112、レパリアン!
112、レパリアン!
背もたれに掛けたショルダーバッグが跳ねるように動き喋っている。
リーちゃんは両手で涙を拭い、椅子から下りてショルダーバッグを手に取った。
「リー、今そのカバン喋ったわね、ゴソゴソ動いて。それも生きてるの?」
「違うよ、動いてるのはこれ。この箱の中に電気釜さんが閉じ込めてあるの」
リーちゃんはそう言ってヘブレ―ジボックスを取り出し、テーブルの上にコロンと置いた。
「えっ? じ、じゃこの箱の中にさっきテレビで見た魔神オカマが入っているのか?」
「リー! 出しちゃダメよ、そんな危ない奴!」
椅子に座っていたお父さんとお母さんは、それを聞いてビックリ顔で立ち上がった。無理はない。ついさっき、ドキュメンタリーで見た恐ろしい魔神が今、我が家の食卓の上で飛び跳ねているのだから。
しかし、今はダークネームの呪縛から解放され、精神的には安定しているので攻撃してくる危険性はない。
ヒエール様から神の名前を命名されていないので、まだ神様ではないが、魔神でもない。中途半端な状態なのだが。
五重丸はその事を、お父さん達に説明した。
「それにさ、レイちゃん達を直して新品にしてくれたのもこの子なのよ。だから大丈夫」
「ホントに? もう暴れることがないのならいいけど」
「ハッハー、安心せい。もし我の体内で暴れようものなら、このサンチ様が許さないイェイ、秒で消滅させてやるイェイ」
「あら、恐ろしいこと。大丈夫、暴れたりしないからさっさとここから出しなさい」
ヘブレ―ジボックスはそう言って、テーブルの上でぴょんぴょん跳ねた。
「わかった、じゃ、出すわよ」
リーちゃんはヘブレ―ジボックスを両手のひらにのせ、「出ろっ」と念じた。
ボン
その念に反応したヘブレ―ジボックスは上部が開き、光の玉を吐き出した。その光の玉は、テーブルの上にボヨンと落ちグニャグニャと変形し始め、その光が止むとそこにはSR-18が座っていた。
「あー、シャバの空気はうまいわねー」
まるで長い間監獄に囚われていたかのようなセリフをほざき、SR-18は立ち上がり背伸びをした。お父さんとお母さんは、なんとなく懐かしさを感じるそのレトロなフォルムを見てホッと安心した。
「よかった、もっと怖い顔したのが出てくるかと思ってたら。懐かしくって素敵な形ね」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない、おいしいご飯炊いてあげようか?」
「それはまた今度でいいから、レイちゃん達を直してあげて! お願い」
「そうだったわね、どれどれ……あらまあ、派手にやられちゃったわねぇ、ちょっと待ってね」
SR-18は合掌しブツブツ呪文を唱え始めた。体表から湯気の様な光がしみ出し始め、テーブルの脚を伝って床を這い、レイちゃんとすずちゃんの方へ向かった。途中で一本の光が枝分かれをして階段から1階へ降りていった。洗面所のジャブ君のところへ向かうようだ。
「綺麗ね。クリスマスのイルミネーションみたい」
「ブツブツ……洗濯機に届いたわよ、こっちもヒドイわね。じゃあ行くわよ」
SR-18は合掌した手のひらをゆっくりと離し、タンと打ち鳴らした。
レイちゃん達の体を包み込んだ光の中でペコペコとへこんだ鋼板が元に戻るような音が聞こえる。やがて音が止み、光が消えると再び新品同様になったレイちゃん達が現れた。
リーちゃんは手を叩いて飛び跳ね、テーブルの上のSR-18に抱きついた。
「やったー!ありがとうね」
「よし、じゃお父さん、レイちゃんのコンセントをつないで。山で何が起こったのか聞かなきゃ」
五重丸にそう言われ、お父さんは急いでキッチンへ行き冷蔵庫のコードをコンセントに挿した。
ウイーン、コココココ……」
電源が入ったレイちゃんのモーター音が小さく響き、そして静かに目を開けた。次の瞬間、急に険しい顔になり両手を前に構えた。
「くそっ! やってくれたな、クラッシュアイスブリ……」
「わーっ! ストップストップ、レイちゃん落ち着いて! ここは家よ、帰ってきたのよ」
「ハッ……家? ホンマや、どないなっとんのや?」
混乱しているレイちゃんは、危うくお父さんにクラッシュアイスブリザードをブチかますところだったが、リーちゃんの声で我に返り、構えていた両手を降ろした。
放とうとしていた冷気のせいか、レイちゃんの周りは霜で覆われ真っ白になってしまった。
「お父さん、すんまへん、寝ぼけとったわ」
「ハ、ハハッ、あービックリした……」
声は笑っていたがお父さんの顔は恐怖に引きつっていた。リビングから見ていた五重丸は、ホッと胸をなでおろし、レイちゃんに話しかけた。
「レイちゃん、山で一体なにがあったんだい?」
「生中継で見てたやろ? アイツは……」
「何か目のようなものが映って、そこで映像が切れたんだ」
「そうか、アイツは、魔神オカマはまだ生きとんのや。見上げて目があった瞬間、攻撃してきよった」
「馬鹿な! 神の御霊を奪い返し、電源もないアイツは動けないはずなのに」
「何でか分からんけど攻撃してきよった、恐ろしい顔でな。別人、いや別の家電みたいやった」
ダークネームを付けられたタマシールのダークパワーと、不法投棄された家電達の怒りのキヲク、そして何処かにあるパソコンからの送電により魔神オカマは再び動き出した。
「早くヒエール様に連絡しなきゃ」
そう思いリーちゃんはカミテレコンのリボンに手を伸ばした。




