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リーちゃんと家電たちの夏  作者: 大門しし丸
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30、初フライト

30、初フライト

 「空を飛ぶーん」


 呪文を唱えると、みんなを乗せたレイちゃんの体がフワリと浮かんだ。


 「うわーっ浮かんだ! 浮かんだよ、レイちゃんすごーい! 重くないの?」


 リーちゃんは興奮して思わず大きな声で叫んでしまった。辺りを歩いていた何人かのお客さんが、「なんだろう」と、こっちを見たが五重丸の魔法のおかげでリーちゃん達の姿は見えなくなっているので、フワフワ浮いているリーちゃん達に誰も気が付かない。チラッと見ただけでみんな通り過ぎて行った。

 しかし、リーちゃんの大声はホビーコーナーで陳列の整理をしている店員さんにも届いたようだ。ぬいぐるみを持った店員さんが首を伸ばしこっちを見ている。


 「あら? 何かしら」

 「誰か騒いでるみたいね、ちょっと見てくるわ」


 リーちゃんの声を聞いた店員さんが不審に思い、こっちの方へ小走りにやって来た。

 「やばっ」ミーちゃんは慌てて、後ろからリーちゃんの口をふさぎ、耳元で囁いた。


 「シーッ! あんた声デカいわよ、お店の人来ちゃったじゃない。私たち姿は見えないけど声は聞こえるんだからね」

 「わかった、気を付けるわ。レイちゃん、あたしたちが他の人に当たらないように気をつけて飛んでね」

 「りょーかい、じゃ少し上にまいりまーす」


 レイちゃんは、エレベーターガールのような口調で答え、2メートルほど上昇した。

 店員さんは、ショーケースの周りやヒエール様達レトロ家電の展示スペースを確認し、頭上に浮かんでいるリーちゃん達の真下を通り過ぎて行った。


 「異常は……なさそう……? うーん、何だったのかしらね」


 異常を発見できなかった店員さんは、いまいち納得できない様子でホビーコーナーへ戻っていった。リーちゃんは小さなため息をつき、言った。


 「あーよかった、でも何かかくれんぼみたいで面白かったね」

 「呑気(のんき)なこと言ってる時じゃないヴェよ、急ぐヴェ、もう12時5分前だヴェ」

 「わかりました、ほな、ぼちぼち行こかー」


 そう言って、レイちゃんは急いで出口へと向かった。自動ドアに近づくとドアがスーッと開いた。姿は見えなくなっているが、リーちゃん姉妹にセンサーが反応したからだ。

 あれっ? と思ったお客さんもいたようだが、特に気にする人もいない。レイちゃん達は無事店の外に出ることができた。


 「じゃ、ちょっと上にあがるけどリーちゃん、ミーちゃん高い所怖くない?」

 「平気だよ、だいじょうぶ」

 「あたしもー」

 「よっしゃー! ほな行くでえ、おっと、その前にパーシャルや」


 レイちゃんはパーシャルの呪文を使った。パーシャルにはシールド的な効果もあり、雨風や気圧の変化からもリーちゃん達を守ってくれる。


 「あれっ? 急に涼しくなったよ」

 「レイちゃんの魔法のおかげだよ、すごいでしょ」


 レイちゃんは建物や電線に接触しないよう、一気に高度を上げた。いつも歩いている街並みが、まるでジオラマのように見える。道を走っている車もミニカーみたいだ。


 「家はあっちやな。みんなしっかりつかまっといてや、落ちたらあかんでー」


 レイちゃんはそう言って松下家へと飛行し始めた。スピードは徐々に上がり大体60キロくらいになった。


 「うおーっ早い早い、楽ちんやなー」

 「ベフベフ、キャイーン」


 ジャブ君やベフも楽しそうだ。五重丸は画面にデジタル時計を映し出しながら言った。


 「このスピードならギリギリ間に合いそうだね。それにしても融合合体はすごいね」

 「すごいのは、すずちゃんの魔法やで、ボクは大きくなっただけやし」

 「ヤッホーイ! わたしもこんなに速く飛べるなんて思ってなかったわー」


 確かに。すずちゃん一人ではそこそこ重いものでも一緒に飛ぶことは出来るが、人間や家電達をいっぱい乗せるには体が小さすぎるし、スピードもそんなに出せないだろう。

 だが今は、融合合体したことにより、追加された家電の機能や魔法が使えるだけでなくお互いのパワーも掛け合わされている。冷蔵庫のパワーは扇風機のそれと比べればけた違いに大きい。魔法もより強力なものになるのだ。

 リサイクルショップからテークオフして1分足らず。リーちゃん達は松下家に到着した。子供の足で大体15分かかる距離も、空を飛ぶーんだとひとっ飛びだ。

 五重丸のデジタル時計は11時57分を表示している。お昼ご飯の時間にはギリ間に合った。


 「レイちゃん、すずちゃんお疲れ様ぁ、すごく楽しかったよ、またお願いね」

 「うん、それより、リーちゃん早く家に入って。ボク達はカミテレコンで戻してくれたらいいから」

 「わかった、お姉ちゃん行こっ、あーお腹すいた」



 そしてその頃、サンヨーが「秘密基地」と呼んでいる農具小屋の中から……


 ギシギシ……ジャリジャリ……


 金属が(きし)むような音が聞こえてくる。


 「やだぁ、またサビがひどくなってきたわ、ここなんか穴が開いちゃって……今さらなんだけどガラスをブチ破るなんて、無茶しちゃったわねえ。私このままサビついて、ボロボロになって死んじゃうのかしら?」

 

 電気釜SR-18は、あの日逃げ出したことを少し後悔していた。逃亡生活も約半年を過ぎ、逃げるときにへこんだところの塗装が剥がれ、錆びてきたようだ。 


 「人間ならほっときゃ治るんだろうけど、私たちは修理してもらわないと治らないのよねー。でもこんなポンコツ誰も修理してくれないし」


 そう言って、穴の開いたところをさすっていると白い塗料がポロっと剥がれて落ちた。SR-18は悲しそうに一つため息をついた。


 「私だってちょっと修理すりゃもう少し働けていたのに……勝手なもんよ、新製品が出たらすぐ買い替えて壊れてなくてもポイ、だもんね。そんな人間どもを何で私が見守らなきゃならないのさ」


 天界の神より「神の魂」を授けてもらったSR-18は、ヒエール様達同様、電源につながっていなくても自由に動くことができる。しかし「言霊の契約」を結ぶ前に逃げ出してしまった為、まだ神様ではない。このまま本体が朽ち果ててしまえば、「神の魂」は体を離れ天界に帰ってしまうだろう。


 これからどうすればいいのか……SR-18は一人悩んでいる。


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