10、名前
10、名前
椅子の上で体育座りみたいな恰好で膝を抱えているリーちゃんに神様は訊ねた。
「ところでリーちゃんよ、その冷蔵庫に何という名前を付けたヴェ?」
リーちゃんは、レイちゃんの方をチラッと見て笑い、神様にこう言った。
「冷蔵庫で男の子だから『レイ太』だよ。だからレイちゃんって呼んでるんだ。お名前が無いって言うし、可哀そうだからあたしが付けてあげたんだよ」
冷蔵庫だからレイ太……ベタだヴェ。まあ、子供だから仕方がないか、見たところ優しい心を込めて付けてくれたようだしのう、と神様は思った。そしてダークネーム、いわゆる馬鹿にしたような悪い名前を付けられていなかったことにホッとした。
「そうかそうか、優しき心で冷蔵庫に名前を付けてくれたことに感謝するヴェ。しかしレイ太よ、残念じゃったのう、リーちゃんが名前を付ける前に我のもとへ来ていたなら、我はもっと良い名前を用意していたのにヴェ?」
「えっ? そうなの? それってどんな名前?」
レイちゃんも「レイ太」ってベタな名前やな、って思っていたので神様が用意してくれていた名前がちょっと気になった。リーちゃんも同じく神様が考えたステキな名前がとても気になった。その様子を見て神様は、二人に訊ねた。
「フムフム、聞きたいかヴェ? 今さら名前の変更は出来ないのじゃが、ま、参考にまで教えてやるヴェ。我が考えていた其方の名前は……」
リーちゃんとレイちゃんは、身を乗り出しワクワクするような顔をして名前の発表を待った。神様は自慢げに、用意していた名前を二人に告げた。
「ボケナスタ‐ババマミーレじゃ。どうじゃ? いい名前じゃヴェ? 略してボバちゃんだヴェ。ホホッ、我の予定通り事が進んでいたら、これがお前の名前になっておったのに、残念じゃったのうレイちゃんよ」
それを聞いたリーちゃんとレイちゃんは眉をひそめて顔を見合わせ、ひそひそ話はじめた。
「……ボケナスタ?……」
「クソまみーれって……何?」
「違うよレイちゃん、ババマミーレだよ、汚いなぁもう」
「そっかぁババマミーレか、でも、どっちにしてもアレやな、もしリーちゃんがボクに名前を付けてくれる前に、ここに来てたらボクはその名前になってたんかな」
「神様が考えてくれたんだもん、断れないよね」
「ふうー、危なかったぁ、アリガトねリーちゃん神様より先に名前を付けてくれて」
「えへへ、どーいたしまして」
心の中で思うだけで会話することができる神様の前でひそひそ話をしたってムダである。
ということで、そのひそひそ話を、しっかり聞いていた神様は、
「あのぉー、いくら小声で内緒話しても我には全部聞こえているんですけどぉ。全くもう、お前ら、せっかく我が考えた名前をボロカスに……天界では結構、高い位の良い名前なのにヴェ……まあ、いいヴェ、 我は神様。故にちっちゃい事は気にしないヴェ。サッサと契約を済ますヴェ」
「ねぇ神様、けーやく、って何?」
「そうじゃの、お約束みたいな物かの、ただし、これは我とレイ太が交わすお約束だヴェ。リーちゃんはちょっとそこに座って待っていてくれヴェ。ほれ、レイちゃんはこっちに来るヴェ」
神様に呼ばれたレイちゃんは、少し緊張した顔で神様の前へ歩いて行き神様に訊ねた。
「あの、神様、契約って一体何の? ボク契約とかしたこと無いし、よく分からないんやけど。」
「ホホッ、契約と言っても、そんなに難しいものではないヴェ、現に、お前は『契約なんかしたこと無い』と言っておるが、気づかないうちにもうすでに一回契約を済ましているのじゃヴェ」
「えっ、気づかないうちに? なんの契約を?」
レイちゃんには、いつ、何を契約をしたのか全然心当たりはない。腕組みをして考え込むレイちゃんに神様は話を続けた。
「リーちゃんに託したタマシールの魔力で、冷蔵庫のお前は魂を吹き込まれたヴェ。この時点でお前は契約を結ぶ権利を獲得したのだヴェ。お互い命を持ったものでないと契約は結べないからのう。で、命を持ったお前は、リーちゃんと親しき仲、つまり友達になり、『レイ太』という名前を喜んで受け入れたヴェ? これが我ら神々の間では『言霊の契約』と言うヴェ。……なんじゃヴェ、ポカンとした顔をして。やはり、ちと難しいかっかたのう、でも今はとりあえず分かったことにしておいてくれヴェ。ホレ、リーちゃんを見てみぃ、ちょっと退屈してきたみたいだヴェ、サクッと契約を済ますヴェ」
神様にそう言われ、レイちゃんはリーちゃんの方を見てみた。サンダルを片方だけ履いて、ぴょんぴょん飛びながらイスの周りを廻っている。あっ、つまずいた、コケた……。このまま放っておくと待ちくたびれて、おもちゃコーナーとかに行ってしまいそうだ。そしたら探すの大変だし……そう思ってレイちゃんは神様の方を向いて答えた。
「分かりました神様、よく分からんけど、分かりました。で、次の契約ってどんな契約?」
神様は、次の契約について話し始めた。
「よいよい、半分くらいでも分かっておれば、それでよいヴェ。さてと、そこで次の契約の話じゃが、内容を簡単に言えば、リーちゃんと協力し、我の手伝いをしてほしいのじゃ。引き受けてくれるのであれば、お前に魔力を授けてやるヴェ」
「ええっ魔力? 魔法が使えるようになるの、このボクが?」
驚くのも無理はない。つい半年前まではどこにでもある冷蔵庫だったのに魂をもらったおかげで喋れるようになり、人のように行動できるようになり、そして今度は魔法が使えるようになるというのだから。
「い、いったいどんな魔法がつかえるようになるの?」
「ホホッ、それは後のお楽しみじゃヴェ」
驚くレイちゃんに神様は微笑みながらそう言った。




