28、新製品
28、新製品
さて、場面は再びリサイクルショップの店内。
地デジカ事件も一段落し、ヒエール様のお説教が続く中、五重丸が手を上げ、一歩前に出た。
「ヒエール様、一つ質問していいですか」
「ほ?なんじゃヴェ、言ってみるがよいヴェ」
「神様は人間や家電達よりも優れた力を持っておられるはず。リーちゃんや僕たちに頼むより自ら電気釜殿を探し、連れ戻された方が早いかと思うのですが」
ごもっともである。電気釜SR-18逃亡事件は、元々神様サイドの問題。わざわざ人間の、それも幼い女の子に頼んで探してもらうより断然早く解決できたはずだ。
「さすが五重丸、その通りじゃヴェ」
「じゃあ、なぜ?」
ヒエール様は目を閉じ、あの日の事を思い出しながらゆっくりと話し始めた。
「そう、あの時、我らもすぐSR-18の後を追ったのじゃが、アイツは店のガラスを突き破り、店外へ逃げてしまったのじゃヴェ。相当ダメージを負ったはずじゃヴェ、あんな小さい体で入り口のガラスを突き破ったんじゃからのう」
横にいたリーちゃん姉妹と他の家電達も、ヒエール様の言葉に耳を傾けた。そして、ブラウン様、ペタンコ様も話に加わってきた。
「店のガラスを割ったことで警報器が鳴り、警備会社やら警察やらがワンサカ来て、大騒ぎになったのだヴェ」
「我らが動いているところを人間が見たら、更に大騒ぎになるォ? 展示コーナーからフロアに飛び出した我らは、その場から動けなくなっただォ」
「神技マッシロケーで警備員達の記憶を消しても、割れたガラスや無くなった電気釜などの事実は消せないのだボー。結局この件はレトロ家電を狙った強盗事件として処理されてしまったボー」
新聞に載る程じゃないけど、思っていたより大事件だったようだ。
「その事件後、我らは盗難防止のため、チェーンロックで固定されてしまったのじゃヴェ。このチェーンロックは、我らにしては禁忌の札を張り付けられたようなものじゃ。それ以来、我らはこの場から動けなくなってしまったのじゃヴェ」
神様たちの足元に目をやると、神様のお身体は頑丈そうな太い鎖で、床に打ち込まれたアンカーボルトにつながれていた。お店の人は盗難防止のために取り付けただけなのだが、家電の神様側からすれば、創造主である人間に動くことを禁ずる「禁忌の札」の効果があり、この場から動くことと一部の能力が封印されてしまったようだ。
「そっかぁ、神様達がそこから動けないのはその鎖のせいなのね」
「そうじゃヴェ、動けないどころか幽体離脱もできなくなったので、我らはSR-18を探しに行くことは出来ないヴェ。じゃから、リーちゃん達にお願いするしかないのじゃヴェ」
こんな突拍子もない話、大人の人間に頼んでも多分、まともに取り合ってくれないだろう、それどころか良からぬ金儲けに利用されたり、ろくでもない事をしかねない。
だから純粋な心を持った子供にお願いし、家電達をサポート役として付け、協力し合って電気釜を探し出し連れ帰ってもらおうという事にしたのだ。
「わかったわ、レイちゃん達もいるし、みんなで頑張って電気釜さんを探すわ。ねえ、お姉ちゃん」
「うん……でも電気釜さんが居なくなってから、けっこう時間が経ってるし、すごく遠いところへ行ってしまってたら探すの大変じゃない? 子供だしあまり遠くまで探しに行けないわよ」
ミーちゃんの言う通り、子供の行動範囲などたかが知れている。二人とも自転車に乗れるが、リーちゃんは、やっとこさ補助輪が外せたところ。そんなに遠くまで行くのはムリだ。それに……
「レイちゃん達って、みんな足みじかいしさぁ」
「あっ! 失礼やな、それって悪口やん」
「これこれ、レイ太もリーちゃんもケンカするでないぞ。確かに、リーちゃん達はまだ子供だし、レイ太も足が短いヴェ。しかし、みんなで力を合わせればきっとうまくいくヴェよ。家電達よ、みんな自分のトリセツを出してみるヴェ」
ヒエール様にそう言われ、レイちゃん達はそれぞれのトリセツを取り出した。一番端っこに座っていたジャブはトリセツをペラペラと振り、つまらなそうに言った。
「なんや、またお勉強かいな……」
「家電達よ、汝ら一台々はその用途もさまざま、出来る事には限界があるが融合合体すれば、より便利で強力な新製品になれるヴェ」
「えっ?」リーちゃん姉妹は思わず声を上げてしまった。口に手を当て見つめあう姉妹。「レイちゃん達ってそんなことできるの?」
「そうじゃヴェ。リーちゃん達も知っておろう、ラジオとカセットを合体させてラジカセとか、テレビとビデオでテレビデオ、オーブンレンジなんかも二つの家電を合体させて、より便利なったのじゃヴェ」
「あー分かる、分かる、ピザと肉まんを合体させて、ピザまんとかも、やろ?」
「ジャブよ食べ物の話ではないヴェ。てか、お前洗濯機のくせに、よく食べ物の事を知っておるのう」
「ヒエール様、褒めんといてぇな、照れるがな」
「……」
カセットなんて見たこと無いリーちゃん姉妹だが、ジャブのピザまんボケで何となくすごい事なんだ、と分かった。
そして、また五重丸が、落ち着いた雰囲気で質問してきた。
「ヒエール様、ボクにインストールされたトリセツの中には、融合合体の項目は載っていないのですが」
すずちゃんも自分のトリセツをヒエール様に見せながら言った。
「私、扇風機だからトリセツ4ページしかないのー。表紙も裏もぜーんぶ見たけど載っていないわ、ページが抜けてるのかしら」
レイちゃんもジャブ君もトリセツをペラペラとめくりながら見直した、でも融合合体の事はどこにも書いていない。家電達がガヤガヤしている中、ヒエール様の説明が始まった。
「家電達よ、トリセツに融合合体の事が載っていないのは、それが個々の家電が使う魔法ではなく、二つ以上の家電が協力してなし得る『魔法技』じゃからじゃヴェ。互いのトリセツを重ね合わせ、呪文を唱えることにより融合合体ができるのじゃヴェ」
どうやら魔法のトリセツは、ただの「取扱説明書」じゃないようだ。それ自体に魔力を秘めた神のアイテムらしい。
「じゃ、融合合体の説明をするヴェ。ちょっとややこしいが、覚えるヴェよ。まず、重ねる順番じゃが、重ねたトリセツの一番上の家電達がベースになるヴェ、つまり、上の家電達の能力に下の家電達の能力が追加されるという事じゃヴェ。呪文を唱えることによって融合が始まるヴェ」
ヒエール様の説明を聞いて、心配そうにレイちゃんは訊ねた。
「あの……追加って、上のトリセツの家電達に吸収されるって事? 吸収された家電達はどうなるの?」
「吸収されるんじゃないだォ、融合ダォ。ちゃんと意識はあり、お互いに喋れるダォ。たとえば『バロムワン』とか『ゲッターロボ』と同じだォ」
ブラウン様のたとえが、サッパリ分からないが「意識がある」のなら、まあいいか、とレイちゃんは思った。
「トリセツを重ね、呪文を唱えるのじゃヴェ『バビエオ』とな」
「え?」
「バビエオ? 何それ」




