36、子供部屋会議
36、子供部屋会議
「ヒエール殿よ、ならば他に心当たりがあるかォ? 邪悪な気配を消してはおるが、奴は今もどこかに潜んでおるダォ。早く何とかしないととんでもない事になるダォ」
「そうだボー、一撃でゲリラ豪雨を誘発させるような恐ろしい奴、ほっとく訳にはいかないボー、洗濯物が乾かないボー」
「うーん……」二人の神様に攻め立てられ、困り果てているヒエール様。
五重丸はそれを察してヒエール様に言った。
「ヒエール様、実況生中継を録画したものがありますので、それを地デジカにダビングして、そちらに行かせます。ブラウン様に取り込んでもらえばそちらで見ることができるでしょう」
えっ? 地デジカってそんなこともできるの? リーちゃん姉妹は驚いた。地デジカは呼び出した家電達の忠実な部下。出された命令は(なるべく)聞いてくれる、はずだ。
「おお! 録画しておったのか、でかしたぞ五重丸よ。百聞は一見に如かずというからのう。早速頼むヴェ」
「了解しました。じゃあみんな、いくよ」
「わわっ、五重丸ちょっと待って」
「こんな狭い部屋ん中で地デジカはムリやで」
五重丸はニッと笑って親指と人差し指をL字型に立てた。みんなは慌てて部屋の隅に避難した。
「いでよ、地デジカ! 一匹だけっ」
五重丸が呪文を唱えると、子供部屋の天井にモクモクと雲の輪っかが現れ、小さめの地デジカが一匹飛びだしてきた。地デジカは何匹いるのか分からないが、呼び出す頭数は調整できるようだ。
「あーよかった、またいっぱい出てくるのかと思った。それに小っちゃくて可愛いね」
安心したリーちゃん姉妹は、呼び出された自分より少し身長の低い地デジカに駆け寄り頭をなでなでした。その間、五重丸は何やら作業をし、画面の脇から何かを取り出した。
「地デジカ君、はいこれ、地デジカ専用のダビングディスクだよ。取り込んでブラウン様の所へ行ってくれ」
そう言って五重丸はベージュ色のディスクを地デジカに渡した。記録メディアというよりそれはどう見ても……
「それほんまにDVDなん? 地デジカが持ってると鹿せんべいにしか見えへんけど。で、それをどうやって取り込むん?」
レイちゃんが質問したが地デジカは何も答えない。そしてみんなが注目するなか、地デジカは片手を腰に当て、もう一方の手に持っている鹿せんべいみたいなダビングディスクをゆっくりと口に運び、うまそうに食べだした。
「ボリボリボリ、うーんデリシャス、デジデジッ」
「おいおい食べるんかーい! ってか、そんなにかみ砕いて大丈夫なん? 映像データとか壊れへんの?」
みんなの注目を浴びる中、地デジカはダビングディスクをペロッと食べてしまった。
「大丈夫だよ。地デジカはディスクを食べることによって、体の中にデータを取り込むことができるんだ。そしてデータを取り込んだ地デジカをブラウン様が取り込めば、ブラウン様の画面で録画した映像が見られるようになるんだ」
「えぇっ! それってブラウン様がこの地デジカを食べてしまうって事なの?」
地デジカを大口を開けて丸飲みする白黒テレビを想像して、リーちゃんは青ざめドン引きした。
「アハハまさかぁ、ブラウン様はそんなことしないよ。取り込むって言うのは、この地デジカがブラウン様に入るだけだよ」
地デジカは五重丸の魔法で、別の世界から呼び出された妖精のようなものである。呼び出された地デジカは、家電達や人々の依頼をそこそこ叶えたら役目を終え、元の世界に戻ることができる。
今回の依頼は、録画した映像をリサイクルショップにいる神様たちに送り届けること。
地デジカはブラウン様に飛び込み、体内に取り込んだ映像データを、ブラウン様に渡せば任務完了。
そのままブラウン様の体内から地デジカの世界へ帰ることができるのだ。
「じゃあ地デジカ君たのんだよ。なるべく人に見つからないよう気をつけてね」
「オッケー、デジデジッ」地デジカは右手を突き出し親指を立て、ウインクした。
さっきまで降っていた激しい雨も今はすっかり止み、太陽が雲の間から顔をのぞかせている。
地デジカは子供部屋の窓からベランダに出て、ヒョイと屋根の上に飛び上がった。人目に付かないよう屋根や電線の上を渡り、ブラウン様の元へ向かうようだ。
小ぶりの地デジカは身軽で素早そうなので無事たどり着けるだろう。
たぶん……
「いってらっしゃーい」
リーちゃん姉妹は窓から手を振り、屋根の上をぴょんぴょん走っていく地デジカの後姿を見送った。そしてリーちゃんが、ふと前を見ると三井さん家の窓際に人影が見えた。
サンヨーだ。リーちゃん家と同じく3階の表の部屋が子供部屋だ。
悪気はないが、流れで何かしらとんでもない事になってしまった秘密基地での一件。
東芝とソニーは散り散りに自分の家に逃げ帰ってしまったし、どうしたらいいのか分からず雨上がりの空をボーっと眺めていた。
「あ、サンヨーだ。アホみたいな顔して何見てんだろ」
「ホントだ。疲れてるって言うか、魂が抜けてるね、お母さんにでも叱られたのかな?」
リーちゃん姉妹が指さして笑うもんだからサンヨーも気付いて、こっちを見てきた。でも相変わらず目は死んでいる。いつもならヘン顔したり、おしりペンペン的な挑発パフォーマンスをしてくるのに。
「え? 何々? サンヨーがアホみたいな顔でどうしたって?」
「サンヨーってお向かいさんかいな、どれどれ?」
「ベフベフベフッ」
リーちゃん姉妹の話し声を聞いて、レイちゃん達も窓際にワラワラ集まってきた。ベフはぴょーんと飛び上がりレイちゃんの頭の上に乗っかりコードをパタパタ振った。
それを見てサンヨーの死んでいた目は飛びだすくらいに見開かれ、じりじりと後ずさりしていった。その様子を見てレイちゃんは言った。
「あれ? サンヨー何か驚いてるで。窓から離れていって……あぁコケたね。どうしたんやろ」
「わかんなーい。まあ、幼稚園の頃からドジだったけどね」
「ハハッ変な奴やなあ、オバケでにも出くわしたみたいな顔してるわ」
家電達の姿はタマシールを使った者だけ見ることができる。
そんなこと知るわけもないサンヨーは、突然お向かいさんに現れたレイちゃん達を見て悲鳴を上げてひっくり返った。
「キャー! オバ、オバッ、お母さーん! か、香織ん家にお化けがぁぁ」




