29、融合合体バビエオ
29、融合合体バビエオ
「バ、バビエオ? ヒエール様、それ……」
「心配するなヴェ。トリセツを重ね合わせ、唱えるだけじゃヴェ。さらに……」
「それはいいんだけど、そのバビ……」
融合合体の手順を説明するヒエール様に、みんな何か言おうとするが、ヒエール様は、それを聞こうともせず、説明を続けた。
「相手がバタンキューになっていても、その上に己のトリセツを被せ、呪文を唱えると融合合体できるヴェ。そうすれば、バタンキューになった相手の魔法をベースの家電達が使えるようになるヴェ」
「あの、ヒエール様、ちょっといいですか?」
説明が一段落した一瞬をついて、レイちゃんが話しに割り込む事に成功した。
「ほ? なんじゃヴェ、レイ太よ、言うてみい」
「はい……あの、何て言ったらいいか、そのバビエオって呪文やけど、なんかダサくない? ねえ、リーちゃん」
「そうね、『バビ』まではいいけど『エオ』がちょっとねえ」
「?」
リーちゃんの指摘はさっぱり理解できない。ヒエール様は、困り顔で質問に答えた。
「そーんな事言われてものう、呪文は古くから伝承されてきたもので、『エオ』がちょっと……とか言われても、我が勝手に変える訳にはいかないのだヴェ」
呪文も言霊の一種であり、「バビエオ」もその意味は神様にも分からないが、古来より天界に伝えられてきた言霊の一つである。勝手に変える事はできない。
「そうだォ、かっこ悪いなんて言ったらバチが当たるだォ、人間界でよく聞く呪文に、アブラカダブラやチチンプイプイなんてのもあるが、よーく聞けばダサいォ? 特に『プイプイ』なんか。そう思わんかォ?」
「うんうん、分かる分かる『プイプイ』はダメね、『チチン』もちょっとイヤらしいかも」
リーちゃんは腕を組み、うなずいて納得した。
「プイプイ」の何がどうダメなのか、リーちゃんとブラウン様以外には全く分からない。
「とにかく呪文は変えられないヴェ。ダサいとか言うが、そんなものすぐに気にならなくなるヴェよ。そして、融合合体を解除したいときは『ヘブレ、ヘブレ』と唱えれば元に戻るヴェ」
融合合体の説明も終わりに差し掛かった頃、椅子に座っていたミーちゃんは暇そうに前を通り過ぎるお客さんを見ていた。みんな、どこで何を食べようか、あそこの店がいいんじゃない?そんな話をしながら歩いて行く。
「グゥー」
ミーちゃんのお腹が鳴った。そういやちょっとお腹が空いてきたみたい。
店の開店直後に来て、家電達を神様に紹介し、地デジカ事件とか色々あったけど、今何時頃かしら?
壁の時計に目をやった。
「あっ」
時計を見たミーちゃんは、慌ててガチャポンの前をウロウロしているリーちゃんに駆け寄り言った。
「リー、大変大変!もう11時50分よ。お昼ご飯だから帰らなきゃ」
「うそっ! ちょっとお腹空いたな、と思ってたらもうお昼なのね。ヒエール様、もうお昼ご飯の時間だから帰らなきゃ。12時までに帰らないとお母さんに怒られるわ」
針の時計が、まだいまいち読めないリーちゃんは、ミーちゃんに言われて初めて気づいたようだ。
「え? 今から歩いて帰ったら12時過ぎになって、お母さんに怒られるヴェか? よしよし、分かったヴェ。ちょうどよい、レイ太、そしてすずよ、こっちへ来るヴェ」
突然指名されたレイちゃんとすずちゃんは二人とも「えっ」と言って顔を見合わせた。
「お前ら二人で、融合合体をやってみるヴェ、時間がないからさっさとやるヴェ」
すずちゃんは、上目遣いで恥ずかしそうにもじもじしながら、答えた。
「私とぉー? レイちゃんでぇ……? 何かエッチじゃなーい?」
「ぶっ」
……本日2回目のエッチ呼ばわりをされたレイちゃんは、迷惑そうにぼやいた。
「なんやねん、なんでエッチなん? 何にもしてへんのにボクばっかり」
「まったくもう、お前らアホかヴェ? 家電同士でエッチもクソもないヴェ。ホレ、リーちゃん達を早く家へ帰らさねばならないのだヴェ、ちゃっちゃとトリセツを出すヴェ」
ヒエール様にたしなめられ、レイちゃんとすずちゃんは、それぞれのトリセツを取り出した。
「よいか? レイ太が上ですずが下ヴェよ、重ね合わせ、呪文を唱えるヴェ」
「あの、ヒエール様?」
「なんじゃヴェ」
「ポーズとかは?」
「ないヴェ! ちゃっちゃとやる!」
「はい」
レイちゃんとすずちゃんはトリセツを重ね合わせた。二人は目配せをし、呪文を唱えた。
「せーのっ! バビエオ!」
呪文を唱えると重ね合わせたトリセツは、光を放ちながら一つの玉になり、レイちゃんとすずちゃんはその中に吸い込まれた。そして光の玉は一気に膨張し、一人の家電達に形を変えた。
「ジャーン、扇風機付冷蔵庫、新製品やで~、いやーん、恥ずかしー」
生まれた新製品はレイちゃんがベースだから一見、さっきまでのレイちゃんと変わりはない、が冷蔵室のドア辺りにすずちゃんの羽根が付いている。リーちゃん達が驚いている中、ヒエール様はせかすように新レイちゃんを呼び寄せた。
「レイ太よ、早くこっちに来るんじゃヴェ、我らの裏に隠れてうつ伏せになり、実物大になるヴェ」
「えっ実物大?」
※言霊の契約を済ました家電達は、名付けた者の背丈に合わせ、縮小されて生まれてくるが、実際の大きさを超えない範囲で変える事ができる。ちなみにベフやすずちゃんなどの小型家電は生まれた時から、ほぼ実物大だ。
レイちゃんはうつ伏せになり、グッと力を入れてみた。すると、体はグンと大きくなり家にある冷蔵庫と同じくらいの大きさになった。
「うわ、すごーい。レイちゃん大きくなったねぇ」
「ホレホレみんな急いでレイ太に乗っかるヴェ」
「分かりました。じゃレイちゃん失礼するよ」
「ほな、たのんまっさ、よっこらしょっと」
家電達が次々とレイちゃんの背中に乗っていくのを見て、ミーちゃんはヒエール様に質問した。
「あの、これって五重丸たちは他の人から見えないからいいけど、リーと私が乗ったら空中に浮いてるように見えておかしくない?」
「大丈夫じゃ、安心するがよいヴェ。五重丸よ、『臨場感パブリックモード』を使うヴェ」
※「臨場感パブリックモード」この魔法は、生で見ているような迫力のある映像を映し出し、相手を撹乱させたり、身を隠したりすることができる。周りの者全部に見せる「パブリックモード」と選んだ者だけに見せる「パーソナルモード」がある。
「承知しました。じゃいくよ、臨場感パブリックモード!」
五重丸が呪文を唱えると、レイちゃんの周りにモザイクの壁のようなものが現れ、徐々にレイちゃん達の姿が見えなくなってきた。五重丸の魔法がうまく映像を作り出せたようだ。
「さあ、リーちゃん達も乗って。乗ってしまえば他の人から見えなくなるから」
空中に五重丸の手がヒョイと現れた。リーちゃんはベフを抱っこし、レイちゃんに乗っかった。続いてミーちゃんもキョロキョロしながら後に続いた。
「よーしみんな乗ったの、落とされないようにしっかりつかまっているヴェよ。じゃ、レイ太よ飛べぃ、急いで家に帰るヴェ」
「りょーかい、ほな行くでえ……空を飛ぶーん、テークオフッ」




