32、二つの魂
32、二つの魂
「あわわわ……」
サンヨー達3人は、奇妙なうめき声をあげてうずくまるSR-18を中心に少し離れた場所頭を抱えて座り込んだ。
「お、おいサンヨー! 真っ黒になっちゃたぞ、何とかしろよ」
ソニーは震える手でSR-18を指さして言った。言われたサンヨーはビクッとし、目を丸くして言い返した。
「え? これってオレのせい? オレはただシールを貼っただけじゃん。そしたら急に……」
「うぅぅ……体の奥が熱い……おこげが出来ちゃう。あんた、私に何をしたの?」
SR-18は、よろめきながら立ち上がりサンヨーを見つめ苦しそうに言った。
「お、お前までオレのせいにするのかよ、オレはシールを貼っただけじゃん。それだけで何で真っ黒になるんだよ、ってかお前一体何者なんだ?」
「私? 私はただの電気釜よ。あいつに魂とやらを入れられるまではね。そう言えばまだ聞いてなかったわね、あんた名前は? サンヨーって言うの?」
どうやらSR-18はソニーと東芝が彼の事を「サンヨー」と呼んでいるのでそう思ったようだ。
「違う違う、サンヨーはあだ名だよ、名前は三井洋さ。お前こそ何て名前なんだ?」
「名前? 私そんなのないわ。あいつが名前を付ける前に逃げ出しちゃったからね」
そう、「SR-18」は機種名であり名前ではない。ヒエール様を通じ、天界と「言霊の契約」を済ましていないSR-18にはまだ名前が無いのだ。
「ふーん、名前が無いのか、変なの。それとさ、さっきからあいつ、あいつって言ってるけど誰の事なんだよ」
「あいつは自分のことを神様だって言ってたけど、どうかしらね。本当かどうかは分からないわ」
「えーっ神様? 神様って神社やお寺にいるアレ? それともサンタクロースとか」
サンヨーの返事を聞いたSR-18は、サンヨーを指さし腹を抱えるような仕草をして失笑した。
「はぁ? もう、笑わせないでよ。あんたバカだから説明してもどうせ分からないでしょ、このバカサンヨー」
SR-18にバカにされたサンヨーは立ち上がり、悔しそうに口をとがらせてSR-18を指差し言い返した。
「な、何だよ人のことバカにしやがって! お前こそ名前も無いくせにえらそーにすんなよ、このオカマ野郎!」
「ビギッ!」
サンヨーに「オカマ野郎!」と言われたその時、SR-18の体の中で、どす黒い何かが弾けた。そしてそのどす黒いものは煙のように蓋の隙間から漏れ始め、SR-18はみるみる恐ろしい形相になり、サンヨーを睨みつけている。
「だ……誰がオカマ野郎だって……?」
「うゎ、こいつマジで怒ってるよ。どうしようソニー……あれ?」
SR-18の急な変貌ぶりにビビったサンヨーは、ソニーに助けを求めようと振り向いた。が、ソニーは既に小屋の外へと非難し、壁板の隙間から様子をうかがっていた。
「あっ早っ! きったねー」
一方、東芝は小屋の隅で腰を抜かして、どうしていいか分からずオロオロしている。サンヨーがそっちを見ると東芝と目が合った。東芝はサンヨーを見つめながらボソッとつぶやいた。
「こ、この炊飯器、な、何か別の人になったみたい……」
そう、SR-18を指さし「オカマ野郎」と言ったその瞬間、タマシールを張り付けたサンヨーと張り付けられたSR-18の間に「言霊の契約」が成立してしまったのだ。
それも、リーちゃんのように優しい気持ちを込めて付けた名前ではなく、相手をバカにしたような名前、ヒエール様が恐れていたダークネームを付けてしまったのだ!
ダークネームを付けられた魂と天界から頂いた神の魂、その二つの魂を持ったSR-18は今、「オカマ」と言う名前の魔物家電になってしまった。
タマシールにより定着された魂のパワーは予想以上に強く、SR-18の体をほとんど支配してしまい、神の魂は隅の方に追いやられ、オネエのような元のSR-18は気を失ってしまっているようだ。
オカマは神の魂とリンクし、魔力も習得し始めた。そして何やらブツブツ言いながら両手を合わせ合掌のポーズをとった。
「なにしてんだろ。なんか拝んでるみたいだぞ」
東芝のいる方に移動したサンヨーは東芝の横に立てひざをついて座った。二人の見ている前でオカマはブツブツと祈り続けている。するとオカマの体から湯気のような光が染み出すように漏れだし、オカマの体を包み込んだ。
「……レパリアン!」
オカマが呪文を唱えると体の傷ついたところが、まるでビデオを逆再生しているように
ペコペコ音を立て修復されていき、錆びついて穴が開いていた所もふさがった。
※「レパリアン」回復の呪文。ケガ、家電達の場合は破損や故障したところを修理修復する呪文。神技の一つであり普通の電気釜には使えないのだが、オカマは体内の神の魂とリンクし、強引にこの魔法を使うことができるようだ。
「すごい……治っちゃたよ、魔法みたいだ」
目の前で起こった信じられない現象を見て東芝は呟いた。小屋の外に避難していたソニーも、二人の方へ移動してきた。
「なんだ、爆発でもするのかと思ったよ」
「お前、汚いぞ、一人で逃げてよぉ」
「そういうなよ、それよりさ、あいつなんであんな風になったの? よく聞こえなかったけど神様とか何とか。お前の貼ったシールのせい? 何? あのシール」
「知らねーよ、拾ったやつだし。絆創膏代わりになるかと思って貼っただけだし」
二人が言い争ってる中に東芝が割って入り、サンヨーにヒソヒソ声で言った。
「三井君、あの炊飯器また何か拝んでるよ。それとホラ、後ろにスイッチみたいなのがあるよね。あれ押したら止まらないかな?」
東芝の言う通り、オカマの後ろにスイッチのようなものが付いているのが見える。サンヨーはそれを見て小さく頷いた。
「ホントだ。今のうちにコッソリ押してみようか」
そう言ってサンヨーは、オカマに気付かれないよう後ろから静かに近づいていった、が、オンボロ小屋の床は歩くとミシミシ音を立てるので、すぐオカマに気付かれてしまった。
「おい、サンヨー、オレのスイッチを切ろうとしてるのか? 無駄だギャ。魔神オカマは誰にも止められないギャ」
やろうとしていることをあっさり見抜かれたサンヨーは、抜き足差し足の恰好でピッと止まった。
「魔神オカマ? ギャって? お前そんなしゃべり方だったっけ?」
オカマはサンヨーの方を振り返り、ニヤッと笑った。
「ゴハンガ、タケマシタ、ギャハハッ」
ドーン!
魔神となったオカマはそう言って両手を突き上げ、水蒸気を噴き出しながら、秘密基地の屋根を突き破り外へ飛び出していった。またまた腰を抜かす3人。
「やっぱ、爆発したじゃん! どうすんだよサンヨー」
「し、知らねー。とにかく逃げよっ」
サンヨー達3人は、あたふたと小屋の外に飛び出し、逃げ去った。空を見上げると魔神オカマがどんどん上昇していくのが見え、やがて入道雲の中に消えていった。
そして、この緊急事態はヒエール様にもすぐに伝わった。
「な、なんだヴェ? この悪意に満ちた気は?」




