12、バタンキューって?
12、バタンキューって?
神様は面倒くさそうにレイちゃんの読み飛ばしたであろう所の説明を始めた。
「レイ太よ、お前は今冷蔵庫本体から抜け出して動き回っているが、ずっとこのままいられるわけではない。さっきも言ったが初めのうちは半日、慣れてきても一日くらいが限界だヴェ。魔法を使うとさらに魔力も消耗するので活動できる時間が縮まるヴェ」
そう言われればさっきから何となく体がだるいな、と感じていたレイちゃんは心配そうに神様に訊ねた。
「も、もし体力の限界がきたらどうしたらいいん……ですか?」
「体力が尽きる前に本体に戻るんじゃヴェ、しばらくすれば体力が回復してまた動けるようになるヴェ。本体に戻る前に体力が尽きてしまったらバタンキューだヴェ。体がキャラメルの箱くらいに小さくなって失神してしまうヴェ」
二人の会話を横で聞いたリーちゃんはびっくりして神様に訊ねた。
「えーっ! バタンキューになったらどうなるの? レイちゃんは死んじゃうの?」
「大丈夫じゃヴェ。自身では動けなくなるが、小さくなったレイ太を本体に押し込むように戻してやれば死ぬことはないヴェ、まあ半日ほどは意識は戻らんじゃろうがのう」
「あーよかった、レイちゃん大丈夫だって。バタンキューにならないように気を付けようね」
リーちゃんにそう言われ、レイちゃんは軽くうなずいて手に持っていたトリセツをペラペラめくり読み始めた。
「えー? そんな怖い事どこに……あっ、あったあった、うわ、こんな小っちゃい字で下の方に……フムフム……ハァ、やっぱコレ全部読まなアカンの? 面倒クセー」
……たいして分厚いトリセツでもないのにコイツときたら……と神様は小さな声でぼやいた。
しかし今日の所はもうクドクド説教している時間はないヴェ。そろそろ帰らさないと……神様は展示コーナーの傍らにある時計を見ながら二人に話した。
「実はのう、リーちゃんよ、そなたを勇者と見込んで頼みたいことがあるのだヴェ。」
神様に突然そう言われ、リーちゃんはキョトンとした顔で神様の顔を覗き込んだ。
「何? 頼み事って、あたしに出来る事なのかなぁ」
「大丈夫、リーちゃんはまだ小さいがとっても勇気のある女の子じゃから、できると信じておるヴェ。タマシールを授け冷蔵庫のレイ太を誕生させたのも、汝の手助けをさせるためじゃ。してその頼み事とは……」
と、その時、後ろから知らない女の人の声が。リーちゃんはびっくりして後ろを振り向いた。
「お嬢ちゃん、大丈夫? お父さんかお母さんは?」
一人で出入り口付近をウロウロしている(ように見える)リーちゃんを見て店の人が迷子かと思い、心配して声をかけてきたのだ。
「まずいぞ、リーちゃんよ、迷子と間違われているようだヴェ。今日の所はレイ太と一緒に家に帰るヴェ。それとホレ、これを持っていくがよい」
そう言って神様は、テレビのリモコンのようなモノをリーちゃんの足元にそっと落とした。
それに気づいたリーちゃんは振り向いた体制のままサッとそれを拾い、ショルダーバッグに押し込みつつ、クルッと一回転してバレリーナのようなポーズをとり……笑った。
「うぇへへっ、大丈夫だよーん、ありゃもうこんな時間だ。そろそろ帰らなきゃ、じゃあね! バイバーイ……(行くよ、レイちゃん)……」
変な笑い方でごまかし、リーちゃんはレイちゃんの手を引っ張ってガレージ側の出口の方にスキップスキップ。出口の手前で振り返り、スカートのすそをひょいと摘み上げ一礼。外に出て行った。
「変な子ねえ……まぁ大丈夫かナ、元気そうだし」
わざとらしいが元気そうに走り去ったリーちゃんを、少し不安げに見送り、何回か振り向きながらお姉さんは自分の持ち場に戻って行った。
「あーびっくりしたぁ」
リーちゃんはお姉さんが戻っていくのをショーウィンドウの隅っこから見届け、ホッとため息をついた。そして神様の方を向きバイバーイと手を振った。その後ろからレイちゃんもひょいと顔をだしピースサインをした。
逃げるように近くのガレージ側の出入口から店の外に出てしまったが、家に帰るには反対の大通り側に行かなくてはならない。涼しい店内を通って行きたいところだが、さっきのお姉さんに会うかもしれないので、リーちゃんは暑いけど店の外側をぐるっと回って行くことにした。
「ふあー、あっついねぇ、大丈夫? レイちゃん」
「うん、ちょっと疲れてきたけど大丈夫やで。それはそうとして、お店のお姉さん心配してたけど迷子になるってそんなに悪い事なん?」
「うーん、前に迷子になった時、お母さんにすごく怒られたことがあるし、悪い事かな? 悪い事って言うか、まぁ親を心配させるなってことよ。もしあのまま、お姉さんに連れていかれていたら……」
「た、逮捕されるの? 警察24時みたいに?」
「されないよ、たぶん。それにしてもレイちゃん好きだねぇ、警察24時。逮捕はされないけど、放送で呼び出されたりしてメチャかっこ悪いんだから」
生きていくのは色々と大変なんやな、頑張ってリーちゃんの手伝いがちゃんと出来る立派な冷蔵庫にならなアカンな、とレイちゃんは思った。




