13、初めての魔法
13、初めての魔法
梅雨の晴れ間、今日は朝から雲一つないいい天気。
お出かけ指数、洗濯指数共に100%、そして朝からあずきバーをこっそり食べたくなるくらい暑い。まるで真夏のようだ。
冷房の効いたリサイクルショップから出てきたリーちゃんには、気温以上に暑く感じられた。二人は日差しを避けるように日影を選びながら大通りの方へ歩いて行った。
汗っかきのリーちゃんは顔の汗を両手のひらでぬぐいながら、後ろにいるレイちゃんに声をかけた。
「あー暑い、レイちゃん、のど乾いたよぉ、ジュースかお茶出してよ。アイスでもいいよ」
暑そうにしているリーちゃんを見て、レイちゃんは申し訳なさそうに返事した。
「ゴメン、さっきトリセツ出した時に気が付いたんやけど、ボクの中に何が入っているかは見えるけどそれを動かしたり取り出したりはできないみたいなんや」
それを聞いてリーちゃんはガクッと肩を落としぼやいた。
「えーっ、そうだったの? だったら水筒持ってきたらよかったぁ」
リーちゃんは冷蔵庫と一緒にお出かけしているんだから、(水筒なんか持ってかなくてもいつでもお茶飲めるもーん)と思っていたようだ。
しかし、残念ながら、ここにいるレイちゃんはリーちゃんにしか見えないお化けみたいなものである。
もし、ここでジュースが取り出せたとしたら、他の人からは空中から突然ジュースが出てきたみたいに見えるし、家の方でお母さんがたまたま冷蔵庫を開けていた時にボトルポケットのジュースがヒュッと消えたら、腰を抜かしてひっくり返るだろう。
「しょうがないなー、家まで我慢するかぁ」
ガッカリしているリーちゃんを見て、何とかならないもんか、と考えていたレイちゃんは、さっき読んだトリセツに書いてあった魔法のことを思い出し、リーちゃんに言ってみた。
「ごめんね、飲み物は出せへんけど、ボクの魔法で暑さがちょっとマシになるかも」
「えっ? 魔法使って大丈夫なの? さっき神様に今日はやめとけって言われていたじゃない」
「魔法にも色々あって、これは魔力をほとんど使わない魔法なんや。ちょっとやってみるわ。心配しんといて、ヤバいと思ったらすぐ止めるし。えーっと……こうやって、こう?」
レイちゃんは両手のひらを前に突き出し、ラジオ体操の深呼吸みたいにゆっくり、手を回し始めた。その横で、リーちゃんは何が起こるかドキドキ、そしてちょっと心配しながら、レイちゃんの様子を見守っている。
「パァーシャル!」
……何も起こらない……「あれ?」
自信満々に広げたこの両手はどうしよう……リーちゃんの方をチラッとみて照れたように笑ってみた。な、何か間違ったかな?
と、少し妙な間があったが、両手を広げたレイちゃんの手のひらから、キラキラとしたオーロラのような光が湧き出すように出始め、リーちゃんを包み込んでいった。
「わー、きれい! すごいねぇ、レイちゃん。それに何か涼しくなったよ、とっても気持ちいい。ありがとね」
※「パーシャル」この魔法の効果は、守りたいものを光のバリアで包み込み、その内側に快適な空間を作り出す魔法である。基本的な魔法の一つなので魔力の消費も少ない。しかし、少々疲れている今のレイちゃんには、やはり少々キツイようだ。
でも……
「そう? そりゃ良かった、じゃあ家までこのままにしておくわ」
目の前でうれしそうにスキップしているリーちゃんに「やっぱ、しんどいし止めていい?」なんて言いにくいし、「ヘタレな奴やな」と思われるのもいやなので、まぁ家まで位なら何とかもつかな? とりあえず全然平気そうな顔をして後ろをついて行くことにした。
リーちゃんとレイちゃんはリサイクルショップの表の入り口のある、大通りの歩道の所まで歩いてきた。車は結構走っているが、真夏のような暑さのせいか歩道を歩いている人はまばらだ。
「あ、そうそう」リーちゃんは、思い出したようにショルダーバッグの中をゴソゴソ探り、さっき神様からもらったものを取り出してレイちゃんに見せた。
「なんだろね、これ」
何かのリモコンのような形だが色はピンク系の派手な色で、見るからにおもちゃっぽい。多分、子供が持ち歩いていても周りから怪しまれないように神様が気を使って、わざと、おもちゃっぽい外観に仕上げたのだろう……多分。
「うーん、リモコンのような、電話のような……ボタンはいっぱいあるのに数字も何も書いてないし……あれ? このボタンだけ何か字が書いてある。でもこの漢字読めないし。ねぇレイちゃん読める? なんて書いてあるのかな?」
リーちゃんにそう言われ、レイちゃんは後ろからのぞき込むようにそのボタンを見てみた。
そこには「神」と書いてあった。リーちゃんはまだ学校でまだ教えてもらっていない漢字なので読めなかったようだ。
「これはカミっていう字やな。神様のカミ」
「ふーん、神様のカミかぁ、レイちゃん読めるんだ、かしこいねぇ。それで、これ押したらどうなるんだろ、ちょっと押してみよっか」
「えっ? 押すの?ちょっと待って、も少し調べてから押し……」
プチ
「あ」
レイちゃんが止めようとしたが、リーちゃんは躊躇することなく「神」のボタンを押してしまった。するとそのリモコンのようなものは一瞬ホワッと光り、奥の方から汚い感じの音が鳴り始めた。
「ビチビチビチ♪ビチビチビチ♪」
「あ、やっぱりこれ電話なんだよ、でも何なの?この臭そうな音」
「どこにかかったんやろ。神のボタン押してつながったんやからやっぱり……」
リーちゃんは音の聞こえる所を探し、耳を当ててみた。まもなく臭そうな音がプツっと切れ、さっきまで聞いていたあの御方の声が聞こえた。
「おお、リーちゃんかヴェ?もう家に着いたのかヴェ。帰ったころを見計らって連絡しようと思っておったのに、それにしても説明もしておらんのによく使い方が分かったのう、さすがじゃヴェ、あっぱれパレパレじゃヴェ」
興味半分に神ボタンを押しただけなのに褒められたリーちゃんは、照れくさそうに笑ってレイちゃんに伝えた。
「アハ、やっぱり神様だったよレイちゃん、電話に出たの」
それを聞いたレイちゃんは、リーちゃんに近づき、すかさず突っ込んだ。
「あのぅ神様、レイ太やけど、確か神様は心の中で思うだけで喋れるんのとちゃうの?何でわざわざ電話なん?」
リーちゃんも、その質問を聞いてかぶせるように質問した。
「そうそう、おかしいわよね、それにこのビチビチいう汚い音何とかならないかしら、何も書いてないボタンもいっぱいついてるし、あと、これパケ代かかるの?エーユーなの?ドコモなの?」
いきなりの質問攻めに、電話の向こうの神様はフフッと笑って質問に答え始めた。
「まあまあ落ち着けヴェ、これはカミテレコンという我が創ったもので電話のようで電話じゃないヴェ、神眼コンタクトが出来ない遠いところにいても我と会話ができる超便利激レアアイテムじゃヴェ」
リーちゃんは一旦、耳から離し、じろじろとあちこちを見て、また話し始めた。
「ふーん、カミテレコンって言うんだコレ、で、「しんがんナントカ」って何?」
「神眼コンタクトとは声を出さず直接、話したい相手の心に想いを伝えるテレパシーのような神技じゃヴェ。ただしこれは我の目の届く範囲にいる者にしか効果がないのじゃ。じゃからリーちゃんが遠くにいても連絡が取れるよう、カミテレコンに通話ができる機能を付けたのだヴェ」
「ふーん、何かよく分からないけど、ケータイじゃあないのねコレ。エーユーとかドコモじゃないならパケ代もいらないの?」
「パケダイとか英雄ドッコモとかは誰か知らんが何もいらないヴェ。電池もいらないヴェ」
「あーよかった、あたしもよく知らないけどパケ代が高いとダメなのよ。お父さんがお母さんに時々怒られているのを見たことあるし」
なんだかんだ言ってるけど、リーちゃんも神様もお互いの言っている事の半分くらいしかわかってないようだ。
よくまぁそれで会話が続くもんやな……そう思いながら後ろをヨタヨタついて行くレイちゃん。一人と一台が信号機のある横断歩道の近くまで来たその時。
向かい側の歩道から呼ぶ声が聞こえた。
「おーい、しりとリーぃ、一人で何やってんだよー、電話ごっこかー?」




