22、呼び出しボタン
22、呼び出しボタン
「う……うーん、誰だよぉ扇風機止めたの。暑いのに……」
リモコンを持ったままテレビの前で倒れるように寝ていたお父さんが不機嫌そうに体を転がし扇風機のスイッチを入れようと手を伸ばした。それを見たすずちゃんは、
「あっお父さんごめんね、今すぐ涼しくするから」
お父さんの伸ばした手より先に自分の本体のスイッチを押した。いや、押そうとしたのだが、その手は扇風機の本体に吸い込まれるように入り、あっという間に本体に戻ってしまった。
「わーっ、わたし元に戻っちゃったぁ、よいしょっと……あれ? で、出れない! 出れないよ、リーちゃん助けてー!」
お父さんは、口を手でふさいで目を丸くしている姉妹を(何やってんだ? と)横目で見ながら扇風機の「中」ボタンを押した。羽根が回転し始め、扇風機は首を振りながら、心地よい風をリビングに送り始めた。
「あらら……すずちゃん自分に吸い込まれちゃったよ。大丈夫かな?」
ミーちゃんはリーちゃんの耳元でヒソヒソ声でささやいた。リーちゃんも口に手を添え、小声で答えた。
「うん、大丈夫。でもお父さんがいると話しにくいから、みんなと一緒に3階に行こう」
「そうね、じゃあみんな行くわよ、ついてきて」
「えっ? 待って、わたしを置いてくのー? 待ってよー」
すずちゃんは泣きそうな声で叫んだ。
「すずちゃん落ち着いて、ちょっとそこでまっててね」 リーちゃんはすずちゃんに囁いた。
扇風機で涼んでいるお父さんは、誰もいないところに手招きをしたり扇風機にないしょ話をしている変な姉妹をボーっとした顔で見ていた。
「あのー、キミたち、さっきから何してるんだい?」
「えっ! べ、別にぃ……オー、ワレワレハ、ウチュウジンダ、ピポピポピーー」
リーちゃんは扇風機に顔を近づけ、宇宙人のまねをした。ノリのいいお父さんも喉仏に小刻みにチョップを入れ、宇宙人リーと交信し始めた。「ヨウコソ、チキュウヘ……」
そのすきにミーちゃんと家電達は3階へ向かった。全員が階段を上ったのを見て、宇宙人リーもヘナヘナ歩きでそのあとに続いた。
「サラバジャ、チキュウジンヨ、キミタチハトモダチ、キーン」
宇宙人リーとその仲間たちは無事、第3階宇宙、子供部屋星雲へと旅立って行った。
それを見送る地球人のおっさんと半べその扇風機。リビングに再び平和が戻った……?
「ふう、さてと」
小芝居を終えたリーちゃんは学習チェアに座り、クルクル回りながら、カミテレコンでヒエール様と話し始めた。
「ヒエール様、扇風機のすずちゃんが元に戻って出てこれなくなったんだけどどうしたらいい?」
「フォフォッ心配するでないヴェ、家電達は「言霊の契約」をした人の手で本体から引っ張り出してやらないと出られないのじゃヴェ、元々そういうもんなのじゃヴェ」
「そっかぁ、じゃ、すずちゃんもあたしがもう一度引っ張り出してあげればいいのね」
「そうじゃヴェ、でももっと簡単な方法があるヴェ。カミテレコンのリボンを外してみるヴェ」
ヒエール様にそう言われ、リーちゃんはカチューシャからリボンを取り外した。リボンの裏のボタンが虹色にホワホワ光っている。リーちゃんがそれを楽しそうに見つめていると、ヒエール様が続きを話し始めた。
「今、光っているボタンを一つだけ押してリーちゃんが付けた家電達の名前を言ってみるがよい。一つずつじゃヴェ」
リーちゃんは言われた通り光っているボタンを一つ押し「レイ太」と言った、すると押されたボタンはピッと一瞬強く光り、ボタンに「レイ太」の文字が刻まれた。
「どうじゃ?ボタンに名前が刻まれたであろう。これで登録完了じゃヴェ。そのボタンを押すと、どこにいても家電達を呼び出すことができるヴェ」
〇カミテレコンの機能(呼び出しボタン)
カミテレコンの空きボタンに家電達の名前を登録することができる。
登録されたボタンを押すと、家電達をいつでもどこでも呼び出すことができる。
距離は関係なく、壁などの障害物があっても問題はない。
家電達の体力状態でボタンの色が変化する。
緑色…元気いっぱい。
黄色…ちょっと疲れた。
赤色…疲れた。点滅しだすと5分位でバタンキューになってしまう。
家電達を戻したいときはもう一度ボタンを押すだけ。
※注意事項…ボタン登録した家電達は、手で直接引っ張りだせなくなる。
「へぇーどこにいても?便利だね。じゃ、他の子達も登録しようっと」
リーちゃんは他の家電達も次々と空きボタンに登録していった。カミテレコンのボタンは家電達の名前でいっぱいになった。
「わーっ、もう空いてるボタンが一つだけになったよ」
「やっぱり、5人くらいがちょどいいのよ、リー、試しに使ってみなよ」
「え?」
「すずちゃんよ、2階にいるすずちゃんを呼び出してみなって」
「あっそうか」
リーちゃんは「すず」のボタンを押した。すると、目の前にすずちゃんがポン! と現れた。驚いた顔で首を目いっぱい伸ばしキョロキョロしているすずちゃんにジャブがすかさず声を掛ける。
「よぉすずちゃん、久しぶりやなあ、ちょっと見んうちに大きくなって」
「あれっ? ここはどこ? わたしどうやってここに来たの?」
「すずちゃん大丈夫、ここは3階の子供部屋よ。あたしがこれで呼び出したのよ」
リーちゃんはリボンをすずちゃんに見せた。カミテレコンのボタンはレイちゃんのボタンだけ赤色、他の家電達は緑色に光っていた。
「ほら、見て。お名前が緑になってる子と赤になってる子がいるでしょ。赤の子は疲れているからしばらく出られないの。緑の子も赤になる前に元に戻らないといけないのよ」
「なるほど、僕たちもしばらくしたら本体に戻らなくてはいけないんだね」
五重丸はリーちゃんの話を聞いてそう答えた。ジャブやレイちゃんより落ち着いた雰囲気の家電達である。
「その通りじゃヴェ、バタンキューになると回復にも時間がかかるから気を付けるヴェ。詳しいことは明日来てくれた時に話すヴェ。会うのを楽しみにしているヴェ」
「オッケー神様、ほな今日はもうこの辺にして、帰って屁こいて寝よか。なあ、みんな」
「そうね、本体に戻ってもおしゃべりは出来るし、私はいいわよ、帰っても」
「ベフベフハッハッハッ」
こてこて関西人の洗濯機と冷蔵庫、かしこそうなテレビに乙女の扇風機。そして犬の炊飯器……
このメンバーで、大丈夫なのかしら?




