33、邪悪なる者
33、邪悪なる者
「バビエオッ」
「ジャーン、扇風機付き全自動洗濯機の『ジャブズ』やでー……キャーこれって需要あるのかしら? わかんなーい」
「じゃあボクらも、バビエオッ」
「パンパカパーン、液晶テレビ付き冷蔵庫『レイ太丸』やでー……あぁこれはアリかもね。ねえ、リーちゃんどう思う?」
「あっははは、すごーい。どっちもカッコいいよ~、こらこらベフちゃんはダメよ。まずは魔法のお勉強してからね。ハイ、おすわり」
「ベフッ」
子供部屋で繰り広げられる融合バビエオ大会。リーちゃん姉妹と家電達はついさっきまでダサいとか何とか言っていた呪文バビエオがすっかりお気に入りのようだ。組み合わせを色々変えてみては納得したり、爆笑したり……いやいや、決して遊んでるわけではない。行方知れずの電気釜を、早く探し出すためにはどんな組み合わせで行けばいいか考えているのだ……一応……たぶん。
「ねえねえ、いっその事、全員でバビエオってどうなのかしら」
「扇風機付き洗濯機能付きテレビ付き冷蔵庫? ……うーんパワーはありそうやけど使い勝手はスゴク悪そうやね」
などと色々試して組み合わせに納得したり批判したりしているその時、
シャララララーン♪
リーちゃんのカミテレコンが鳴りだした。
「あ、ヒエール様からだ、何だろね。もしもーし」
「おお、リーちゃんよ、つい先ほどの事なんじゃが、近くで何か邪悪な物の気を感じたのじゃが、そっちの方では何か変わったことはないヴェか?」
ヒエール様の質問に、リーちゃんはキョトンとした顔で答えた。
「うん、別に、ってか『じゃあく』って何?」
「邪悪とは悪いヤツのことじゃヴェ。どうも地上ではなく空の上の方で感じるのじゃが何か見えないかの」
空の上? リーちゃんは子供部屋の窓から顔を出し、外の様子を見てみた。外は相変わらずいい天気で目の前にはサンヨーの家、リーちゃん姉妹の家と同じような外観のカステラを切って並べたような一戸建てがずらりと並ぶいつも見慣れた風景だ。
その屋根の上には青空と大きな入道雲が見えるだけ。
「うん、いつもと変わらないけどね。あ、大きいカラスがいるよ。これって邪悪?」
「いや、カラスは邪悪じゃないヴェ、そうか、地上からは分からぬかヴェ。じゃ、レイ太達は今どうしておるヴェ?」
窓の外を見ていたリーちゃんは、振り向いてレイちゃん達の方を見た。相変わらずバビエオ大会の真っ最中。
「レイちゃん達はね、みんなでバビエオしているけど」
「バビエオ? ああ、融合合体のことかヴェ」
「そうそう、ゆーごーなんとかって、言いにくいからバビエオって呼ぶことにしたの」
「ま、それは好きにしてくれればいいヴェ。とにかく、さっき言うておった邪悪なものが一体何なのか、家電達にちょっと見に行かせてほしいのだヴェ」
SR-18が逃げ出したあの事件以来、ヒエール様達はチェーンロックで固定されているため外に出ることができない。だからレイちゃん達に邪悪な者が何なのか確かめてほしい、と言う事だ。
「空の上なので、すずだけでもよいのじゃが、念のためレイ太も合体、そうバビエオして一緒に行った方がよいであろう」
「えっレイちゃん達だけ? あたしも邪悪、見てみたーい。一緒に行っていい?」
不思議なこと大好き少女リーちゃんは、ぴょんぴょん跳ねて行く気満々だ。
「いや、リーちゃん達に万が一、何かあったら困るからの、お留守番じゃヴェ」
「ぶー」
ヒエール様に居残りを言い渡されたリーちゃんは、ブッとした顔でベッドにドサッと倒れこみ足をバタバタさせて不満を訴えた。
「リーちゃん、見てみたいって言う気持ちは分かるけど、ヒエール様は君の心配をしてくれているんだからね。ホラ、これをレイちゃん達に持って行ってもらえば、ここにいても向こうの様子が見られるから」
五重丸はそう言って、自分のリモコンをリーちゃんの足元にそっと差し出した。
「このリモコンは僕の体の一部分なんだ。これを持って行ってもらえば、遠く離れた所でもその場所の『実況生中継』が出来るのさ」
※「実況生中継」この魔法を使うと、遠く離れた所のようすを画面に映し出し見ることができる。リモコンを使う方法と、各地のお天気カメラなどとリンクする方法がある。
「おお、そうじゃの。いい考えじゃぞ五重丸よ。それならリーちゃんも安全だし、レイ太達が危ない時にはリーちゃんのカミテレコンで呼び戻すかともできるからのう」
ベッドですねていたリーちゃんもそれを聞いて、ガバっと起き上がり五重丸のリモコンを手に取ってニコっと笑った。直接じゃないけど邪悪な者も見られるし、レイちゃんがピンチの時に呼び戻すという大事な役割ももらえたし。
それでコロッと機嫌が直った。
「分かったわ。レイちゃんヤバくなったらすぐに呼び戻してあげるから安心して。はいこれ、落としちゃダメよ」
「あ、あぁ分かった。すずちゃん、ほなバビエオ行くで」
「わかったー、ちょっと怖そうだけど頑張るー」
レイちゃんとすずちゃんはトリセツを重ね合わせバビエオを唱えた。
融合合体して、「扇風機付冷蔵庫のレイズちゃん」となり、フワリと浮かんだ。
「ほな、ちょっと見てくるわ、キャーわくわくするっ」
レイズちゃんは子供部屋の窓から外へ飛び去って行った。リーちゃん姉妹と家電達は手を振って見送った。そして、五重丸は壁際に立ち呪文を唱えた。
「じっきょうナマちゅーけい! ……ハーイ、現地のレイズさん聞こえますか~どうぞっ」
五重丸が呪文を唱えると、五重丸の液晶画面に上空からの映像が映し出された。飛行中のレイズは突然の問いかけに驚いて返事を返した。
「わっびっくりした。このリモコン、話もできるの?」
「当然さ、生中継だもの。音声が無けりゃ放送事故だよ」
まじめできっちりした性格の五重丸。放送事故など絶対許せないのだ。
「ま、まあそうだけど……了解!じゃ貼り切って行くで―、実況は私レイ太とアシスタントは、すずちゃんでお送りしまーす……キャー私も一回やってみたかったのーうれしー恥ずかし~」
レイズの「特番! 突撃レポート邪悪な物を探せ!」が今スタートした。高度をグンと上げ、レイズは辺りを見回した。特に怪しいものは見当たらない。
「ただ今、リーちゃん家の上空です、特に怪しいものは見当たりませーん、スタジオのリーちゃん、どちら方面に向かえばよいでしょうか? どうぞ」
すっかりレポーター気取りのレイちゃんの問いかけにみんな爆笑した。スタジオってどこだよ、ここは子供部屋だよ。
「あはは、ねえヒエール様、家の上には何もいないみたいよ。どこら辺を探せばいいの?」
「そうじゃの、うーん、今は町はずれの田んぼの多い地区の上空に気を感じるヴェ。そっちの方を見に行ってくれヴェ」
「わかった、レポーターのレイちゃん、田んぼの方に行ってくださーい、どうぞ」
スタジオのリーちゃんはヒエール様に聞いた情報を、上空のレイズに伝えた。
「了解しました。ただ今より現地に向かいまーす。実況生中継って面白いね、警察24時みたいで」
レイズは、町の中心から少し離れた田んぼや畑の多い方へ移動し始めた。空には大きな入道雲が浮かび、その影を地面に落としている。
雲の影に差しかかった時、レイちゃんはピーンと何かの気配を感じた。それはヒエール様と初めて会った時の感覚とよく似ていた。
「ねえ、すずちゃん、何か感じない?」
「うん、感じるよ。今年の夏は暑くなりそうだなーって、私これから大忙しだわぁー」
「いや、そんなんじゃなくって、ほら、何か……」
その時、突然二人の心の中に、恐ろしい声が響き渡った。
「お前ら何者だギャ。ここへ何しに来たギャ?」
レイズはビクッとして周囲を見渡した。
「こ、これは……神眼コンタクト? 誰? 誰なん!」




