15、三種の神器様
15、三種の神器様
ドドドドドドドドドォーー!
昼下がりの閑静な住宅街を、リーちゃんがすごいスピードで駆け抜けてゆく。
この勢いで一気に家まで走って帰りたいところだが、小1女子の体力ではやっぱムリ。リーちゃんはふらふらとドーナツ公園に入り、ピンク色のタイヤに腰を掛けた。
「ハアハア、あっついなぁもう」
リーちゃんはショルダーバッグからハンカチとカミテレコンを出し、オデコの汗を拭きながら神様に電話を掛けた。
ビチビチビチ♪ビチビチビチ♪
「おぉリーちゃんよ、どうしたヴェ? 急に声が遠くなったと思ったらプツっと切れてしまって」
「神様、大変なの。レイちゃんが家に帰る途中あたしを助けようとして、魔法を使ってしまったの」
リーちゃんは横断歩道での出来事を神様に話した。話してるうちに今までの緊張が解けたのか、涙が勝手にあふれてきた。なにせトラックに轢かれかけたのだから……相当怖かったのだろう。
「そうかそうか、そりゃ大変じゃったのう。心配せんでもレイ太は大丈夫じゃ。なにせ我ら冷蔵庫は家電の中でも最強クラスのパワーを持っておるヴェ、ちょっとやそっとじゃくたばらないヴェ。本体に戻してやれば明日には元気になるヴェ。じゃからリーちゃんも泣かないで元気だすヴェ?」
神様に慰められ、少し元気を取り戻したリーちゃんはコクっとうなずき、涙を拭いてニコっと笑った。
神様と喋っているうちに疲れもとれてきたし、そろそろ家に帰ろうと腰を上げた時、カミテレコンから聞きなれない声が聞こえてきた。
「だから言わんこっちゃないだォ? 確かに冷蔵庫殿のパワーは凄いが、やはりこの件を解決するには我の力も必要だォよ」
「そうだボー、それにさっきのような事がまたあったら、きっと我の出番もあるボー」
「あれ?神様、横に誰かいるの? お友達?」
リーちゃんの問いかけに神様はふぉふぉっと笑い、声の主を紹介し始めた。
「まあ、お友達と言えばそうかもしれぬがのう、ほれ、先ほどリサちゃんの店内で我の両脇にあった家電を覚えておるかの? 今喋っていたのはこの2台の家電じゃヴェ、我ら3台を人々は3種の神器と呼ぶヴェ」
「え? 何? さんしゅのインチキ?」
「インチキじゃない、神器だヴェ、白黒テレビ、ローラー絞り機付き洗濯機、そして我、電気冷蔵庫の3台が3種の神器じゃヴェ」
「じんぎ」って言うのも何か分からないんだけどまあいいや、とにかく神様が3人ってことね。ボーとかダォとか神様って変なしゃべり方する人ばっかりね。
相変わらず神様の話は半分くらいしか分からないけど、それでも辛うじてポイントは抑えているようなのでまあ、大丈夫だろう。
リーちゃんはドーナツ公園を出て、再び家の方に歩き始めた。パニクっていた気持ちも治まってきたので神様としゃべりながらゆっくりと。
「でもさぁ、そっちに神様が3人もいたら何て呼べばいいの? 神様だけじゃ誰か判らないよね」
「なるほど、神様だけじゃ判らないヴェ」
「そうだボー、誰に用があるのか判らないボ?」
「さっぱり判らんダォ」
「ワイワイ、ガヤガヤ」
リーちゃんの言葉を聞き3人の神様が一斉にしゃべりだし、カミテレコンの受話口から騒音のように飛びだして来た。あまりにもうるさかったので険しい顔をして受話口から少し耳を離し返事をした。
「もー! いっぺんに喋らないでよ、何言ってるのか分かんないよ。二人のお名前を教えてくれればいいだけでしょ!」
そう言われ、神様たちは好き勝手に話すのをやめ、代表して冷蔵庫の神様が答えた。
「おお、そうか。そういえば二人に自己紹介をさせてなかったヴェ、うっかりしていたヴェ。じゃあテレビ殿、そなたから自己紹介するヴェ」
「承知したォ、オホン、吾輩は白黒テレビのモノクロム ブラウンカーンだォ。よろしくだォ」
「そして我はローラー絞り機付き洗濯機のアフタワッシュ ペタンコだボー。我ら三神がついておれば大丈夫だボー」
二人の神様の自己紹介を聞いてリーちゃんはフーンと青空を見上げ、少し考えて答えた。
「分かったわ、じゃ、テレビの神様はブラウン様、ナントカ付き洗濯機の神様はペタンコ様って事でいい? 冷蔵庫の神様は……えーっとなんだっけ?」
「プッ、あひゃひゃ……」受話口から神様たちの吹き出すような笑い声が聞こえた。
「おいおい、我の名を忘れたのかヴェ、全く情けないのう、我は電気冷蔵庫の神、リフリージェ ヒエールじゃヴェ」
リーちゃんは下をペロッと出して笑い、カミテレコンに頭を下げながら答えた。
「アハハッ、ゴメンゴメンね。そうそうそんな名前だったわね、じゃ、冷蔵庫の神様はヒエール様でいい?」
「ヒエール様ね、ハイハイそれでいいヴェ、また忘れられたら困るからカミテレコンのボタンも神からヒエールに変えてやるヴェ……ヒエヒエホイっと」
めんどうくさそうにヒエール様がそう唱えると、カミテレコンが一瞬ホワッと光りボタンの表示が変わった。それを見てリーちゃんはびっくりして叫んだ。
「わーっボタンが変わった! すごいねえ、こんなことできるんだ。神様はやっぱり神様なんだね」
褒められたヒエール様は、気をよくして神様っぽく答えた。
「ふぉふぉふぉ、驚いたかヴェ? このカミテレコンは我が創った神具ゆえにいつでも改良可能じゃヴェ。気になる所があれば言うがよい、直ぐに改良してやるヴェ」
「えっそうなの? じゃあ……ちょっと待って」
リーちゃんは、カミテレコンを一旦耳元から離し、裏返したり匂いを嗅いでみたり、一通り観察してヒエール様に話し始めた。
「まずね、このおもちゃっぽいこの感じ何とかならないかしら。色も派手だし、持ってるだけでさっきみたいにバカにされるし、もっと大人っぽい色にして、何かこう持ち歩きやすいように折りたためるとか、ぶら下げるようにするとか、あーそれと、ビチビチビチビチ汚い着メロも可愛い音に変えて、これは絶対よ。後は……」
リーちゃんの畳み掛けるようなダメ出しを聞いて、神様たちは大笑いして話し出した。
「ウヒャヒャ、ヒエール殿、全然ぜーんぜんダメではないかボー?」
「うう……そうなのかヴェ、子供だからと言っておもちゃっぽいのはダメかヴェ」
「カミテレコンは秘密のアイテムだォ、あまり目立たないようにせねばだォ? リーちゃんよ、我ら三神でクールに改良してやるから、ひとまず見た目は……ブラブラホイっと」
テレビのブラウン様がそう言うと、耳元でカミテレコンがホワッと光った。なんだろうと見てみると何も書いていなかったボタンの一つに「ミミクリー」という文字が現れた。
「リーちゃんよ、その新しいボタンを押しながら、ミミクリクリクリ〇〇になぁれ、と唱えるとカミテレコンの見た目を変える事ができるのダォ。とりあえずおススメは髪飾りみたいに身に着けられるものダォ」
「わぁすごい! それって魔法みたいね、やってみるね」
リーちゃんはカミテレコンのボタンを押し、魔法少女っぽく空に掲げた。
「ミミクリクリクリ、カチューシャになぁーれ」
リーちゃんの想いに反応し、カミテレコンは光に包まれながら粘土のように、ぐにゃりと形を変え始めた。




