11、魔法のトリセツ
11、魔法のトリセツ
待っとけと言われたリーちゃんは、暇そうに出入口付近にあるガチャガチャのあたりをウロウロしている。それを横目で気にしながら、神様とレイちゃんの話は続く。
「レイ太よ、お前を創ったのは人間たちだヴェ、我ら神々が創造したものではないヴェ。だから契約が成立した後、どんな魔法が使えるようになるかは我にはわからないヴェ。まあ我も冷蔵庫だから、あらかた察しはつくがのう」
「分からないって、ずいぶん無責任やな。そんなんでちゃんと魔法を使えるようになるんかいな……」
神様のいい加減な言い方に、少々不安がよぎるレイちゃん。でも魔法が使えるってちょっと面白そうだし、今さら「すんまへんけど、遠慮しときますわ、ほなサイナラ」って断るのも、もったいない気もする。とりあえず神様の話に乗ってみることにした。
「分かりました神様。その手伝いとやらやりますわ」
「おお、引き受けてくれるか、ではヨロシクたのむヴェ。じゃあ続きはリーちゃんも一緒に説明せんとのう、おーい、リーちゃーんこっちに来るヴェー」
「え?もう終わり?」
神様はガチャガチャの前にいるリーちゃんを大声で呼び戻した。もちろん心の中の声で。一方、契約の儀式的なものがあるのかと思っていたレイちゃんは、肩透かしを喰らったようにガクッとなりながら神様に訊ねた。
「ちょちょっ、神様、ボクに魔力を授ける話はどうなったの、後回しなん? 何かこう、立膝ついて控えているボクの頭の上に金色の光がパァーッて差し込んで、そんでもってちょっとイケメンになったりして……なんていうのは無いの?」
「イベント? イケメン? 何じゃそれ、そんなモン無いヴェ。さっき言ったヴェ? 我の手伝いを引き受けてくれるなら魔法を使えるようにしてやるって、お前、さっき引き受けるって言ったヴェ? その瞬間に契約は成立したから、もうお前は魔法が使えるようになってるヴェ。このスピード、まさに神技じゃヴェ」
「早っ、さすが神様……は、いいんやけど肝心な魔法の使い方、ボク全然分からないんですけどぉ」
「魔法の使い方? そんなもん簡単だヴェ。あぁ、そうそう、魔法の取扱説明書いわゆる「トリセツ」が付いているはずじゃから、それを読み解けば今日からあなたも魔道士冷蔵庫だヴェ、ヒューヒューだヴェ」
「トリセツ? 自分のトリセツを自分で読むの? なんやそれ、おかしいんちゃう?」
「おのれを知るためにおのれのトリセツをひも解く、何もおかしくないヴェ。それよりイケメンの冷蔵庫って何だヴェ? 冷蔵庫は大体みんなノッペリとした顔で……」
「あれ? どうしたのかしら、ケンカしてるみたいね」
二人が言い合いをしているのを見て、リーちゃんが心配そうな顔をして走って戻ってきた。
「二人ともどうしたの? ケンカしちゃダメよ!」
「おお、リーちゃん、だいじょうぶ大丈夫、ケンカなんかしてないヴェ。そしてレイ太よ、目を閉じて体の中に手を入れてみるヴェ、本のようなものがあるじゃろ?」
神様に言われ、レイちゃんは冷蔵室のドアを開け手を入れてみた。
「あれ? 食べ物しか入ってないで、冷蔵室じゃなくて野菜室の方かな……あ、あった、これかな?」
レイちゃんは野菜室からペラッとした冊子のようなものを取り出した。
表紙には「取扱説明書:魔法編」というタイトルとヘタクソな冷蔵庫のイラストが描いてある。
「それが「トリセツ」というやつじゃ。それに魔法の使い方や注意事項が書いてあるから、ちょっとの間そこに座って自習しとれヴェ。多分5分ほどで読めるヴェ」
レイちゃんはトリセツをペラペラめくり「いきなり自習かよブツブツ……」と、文句を言いながら神様の近くに座り、トリセツを読み始めた。その様子を横で見ていたリーちゃんは羨ましそうな顔で二人に聞いてみた。
「へぇー、レイちゃん魔法が使えるようになったの? すごーい、ねえねえ神様、魔法ってどんなの? 敵をバーンってやっつけたり、トランプの数を当てたり出来るの? いーなぁ、あたしもやりたーい」
どうやらリーちゃんの脳内では、魔法もトランプの手品もごちゃまぜになっているようだ。神様はそれを聞き申し訳なさそうな顔でリーちゃんに言った。
「すまんのう、リーちゃんよ、我は神と言っても所詮家電の神じゃ。人間に魔力を授けることは出来ないのじゃヴェ」
「えー、そうなの? 神様って何でも出来るんじゃないの?」
リーちゃんは、残念そうな顔で首を傾げてそう言った。でも仕方ない、神様と言ってもそれは数えきれないほどの数があらせられ、それぞれに役割、担当する範囲が厳格に決められており、それを超えることは禁じられている。
冷蔵庫の神様リフリージェヒエール。家電の平均寿命をはるかに上回ること約半世紀、人々のために働いてきたことを天の神様に認められ、この辺りの平穏を見守る神という命を受け、人間界の平和を見守り続けている。
とは言え元は人間が創り出した家電製品、なので冷蔵庫側からすれば人間の方が創造主すなわち神のような存在という、ちょっとややこしい関係なので、人間自体に特殊な力を与えたりすることは出来ないのである。
と、その時、横で自習をしていたレイちゃんがゆっくり立ち上がり、右腕をわきに構える様な格好をしながら神様に聞いた。
「神様、大体わかったで。ちょっと試しにやってみていいかな? えーっとこうやってぇ」
それを聞いて神様は慌てて魔法のお試しを制止した。
「あぁーダメダメダメ! ここでやると周りの人がビックリするヴェ、それにお前、今日はもうかなり体力を消耗しているから、今魔法を一回使うだけで即、バタンキューになるヴェ!」
神様があまりにも慌てて止めるものだから、レイちゃんはびっくりしてかまえていた腕を下ろし、神様の方を向いて訊ねた。
「へ? ダメなの? そんでもってバタンキューって何?」
「やれやれ、お前トリセツを最後まで読んでないな、喋り方からして関西人の魂が張り付いているんじゃないかと思っていたらやっぱり……せっかちな奴だヴェ、まったく」




