみるとサンヨーが、ぐったりとした顔でダラダラ歩いていた。
いつもなら「よぉ、しりとリー」とか言ってからかってきたり、スカートめくったりとリーちゃんに色々ちょっかい出してくるのに。
そのサンヨーは昨日、秘密基地での一件とオバケ目撃事件、二つの超常現象に遭遇し、その影響か怖い夢を見てしまい、挙句の果てにおねしょをやらかして、朝からコテンパンに叱られるという最悪の月曜スタート。ちょっかい出す元気など全然ない。
しかし、登校班の集団の中にいるリーちゃんを見つけると、サンヨーの目に生気が戻り、急にリーちゃんの方へ駆け寄ってきた。
「わっ来たっ!」
リーちゃんはスカートを抑えて、サンヨーを睨みつけた。
「な何よっ」
「お、おい、しりとり、じゃなくて香織、昨日お前の家にオバ……」
「はいはい、全員そろったね、ホラ、みんな並んで並んで、出発するわよ」
サンヨーの話を遮るかのように、班長さんが号令をかけた。それを聞いてリーちゃんはプイっと振り返り、班長の真後ろに並んだ。
「ちぇ、何だよ」
昨日窓越しに見た四角い白オバケのことを聞こうとしたが聞きそびれてしまい、サンヨーも仕方なく列に加わった。登校班は黄色い旗を持ったみどりのおばさんに見送られドーナツ公園を出発、学校へと向かう。
「松下、知ってる? きのう田んぼで爆発事件があったの」
登校中に白オバケの話の続きをしようとリーちゃんの横に並んだサンヨーであるが、真後ろで別の男子がミーちゃんと田んぼ爆発事件の話をし始めた。
ガッツリ関係者のサンヨーは気まずそうな顔になり、歩く速度を遅くして列の後ろの方に下がっていった。
(変なヤツだな……)リーちゃんはそう思いながら、二人の会話に耳を傾けた。
「聞いた話なんだけど昨日、大雨が降るちょっと前に田んぼにある小屋が爆発して、屋根に大きな穴が開いたらしいんだ」
「えーホント? それって事件か何かなの? ひょっとしてテロとか」
「それがおかしいんだ、爆発と言ってもドッカーンって大きな音もしなかったし屋根に穴が開いただけ、火事にもならなかったし物置だから人も住んでないし、何か変なんだ」
「それで、警察とかきたの?」
「ううん、ケガとかした人もいないし、誰も110番しなかったみたいだよ」
「あ? あれ? あそこ。パトカーが停まってるね」
男子が指さす方を見ると、通学路の先にパトカーが停まっているのが見えた。回転灯は点いておらず、お巡りさんが二人とおじさんが横で話をしているようだ。登校班のみんなはざわつき、少し早足になって近づいていった。ただサンヨーだけは、昨日のことがあるのでじりじり後ろに下がり、最後尾についた。
「パトカー停まってるの、ゴミ屋敷のおっちゃんの家だね。また何かもめてるのかな」
子供たちの言うゴミ屋敷。どこの地域にもあるゴミを家の内外にため込み、近隣の住民とトラブルになるアレだ。そのゴミ屋敷のおっちゃんは、かなり興奮してお巡りさんに訴えている。
「だから言ってるだろ! 泥棒だよ泥棒! 人の財産ごっそり持って行きやがって、くっそー、さっさと捕まえて取り返してこいよ!」
「ふーっ……ご主人ちょっと落ち着いて下さいよ、そもそも歩道にまでゴミ……じゃなくって大事なものを放置しているのも問題あるわけだし」
「歩道に置いてあったら持って行っていいのかよ! じゃ、あそこの家に置いてある自転車! あれも持って行ってもOKなのか! ああ?」
「いや、それは別で、うーん弱ったなぁ」
登校班がゴミ屋敷の前を通りかかったとき、おっちゃんの屁理屈にお巡りさんが困っているところだった。みんなが物珍しそうにゆっくり歩きながら見ていると、
「ほら、さっさと行って」
と、お巡りさんに追い立てられた。
「ちぇっ面白そうなのに……でも泥棒グッジョブだよね。歩道が片付いて通りやすくなったし」
「ハハッ言えてる、言えてる。お巡りさん大変そうだけどね」
登校班のみんなは、ゴミ屋敷の方を何度か振り向いて見ながら学校へと向かった。先頭の方を歩いているリーちゃんにミーちゃんが追いつくように近づき、訊ねた。
「ところでリー、家から出る前なんでジャブとベフちゃんを呼び出したの?」
「ああ、ジャブ君は一人だけ1階だし寂しいかと思って。それにベフちゃんは犬だし、お散歩しなきゃいけないでしょ」
「はあ?」
「大丈夫よ、ジャブ君にお散歩頼んどいたから」
ジャブを出した理由はなんとなく分からない事はないけど、ベフはどうなんだろ? ミーちゃんは少し考えたが面倒くさいのでやめた。
一方、仕事なので面倒くさくてもやめられないお巡りさんたちは……
「分かりました、じゃ、何と何を盗まれて被害金額はどれくらいになりますか? 被害届を出すのに必要だから教えてください」
「そうか、うーん、電子レンジや炊飯器に冷蔵庫……と、けっこう電化製品ばかりやられてるな。金額的に言えば……100万円くらいかな? 安く見ても」
(逆に処分費用が掛かりそうなガラクタばっかりだろ? コノヤロ)内心そう思ったお巡りさん達ではあるが、公僕の立場故そんなことは言えない。
とりあえず手続きをすることを約束して帰っていった。




