19、お姉ちゃんにタマシール
19、お姉ちゃんにタマシール
どれくらい時間がたっただろうか。ミーちゃんは小さなため息をついて、だらしない格好で寝ているリーちゃんの方に近づいて体をゆすった。
「リー、起きてよ、起きてってば!」
「んーうにゃ……」
気持ちよく寝ていたリーちゃんは、ミーちゃんに揺り起こされ、不機嫌そうに顔を上げた。
「うーん誰? レイちゃん?」
「違うって私よわたし、ヒエール様から大体のことは聞いたわ。いなくなった電気釜を探すんだって? それであんた、ヒエール様にタマシールってのをもらったでしょ、それ私にもちょうだいよ」
家電に魂を定着させる呪符タマシール。神様に聞いたんだろうけど、なんでお姉ちゃん欲しがるんだろ? 寝ぼけた脳ミソでボーッとしてるリーちゃんにミーちゃんの話は続く。
「レイ太っていう冷蔵庫のオバケみたいなのがどっかにいるんでしょ? それってなんであんたにしか見えないか知ってる?」
聞かれたリーちゃんは、よだれを手で拭いながらベッドの上に立ちあがり、偉そうに腰に両手をあてた。
「ヒエール様は、あたしが勇者だって言ってたよ、だから見えるんじゃない」
「そんな訳ないでしょ、それはね、あんたがタマシールを冷蔵庫に貼ったからよ。シールを使ったことのある人だけオバケを見たり触ったり出来るようになるのよ」
「なーんだ、そうなんだ」
リーちゃんは、少しがっかりしながらミーちゃんの話の続きを聞いた。
「今から家電の仲間を増やすんでしょ、だったら私にもタマシールを使わせて、そうしたら私にもレイちゃんが見えるようになるから。ほら、これ返すね」
そう言ってミーちゃんはカミテレコンを渡した。リーちゃんがそれを頭につけると、ヒエール様の話し声が聞こえてきた。
「リーちゃんよ、ミーちゃんにも今回の事を説明したら、快く協力してくれるそうじゃヴェ。ミーちゃんもタマシールを使えば、レイ太が見えるようになるから渡してやるヴェ」
確かに。お姉ちゃんはムダに鋭い所があるし、ごまかそうとしてもすぐバレちゃう。逆に仲間にしておけばすごく心強いわね。
「分かった、じゃ、これがタマシールよ。お母さん達に見つからないようこっそり貼るのよ。あ、名前はあたしが付けるからね、ヒエール様に任せられてるから」
リーちゃんはバッグからタマシールを一枚取り出し、ミーちゃんに渡した。この件に関しては一応「先輩」なので、いつもよりちょっと偉そうに。
シールを受け取ったミーちゃんは(ふーん、綺麗なシールだけど……コレにそんなパワーがあるのかな?)疑いながら、光に当ててみたり、臭いを嗅いでみたりしてみた。
なんでも臭いを嗅ぎたがる変な姉妹である。
「こんなシールで? ホントなの? 実際やってみないと信じられないからね。えーっと何に貼ろうかしら」
「お父さんとお母さんは、今リビングにいるから一階の洗濯機がいいんじゃない?」
「そっかぁ、そうね、じゃ洗面所に行くわよ、おいでっ」
そう言っていきなりミーちゃんダーッシュ! 遅れまいとリーちゃんも後ろを追う。二人は三階の子供部屋から一階にある洗面所を目指し階段を走り降りた。
ドドドドドドドドドーッ
二階で洗濯物をたたんでいるお母さんがいつものように怒鳴っていたが無視ぃぃ、一気に通過し、新記録の速さで洗面所に到着した。
「ふーっ、さてと、どの辺に貼ろうかしら」
「貼った跡がシミになるから下のほうがいいと思うよ」
リーちゃんにそう言われ、ミーちゃんは排水ホースの後ろあたりにタマシールを貼り付けた。すると、シールは一瞬ホワッと光り、魂を吹き込まれた洗濯機は驚いたように叫んだ。
「わっ、えっ? ここはどこなん?」
「うわ、すごーい、ホントにしゃべったよ」
こんなシール張るだけで家電がしゃべるなんて……半信半疑だったミーちゃんも、実際目の前でそれが起こってしまうと、もう信じるしかない。ポカンとした顔で洗濯機を見ているミーちゃん、その横にひょいと「先輩」のリーちゃんが飛び出した。
「はーい洗濯機さーん、怖がらないでねー。はじめましてあたしは香織、リーちゃんって呼んでね、そしてこっちはお姉ちゃんの美香、ミーちゃんでーす。今からあなたもお友達よ。じゃあ、あなたにもお名前付けてあげるね。えーっと……」
洗濯機はまだ一言しか喋ってないのに……「言霊の契約」はどんどん進んでいく。リーちゃんは洗濯機をジーッと見つめ、しばらく考えて、フッと笑った。名前が決まったみたい。
「あなたは毎日ジャブジャブ洗濯してくれるから『ジャブ』ってのはどうかな?」
「ジャブ? それがオレの名前か……うん、悪い気はせーへんな、あれ? 何か体があったかくなってきた感じやけど」
たしかレイちゃんに名前を付けてあげた時も体が温かくなってきたって言ってたわ、多分いい名前を付けられたってことなのね。
じゃ、いってみようか。
「さっ、ジャブちゃん出ておいで」
リーちゃんはそう言って洗濯機に手を当てた。するとその手は洗濯機にブニュっとめり込んだ。ミーちゃんは悲鳴を上げそうになった口を手で押さえ、目を丸くしその様子を見守った。
そしてリーちゃんが洗濯機から手を引き抜くと手足の生えた小さな洗濯機が付いてきた。
「し、信じられない……でも、カワイイかも……」




