14、サンヨーと芝浦くん
14,サンヨーと芝浦くん
リーちゃんは声の聞こえた方を見ると、二人の男の子がいた。そのうちの一人が電話をかける格好をしてこっちに手を振っている。
それを見てリーちゃんは、不機嫌そうに口をへの字にして呟いた。
「わっ、サイテー……!」
「あれ誰? こっちに手を振ってるみたいやけど」
「うちの向かいに住んでいる三井洋だよ。隣にいるのは芝浦君。何でサンヨーなんかと遊んでるんだろ」
「あぁーあれが、みついひろし君か」とレイちゃんは思った。
レイちゃんがまだ、ただの喋れる冷蔵庫だった頃、松下家の話題の中に時々出てきていたのを覚えていたから、名前は知っていた。でも顔を見たのは今日が初めてだ。
三井の「三」と名前の「洋」をくっつけてあだ名は「サンヨー」
もう一人は5月頃、東京から引っ越して来た芝浦光君。東京から来た芝浦であだ名は「東芝」二人ともリーちゃんの同級生だ。
リーちゃんとサンヨーの家は、同じ頃この街に引っ越して来て、お向かい同士ということもありよちよち歩きの頃からよく遊んでいたが、今年の春、小学校で同じクラスになってから何かにつけてリーちゃんをからかうようになった。
「しりとリーぃ」っていうのもリーちゃんのお姉ちゃんと名前が「みか→かおり」と、しりとりみたいになっているから。
それをいじって付けたあだ名でクラスに流行らそうとして、リーちゃんを見るといつも「よぉ、しりとリー」と声をかけてくるのだ。
その事もリーちゃんがお母さんに話しているのを聞いたことがある。とんでもない悪ガキで、きっとゴリラみたいな顔したやんちゃな奴なんやろうとレイちゃんは思っていたが、見た目はいたって普通の元気な男の子だ。
もう一人の東芝君はサンヨーより背が高く色白でおとなしそうな感じの子だ。
「なんじゃヴェ? リーちゃんよ、何かあったのかヴェ?」
カミテレコン越しに聞いていた神様が、何かあったのかと心配して訊ねてきた。
「え? ああ何でもないのよ、ちょっとヤな奴がねぇ……」
信号が青に変わるのを待ちながらリーちゃんは、大通りの向かい側にいる男子のことを神様に話し初めた。
「ひろし君、信号渡らないんだろ? もう行こうよ」
東芝はめんどうくさそうに、リーちゃんをからかっているサンヨーのシャツを引っ張った。引っ張られたサンヨーはちょっとよろけながらもリーちゃんの方に向かって叫んだ。
「おっとっと、わかった、わかったよ。じゃあなー! かおりーリンゴーゴリラーラッパー!」
そう言った後、サンヨーはラッパを吹く格好をした。すると、偶然か信号が青に変わりペッポー ペッポーと誘導音が鳴り始めた。サンヨーはその音に合わせ、ラッパを吹いて行進するように歩き始めた。東芝君もこっちをチラチラ気にしながらその後をついて行った。
「んーもぉ、ムカつく!!」
リーちゃんはサンヨーに文句の一つも言ってやろうと信号待ちをしていた何人かの人を追い越して勢いよく横断歩道に飛び出した。レイちゃんを置いてきぼりにして。
「あーっ! あぶない!」
歩行者用信号は青でペッポーも鳴っていた……! でも、なぜか横からトラックが交差点に突っ込んできたのだ。運転手は前を見ていないようだ、信号無視だ!
歩道にいた人たちの悲鳴で運転手は目の前のリーちゃんに気付き、急ブレーキをかけた、が、間に合わない!
リーちゃんもビックリしてその場で腰が抜けたようにへたり込んでしまった。
向かい側の歩道を行進していたサンヨーと東芝君も騒ぎに気付き、振り向いて叫んだ。
「あぁ松下さんが!」
「うおっ、しり……かおりーっ!」
トラックはタイヤから白煙を上げながら迫ってくる、リーちゃんも大声で悲鳴を上げた。
「いやぁーーーーーっ!!」
その時、というか、ほぼ同時。白い物体が歩道から飛び出して来た!レイちゃんだ。
「瞬間冷凍フリーズ!!」
ピキーン
レイちゃんがトラックとリーちゃんの間に滑り込むように割って入り、そう唱えるとトラックのタイヤが一瞬にして凍り付いた。
トラックは前輪が氷で固定され、リーちゃんの数十センチ手前で止まった。
※「フリーズ」この魔法は、構えた手から冷気を発射し、相手を凍り付かせ活動を停止させる。その他いろいろ使い道がある便利な魔法だが、疲れている今のレイちゃんにはかなりキツかったようだ。
倒れたレイちゃんはゴロンとリーちゃんの方に転がり、か細い声で訊ねた。
「リーちゃん……大丈夫? ……ケガ……して……へん?」
「あたしは大丈夫よ!ごめんね、あたしが飛び出してしまったから……こんなことに」
「そう……よかった……あと……ぼーそー族は警察に……24時に……」
そこまで言った後、レイちゃんはプスーっという音を立てながらキャラメルの箱位の大きさに縮んで動かなくなってしまった。神様が言っていたバタンキューだ。
「わーっレイちゃんバタンキューになっちゃった。早く冷蔵庫に戻さないと……よね?」
そうこうしているうちに、交差点付近にいた人たちやトラックの運転手らが、リーちゃんの周りに集まって来て心配そうに声をかけてきた。
「お嬢ちゃん、大丈夫?危なかったねぇ、ケガしてない?」
「すみません……携帯ちょっと見てたら信号見落としてしまって……」
「えーっ?危ないなあもう!それ違反じゃない!警察、警察」
「わーそれだけは勘弁して~、免停喰らっちゃうよ~」
「それにしても凄くブレーキの効くトラックだな。後輪浮き上がってたぜ」
野次馬に囲まれたリーちゃんは、へたり込んだ時にぶちまけたショルダーバッグの中身をあたふたと拾い集め、レイちゃんも一緒に中に詰め込んだ。
「あ、あたしは大丈夫でーす、すみませんでしたぁー」
とにかくこの場を立ち去りレイちゃんを何とかしたいリーちゃんは立ち上がり、集まっていた野次馬をかき分け歩き出した。膝を少し擦りむいたけど、なるべく元気そうに。
「お、おい、ちょ……」
野次馬の後ろの方にいたサンヨーと東芝も声をかけようとしたが、リーちゃんは目も合わせず前を走り去っていった。
「ちぇっなんだよ、心配してやってるのに、なあ東芝」
「うん……でも今、何かおかしかったよね。一瞬タイヤが凍り付いたように見えたけど」
「あっ俺も見た見た。でも気のせいだよ。このクソ暑いのにタイヤが凍る訳ないじゃん」
「そうだね。多分気のせいだね」
二人はしゃべりながら歩道へ戻っていった。サンヨーは横断歩道の白い線だけを踏むように少し大股で歩いていると、何かキラッと光るものが落ちているのを見つけ拾った。
「なんだコレ、綺麗なシールだな。ゲットゲットー」




