38、ヒエール様悩む
38、ヒエール様悩む
シャララララーン♪
リーちゃんのカミテレコンからさわやかな着信音が流れた。
「あ、ヒエール様だ、地デジカもう着いたんだ、早いねー。もしもーし」
「おお、リーちゃんよ、地デジカは先ほど無事に到着したヴェ……」
「地デジカは我の体内に飛び込み映像データを託し、そのまま元の世界に帰っていったダォ。よくやってくれたォ……」
神様たちは、地デジカの労をねぎらい、無事に戻って行ったことをリーちゃんに伝えた。
が、その話し方はテンションが低く元気なさげだ。そんな様子を感じとったリーちゃんは、心配そうに訊ねた。
「あれ? 元気なさそうね、どうしたの? 風邪でも引いたの?」
ヒエール様は元気なさげな声で答えた。
「リーちゃんよ、我のことを心配してくれておるのか、優しい子じゃのう……我は神故に病気にはなりはせぬ、大丈夫じゃヴェ。問題は……」
「問題って?」
「実況生中継の映像を見てみたのじゃが、映っていた邪悪な者は、形状や大きさからして電気釜SR-18のようなのじゃヴェ」
「えーっ? そうなの? すごく怖そうだったよ、神様の友達って感じじゃなかったけど」
ヒエール様の言葉に驚いたリーちゃん、それを学習チェアに座って聞いていたミーちゃんも、ベッドの上のリーちゃんの横に座り、話の中に入ってきた。
「そうそう、真っ黒けで目つき悪いし、それにヒエール様の名前を聞いた途端、攻撃してきたんだよ? 友達の友達に普通そんなことする? 同じ形の別の電気釜じゃないの?」
「うむ、じゃが、我もSR-18も50年以上前に造られた家電製品じゃ、ほとんど現存しておらぬ。特に電気釜のような小物家電はさらにその数は少ないヴェ」
ヒエール様の答えにミーちゃんはさらに問いかけた。
「じゃ、やっぱりアレは、逃げ出したSR-18君なのかしら」
ヒエール様はその問いかけに、少し言いにくそうに答えた。
「……問題は奴の体の色じゃヴェ、我や電気釜は家電の中でも白物家電と呼ばれておる。故に体の色は白が基本じゃヴェ。特に我らが造られた頃は白以外の色の物はなかったはずじゃ、なのに奴の体は黒色……」
「ふーん、そうなんだ」
「リーちゃんよ、タマシールは今、何枚残っておるヴェ? 我がリーちゃんに託したのは10枚じゃヴェ。誰に貼ったか思い出してほしいヴェ」
「えーっと、レイちゃんとジャブと五重丸にすずちゃん、そしてベフで5枚でしょ。あ、あとスイッチの所に貼っちゃったから6枚か、使ったのが6枚だから……」
リーちゃんはベッドから下り、使ったタマシールの数を指折り数えながら、机の横に掛けてあるショルダーバッグを取りに行き、中からヒエール様からもらった袋を取り出し、タマシールを机の上に並べてみた。
「んー? 10引く6は……3?」
「もう、あんたバカすぎるよ、10引く6は4でしょ」
「ぶー、だってほら、タマシールは3枚しかないんだよ」
リーちゃんは、残りのタマシールを手のひらに並べ、ミーちゃんに見せた。残りは4枚のはずだが3枚しかない。
ショルダーバッグの中にこぼれていないか、ひっくり返して中身を全部出し探してみた。が、タマシールは見つからなかった。
「ヒエール様、4枚残ってるはずなんだけど3枚しかないの。どっかに落としちゃったみたい」
リーちゃんの報告を聞き、ヒエール様はしばらく考え込み、そして答えた。
「リーちゃん、そしてミーちゃんよ、これは我の推測であるがSR-18が黒色に変化したのは恐らくタマシールの影響ではないかと思うのじゃヴェ。リーちゃんが無くしたタマシールを何者かがSR-18に張り付けたのだヴェ」
机の引き出しやらベッドの下をゴソゴソ探していた二人はそれを聞いて驚いた。
「うそっ、だってほら、タマシールを貼っても光った後小さなシミが出来るだけじゃないの」
「そうそう、あんな真っ黒けになったことないよ、それに誰が生きてるみたいに動く電気釜にシール貼ったりする? 突然あんなのが目の前に出てきたら普通びっくりして逃げちゃうと思うよ」
姉妹は首を横に振り、ヒエール様の「タマシール張り付けが原因説」を真っ向から否定した。二人のその意見にヒエール様は静かに答えた。
「確かに、タマシールを張り付けただけではあんな風にはならないヴェ。ただし、それは魂の宿っていない家電に張り付けた場合じゃ。元々魂の宿っている家電に、更にタマシールを張り付けると魂同士が衝突し、表面が変色するなどの拒絶反応が起こるヴェ」
ヒエール様の言葉にリーちゃん姉妹は何か納得できないような様子だ。そしてミーちゃんが聞き返した。
「魂同士がケンカするって事? じゃあバビエオはどうなの? あれは2つの魂が合体してもパワーアップとか、いいことはあるけど悪い事は起こらないじゃない」
「融合合体は、一つづつの魂を持った家電どうしが合体して新製品になる魔法技じゃヴェ。じゃが、一つの家電に二枚のタマシールを張り付けると……」
ヒエール様の声が次の言葉を言うのを戸惑うように一瞬止まった。続きを早く聞きたくて、リーちゃんはせかすように言った。
「貼ったらどうなるの? 真っ黒になっていじめっ子になっちゃうの?」
「いや、違うヴェ。二つの魂は拒絶と和解を何度か繰り返しパワーを増幅していくのじゃが、やがて一つの体を奪い合うように衝突し、最後には大爆発を引き起こし砕け散ってしまうヴェ」
「えーーーーーっ!」
ヒエール様の爆弾発言にリーちゃん姉妹は大声を上げて驚いた。
「わーっ! 叫ぶなヴェ、もう、耳がキーンってなるヴェよ。それはあくまでも2枚のタマシールを貼った場合の話じゃヴェ。無くなったタマシールは1枚だけじゃし、それがSR-18に貼られたとしても、元々宿していた魂は天界の神より頂いた特別な御霊じゃヴェ、呪符で張り付けた魂とは全く別ものじゃ。表面は変色しても爆発などしないヴェ」
「あーよかった、じゃあ、大丈夫なのね?」
「大丈夫じゃヴェ、それに『大爆発』と言っても大したことはないヴェ。家が一軒吹っ飛ぶ程度の小さなものじゃ。地球が崩壊するような大爆発ではないヴェ」
……家一軒……それって新聞に載るレベルの大事件だと思うけど。神様はやっぱり神様だ。ものさしの桁が全然違うようだ。
「とにかく我にもよく分からんのじゃ、こんな事は初めてじゃからのう。優しかったSR-18がなぜにあんな邪悪な気を放つ別者になってしまったのか……」
ヒエール様の悩みも解決しないまま、空は夕焼け色に染まり始めた。もうすぐ晩御飯の時間なので子供部屋会議もひとまず終了。リーちゃん姉妹も明日の時間割を合わせリビングに降りて行った。
そして真夜中……町のどこかで不気味な声が聞こえる。
「タンクリヤ、クシブワ……ギャッ」




