111、生中継の放送事故
111、生中継の放送事故
「何かなアレ、チリチリ光ってるよ。ムシャムシャ」
おやつを食べそこねて腹ペコ怪獣になったリーちゃん姉妹と両親は、予想通りのレトルトカレーを食べながら五重丸の実況生中継を見ている。
「お姉ちゃん見て見て、あんなの無かったよねぇ、フンの山が崩れて横にもう一つ山みたいなのができてるよ」
「リーやめてよ、カレー食べてる時にウンコの話するの」
「あたしはフンって言ったのよ、ウンコなんて言ってないもん」
「どっちでも同じじゃない。わぁーあの臭い思い出してきた、食欲無くなっちゃったわ」
そう言ってミーちゃんは、口元をゆがめながらスプーンにすくっていたご飯をパクっと食べ、ソファの方に移動した。お皿をのぞいてみると、カレーは一口くらいしか残っていない。
「食欲無くなった~」
ってほとんど完食してるじゃん。相変わらずの早食いである。
地デジカの鹿フン攻撃を見ていないお父さんとお母さんには、土の山にしか見えないので、生中継を続行してもよかったのだが、放送の品が下がるため、五重丸はフンの部分にモザイク加工を施し松下家の食卓に届けた。
「それでは特派員のレジャズさん現地の様子をお伝えください」
「はい、それではご覧ください。何やらチリチリと赤い光を放っている大きな物体は、やはり地デジカの♪♪♪攻撃でやっつけた魔神オカマのようです」
五重丸はレジャズ特派員の不適切な発言も、カレーを食べながら見ている松下家に配慮し、すかさず加工した。
「レジャズさん、魔神オカマの体が外に出てしまっているようですが自ら脱出したのででしょうか」
「ボクの推測ですが、♪♪♪の山が崩れて倒れ込んだだけでしょう。もう動くことはでけへん、じゃなくて、できないのですから」
「レイちゃん、無理に標準語でレポートしなくていいよ」
「べ、別にムリちゃう……いや、してないですけどっ。ではもうちょっと近づいてみましょう」
レジャズ特派員は鉄塔の横に降り、崩れて散らばった地デジカのフンに注意しながら魔神オカマに近づいていった。
相変わらず体表はチリチリと赤い光が走り、時折痙攣するようにビクッと動く。
「いやん、今ピクッて動いたんじゃなーい?……倒れるかも知れんな、気ィつけんと……それにしても何で光ってるんやろ。熱でも持ってんのかな」
レジャズ特派員は魔神オカマの体が倒れてきそうな方向とは逆方向に回り込み、リモコンカメラを下から上にパンしていった。
松下家のみんなはその様子を五重丸の大画面で見守っている。お父さんとお母さんは何が映っているのかよく分からないが、ついさっきまで戦っていたリーちゃん姉妹は、その巨体を改めて見てゴクッと生唾を飲み込んだ。
そして、カメラが魔神オカマの頭部あたりにさしかかった時……
「ググッ……ギャ、許さん……ギ……ャ、ん?」
「あれ? しゃべった?……オレちゃうで……キャー! キモーイ」
画面にギラギラ光る二つの目のようなものが映し出され、それを見たリーちゃん家族は驚き、体をビクッとさせた。
そして次の瞬間。
ザーーーーー
「うぐっ」
突然テレビのリモコンが吹っ飛び五重丸が苦悶の表情を浮かべた。そして生中継の画像が乱れ画面が真っ暗になってしまった。放送事故?
それとほぼ同時に、キッチンと3階の子供部屋そして洗面所で、ボコっと何かが壊れるような音がし、ベフちゃんがけたたましく吠えだした。
「ギャワワワーン!」
リーちゃんがキッチンの方を振り向くと冷蔵庫の側面がへこみ、焦げたように黒ずんでいるのが見えた。
「あーっ! レイちゃんが、レイちゃんがやられてる! どうしたの? 何が起こったの?」
「1階と3階でも音がしたわ、わたしすずちゃんを見てくるからお母さんジャブ君を見てきて! 早く!」
そう言ってミーちゃんは3階へ駆けあがっていった。お母さんも1階に下り、洗濯機の様子を見に行った。
「あーっ!」
「キャーッ、た大変!」
ミーちゃんは泣き出しそうな顔をして、カバーが痛々しくひしゃげたすずちゃんの本体を抱きかかえ階段を降りてきた。
一方、洗面所はジャブ君がダメージを受け、水浸しになっているようだ。
「そうだ、それでいい。お父さん、お母さん、冷蔵庫と洗濯機の電源を抜いて。抜いたらリーちゃんはみんなを呼び戻すんだ! 急いで!」
五重丸は苦しそうな声でそう言った。それを聞いたお父さんは頷き、急いでキッチンへ走り冷蔵庫のコードを引っこ抜いた。
1階のお母さんんも、ずぶ濡れになりながら蛇口を閉め、洗濯機のコードを抜いた。
「おーい、抜いたかぁー?」
「オッケーよー」
二人のやり取りを聞いてリーちゃんはカミテレコンで3人を呼び戻した。
「ふう、これでひとまず安心だ」
「五重丸君、君は大丈夫なのか? リモコンが壊れたけど」
「ボクは大丈夫です。お父さんすみませんが、落ち着いたら新しいリモコンを買ってくれませんか」
「ああ、分かった」
電源を断ち、レイちゃん達を仮死状態にしたのち、カミテレコンで呼び戻す。五重丸のとっさの判断で何とかピンチは切り抜けたようだ。リモコンは、山に残ってしまったが、五重丸は諦め、リモコンの電波を遮断した。
「やだ、せっかく新品同様になったのに壊れちゃって。お父さん、リモコンもだけど冷蔵庫と洗濯機も買い替えなきゃね」
ずぶ濡れになった服を脱ぎ、バスタオルを巻いて風呂からあがってきたような格好のお母さんがリビングに戻ってきてそう言った。
それを聞いてリーちゃんは慌てて叫んだ。
「ダメよ! 買い替えちゃダメ! レイちゃんがいなくなっちゃうじゃん!」
「そんなこと言ってもさ、こんなにへこんで焦げたの修理できないと思うわよ」
ごもっともである。本体がへこんでしまった冷蔵庫なんて修理できるわけない。それは子供のリーちゃんでも見ただけで分かっていた。分かっていたけどどうしても認められなかった。
せっかくピンチを切り抜けたのに、一難去ってまた一難だ。リーちゃんはとうとう泣き出してしまった。
その時、イスの背もたれに掛けてあったリーちゃんのショルダーバッグの中から声が聞こえた。
「私をここから出して、直してあげるから」




