25、神様のもとへ
25、神様のもとへ
サンヨーは頭を抱えてしゃがみこみ、当たった氷玉とリーちゃん姉妹をチラチラ見て、考えた。
自分と姉妹との距離は約10m、投げて届かない距離ではあるが、アイツじゃ届く訳がない、無理だろ……お姉ちゃんが投げた?いやいやお姉ちゃんはそんなヒドイ事しないか。それにもし、あそこから投げて届いたとしたら「ゴス」ではすまないよな、こんなの当たったら頭割れるし。
「じゃ、誰? ってか、どこから?」
空を見上げ、周りをキョロキョロ見回しているサンヨーの様子を何度か振り返って見ながら、リーちゃん達は逃げるようにリサイクルショップへと向かった。
「ちょっとアレ、相当痛かったんじゃない? 何もしてないのにかわいそうよ」
「まだ慣れてないから、大きさが上手く加減でけへんねん」
「大丈夫、だいじょうぶ。サンヨーは石頭だし、アレくらいへっちゃらよ……多分」
とは言いながらも、ちょっと悪い事したかな? と思ったリーちゃんである。スーパーがある大通りの交差点あたりで、もう一度振り返って見てみると、氷の玉を持って騒いでいるサンヨーの他に二人の男の子がいるのが見えた。そのうちの一人は東芝君だ。
「もう一人誰かいるね。あれは?」レイちゃんが訊ねた。
「あーアレはソニーだよ」
ソニーこと曽仁歩人君。サンヨーと同じくリーちゃんの同級生だ。ゲームが大好きだけどオタクっぽい、という訳でもない。走るのも凄く速い元気な子だ。
「ありゃー、氷玉持って騒いでるね、アレまずくない?」
3人の様子を見てリーちゃんは心配そうな顔でレイちゃんに聞いた。
「うーん、やっぱり少し大きすぎたか……じゃ、こうしとこうか」
「え? こうしとこうって、どうするの?」
「回収っ!」
レイちゃんは右手の人差し指を立て、くいっと曲げながら、また呪文らしくない呪文を唱えた。するとサンヨーの手から氷玉がスッと消え、リーちゃんの足元にコロンと現れた。
「これでエエやろ?」
「エエやろ? じゃないよ、見てみなよ」
リーちゃんは呆れ顔でドーナツ公園の方を指さした。
アスレチックの上でサンヨー達3人がびっくりし、はじけるようにひっくり返っているのが見えた。男子のくせに金切り声のような悲鳴を上げているのも聞こえてくる。
「あ……ひょっとしてボクいらん事したかな? もういっぺん、あっちに戻そうか?」
「もういい、もういいよ! 余計にややこしくなっちゃう」
そう言ってリーちゃんは足元の氷玉をコンと蹴飛ばした。氷玉は熱いアスファルトに水のラインを付けながらコロコロ転がっていった。
「なんだよ、リーちゃんが落とせって言うたのにブツブツ……」
ブツブツ文句を言いながらレイちゃんは指をパチンと鳴らした。氷玉はシュワーッと昇華して消えた。「勝手に氷」の魔法で作った氷は形や大きさ、場所などを自由に選択できるらしい。
より正確に氷を思い通りに操るには、もう少し練習が必要なようだが。
そうこうしているうちにリーちゃん達はリサイクルショップの前に到着した。開店して間もないのでお客さんもそんなに多くはない。リーちゃん達はまっすぐ神様の所に向かった。
家具家電コーナーを通り抜け、おもちゃ&ホビーのコーナーに差し掛かったところでリーちゃんはミーちゃんに、神様に会う時の注意事項を伝えた。
「あのね、お姉ちゃん。ヒエール様が見える所にいるときは声を出して喋らなくてもいいのよ、心の中で思うだけで話すことができるから。冷蔵庫と喋ってると周りにいる人が変に思うでしょ。真剣コンタクトレンズって言うんだって。あとね、小っちゃくって金庫みたいだけど、それ絶対言っちゃダメよ、気にしてるみたいだから」
「わかったわ、じゃんけんコンパクトレンジね。魔法みたいでワクワクするわ。あと、笑わないように注意、注意。先生も言ってたわ、第一印象が大事だって」
事前の打ち合わせをしている二人の心の中に、あの御方の声が割り込んできた。
気付かないうちに、ヒエール様の視界の届く所に来てしまったようだ。
「こりゃーっ、リーちゃんよ、全部ぜーんぶ聞こえているヴェ! 小っちゃい? 金庫みたい? ホホーゥこんな色白でカワイイ金庫がどこにあるのかヴェ? それにこの神技は『神眼コンタクト』じゃヴェ、なーんか二人ともちょこちょこ間違っているヴェ」
「あっヒエール様おはよー。ブラウン様とペタンコ様も起きてるー? すぐみんなを呼び出すから、よろしくね」
リーちゃんはヒエール様の話を1ミリも聞かないまま、カミテレコンのリボンを手に取り、家電達のボタンをプチプチ押し始めた。
ボン
「おおっ? リーちゃん、ここがリサイクルショップかいな、へぇー、洗面所の一億倍は広いな」
ボン
「なるほど、本当に一瞬なんだね。えー、そしてあなた達が神様ですか? 初めまして、液晶テレビの五重丸と申します」
ボン
「アハハすごーい、私お出掛けしちゃった。あっ五重丸君とジャブ君も今来たところー?」
ボン
「フガフガ、ベフッワンワンワン!、ベフベフベフ」
最後に呼び出されたベフちゃんは嬉しそうにショーケースの周りを走り回った。
「あーっベフちゃん走っちゃダメよ、ジャブもすずちゃんもこっちこっち、五重丸君の所にしゅーごーう」
リーちゃんはどこかに行ってしまいそうなベフのコードを慌てて掴んだ。コードはカリカリと伸びて、赤い線が出たところで止まり、リードをつながれた犬みたいになった。
ジャブとすずちゃんもいまいちまとまりの悪い団体旅行客のように、ワラワラ集まってきた。
リーちゃん姉妹と5台の家電達は、神様の前にずらりと並んだ。神様はそれを右から左へゆっくりと見渡し、威厳のある声でゆっくりと話し始めた。
「オホン、皆の者、我が冷蔵庫の神、リフリージェヒエールじゃヴェ。家電達よ、タマシールの魔力で魂を吹き込まれた汝らはリーちゃんと『言霊の契約』を結び、このように本体から離れ活動できるようになったヴェ。そして、今ここで我と契約を結び、我とリーちゃんに協力することを誓うヴェ、そうすれば汝らもレイ太のように魔法を……ウヒャ、ウヒャヒャヒャ」
偉そうにしゃべっていたヒエール様は突然笑い出した。ベフちゃんがヒエール様の足元をペロペロ舐めたからだ。
「こりゃー! 犬っ、舐めるんじゃないヴェ、錆びるヴェッ」




