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婚約解消シリーズ(仮)

計画的な恋愛結婚

作者: あかね

 僕が物心ついた頃には自分の周りにはバカと策略家しかいないと気がついた。

 生まれてこの方、離宮より外に出されたことがない箱入りでも真面目に学んでいれば気がつくこと。


 僕は寵姫から生まれた息子で、本来存在してはいけない者である。その上、王太子となっている。

 本来は、第一妃、もしくは第二妃、第三妃から生まれるであろう子供が王太子を名乗るべきである。

 しかし、第一妃が子を産まず離縁を願っている状況だ。

 なぜって? 僕がいるからだ。

 僕と会って卒倒した彼女はそのまま実家に帰ると言ったのを引き留めた。関係修復中に前王がぽっくりと逝って話は拗れる。


 あの祖父さんが死ぬのかと関係の薄かった僕でも思うくらいだから、国内は大騒ぎになって当然だろう。

 殺して死ぬのかという祖父さんは、食中毒でお亡くなりになったそうだ。

 自分で作っていた葡萄酒が原因なのだから本望だろう。だから、みんなから止められていたのに隠れて作るから失敗してとんでもないことになるんだ。


 即位条件として急遽王太子を指定しなければならなくなった。

 王太子の弟もいるにも関わらず、僕が指名されることになったのはその後生まれた子にその地位を渡しやすいと考えられたからだ。


 王位を手に入れ損ねた王弟、つまり叔父は僕の後見人についた。

 後ろ盾のない王太子など簡単に傀儡に出来ると思っているようだ。


 そんなこんながあって、僕の立太子が終わり、第一妃の離縁が成立しそうな時に懐妊が伝えられた。


 血縁上の母が大層荒れた。


「あんな女よりも愛されているのは私だわ。どのようなひどい手段をとったのかしら。いえ、陛下の子なのかしら」


 息子に聞かせるにも問題がある話だが、通常通りだ。

 王太子になる前から王位に就くのは貴方なの、陛下に愛されているのは私だから、と世迷い言を言っていたくらいだ。

 外では儚げな美女として振る舞っているが、儚げ美女がのうのうと王城に居座るだろうか。


 王はバカなのか第一妃よりも先に学生時代のやんちゃとして母を孕ませた。しかも母は黙って姿を消したという。露見したときはもみ消すには問題があるくらい育った僕がいた。

 見てくれ通りならばそんな間もなくさっさと消されるだろう。

 やつれた風を装っていたが、それなりに元気に働いていたから。

 あの頃は、まだよかった気がする。


「王になるのは貴方よ」


 うふふふ。と楽しそうに笑う。

 悪巧みする顔は僕とそっくりすぎて、げんなりした。この人がバカであったらお話は簡単なのだろうが、自分の息子を立太子までさせる女が普通なわけがない。


 そんな母は。

 喧嘩しすぎて、第二妃とは強敵しんゆうだ。

 第一妃はなにあの体力バカと呆れ半分の尊敬をしているらしい。

 第三妃は入ったばっかりでよくわからないが、どちらがセンスがよいのかとか流行を作れるかとか張り合っているらしい。


 なにかと母の能力が高いのは意外だ。さりげなく僕の教育をしていたり、国内のことも把握している。さらに小さな領地と言えど直接おさめていた。

 己の生活費やら必要経費はここから出しているので、他のものにアレコレ言われる事もない。


 護衛だけは王からつけてもらっているが、これは浮気を疑われたくない乙女心だそうだ。侍女がそれはそれは強いので飾りでしかないと僕は知っている。

 暗殺者をダース単位で伸すのは侍女とは言わないのではないだろうか。

 契約獣の擬人化なんて聞いてない。


 尚、僕の周りのバカとは血縁の男たちで。

 僕はいつかそのバカが感染するのではないかと恐れていたりする。


 婚約者がいてもどこかの女に手出したり、その子を養子に出すでもなく手元に養育したり、がっつり火種を残す。


 そんな息子を窘めるでもなく、甘い顔して許していた先王。


 虎視眈々とのつもりが王位狙っているのがバレバレの叔父。


 妃殿下たちが国を牛耳るわけである。

 新たに生まれるのが妹であることを期待せざろうえない。

 自分も含めて王族の男に信用がおけない。


「別にいらないんだけど」


「んまぁ。付き合いなさいよ」


「貴方は楽しいかもしれないけど、僕はイヤだよ」


「そうねぇ。なら、一つだけ、お願いを聞くわ」


 こうして、僕は荒れる政治の海に放り込まれたのだった。

 血で血を洗う抗争、と言いたいが、後ろ暗いお家を的確に排除していったように思える。第二妃と打ち合わせしてるんじゃないかと思いたくなるほど、手際よくお互いの陣営の問題ある家を排除していく手腕は恐れ入る。


 ほんと、仲良しだな。

 それに巻き込まないでくれ。


 同じように巻き込まれた弟はやや人間不信に育った。根は素直で優しいところは残っていたので、よかった。しかし、バカの兆候が出ていたので、ひっそり矯正しておいた。

 結果、ちょっと歪んだ。


 ……善意が最良とは限らない。すまない。


 そんな弟の婚約者候補にホイホイ会いに行った僕も大変悪かったと思う。

 あれは謎生物過ぎてどきどきしっぱなしだった。

 気がつけばはまっていた。

 大変申し訳ない。


 手遅れなので、王位を放り投げる準備を始めた。

 もしくは弟をどこかへ放り投げる方が良いかも知れない。


 どちらがマシかと言えば、新しい環境で楽しくやった方が良いのではないだろうか。

 どちらにしろ本人の意志はあまり関係ない。


 うちの恐ろしい母と妃殿下たちの気持ちで安易に変わる立場だ。

 対策はいくつも打ち出すに限る。

 そんな小細工をしていたときだった。

 母に呼びつけられたのは。


「……季節にあわないので少々風味が劣るのではないではないでしょうか」


「貴方、なにしてるの?」


 母にご飯のおかずについて不満を述べていたことを中断された。

 ……いや、呼び出されて夕食を付き合えと柔らかく言われた時には気がついていたのだ。

 夕食もおそらく母の手作りであろう。あんまり上手でもおいしくもない。しかし、まずくはないのだ。


「第一妃殿下が、大層怒っていて、第二妃殿下に殴り込みされたんだけど」


 よそ行きの顔ではなく、母の顔をしていた。

 心配とも怒っているともつかない微妙な表情。

 何故に第一妃殿下が殴り込みに来ないかというと、それは王太子に第二王子が抗議する形になるからだろう。

 今は別に仲が悪いわけではないようだが、仮想敵なので仲がよくはない。

 と思っていたけど違ったのだろうか。


「人のものをとるのはやめましょう、とは私の口からは言えないよねぇ」


 そう言って彼女はほおづえをつく。婚約者がいると知っていても真実の愛とやらで色々やった人だからね。

 そして、今でも陛下に執着している。愛情があるのは私だけ、と。

 そこだけなんで色ボケなんだろう。他の妃殿下にも一応子供がいるってことはすることはしていたんだからさ。

 あの禿げオヤジのどこがよいのか。昔は格好良かったとでれでれの顔で語るのはもうやめにしていただきたい。


「まあ、私たちから見てもあの子はダメだったので良いのだけど。せめて断ってから行動して欲しいのよ」


「……妨害するでしょう?」


「そりゃね。形を整えてからやりなさい。正当なやり方で婚約を解消することになったわ。貴方が会っていたこともばれたわ」


「あ」


「……ちゃんと証拠を隠滅しない。人の目につくところでしない。迂闊にもほどがあるわ。なんでこんなところだけ陛下に似て迂闊なのかしら」


 良い子だと思って監視が甘かったのかしら。

 続ける言葉に言葉が詰まる。


「結果、公爵令嬢が割を食うことになったわね。婚約解消するわ。ただ、今後婚約者が見つかるかどうかはわからない。

 レリオ殿下は隣国の姫様と婚姻することになったし、第一妃は激怒して陛下にぶち切れて出て行く宣言。貴方、殺されるわよ?」


 たいへんねぇと興味のない声音が恐い。


「おかげで私が第一妃になるんですって。陛下を愛してるだけで良いふらふらした身分から第一妃ですって」


 ……母が大変お怒りなのがわかった。

 土下座すれば良いのだろうか。


「でも、王妃になりたかったんじゃないの」


 母に鼻で笑われた。

 僕が出来ることは色々迷惑をかけた人たちに誠心誠意謝罪することだけだった。


 その後、第一妃にちょっと刺されたり、土下座した上に頭踏まれた事件もあったが、大旨まとまる方向が決まった。








「まあ、収まるところに収まったんじゃないかなぁ。ねえ、父さん」


 秘密の小部屋での密会は酒樽が転がっていた。

 陛下とはそれなりに仲良しだ。ダメさが可愛いという母の洗脳のせいに違いない。つるっつるの頭も愛でられるとは相当の愛だと思う。

 陛下とは表だっては親子の会話すら難しいので秘密の小部屋で密会だ。


「……私としては息子が恐すぎるんだが」


「ハッピーエンドなんじゃない? 僕がいなくなれば完璧」


 僕がいなければそれなりに賢君って言われていたと思う。僕のことが完全な失態過ぎて他のことが帳消しになっているだけで。


「あ?」


 思ったより低い声だった。

 ガラの悪いチンピラみたいだなぁと思った。

 そうだな、と同意すると思った。いない方が良いと思っていたのは確かだったから。


「弟も妹もいるし、別に問題ないでしょう?」


「あるだろう! きりきり働け」


「陛下もね」


 げんなりした顔をしないの。

 妃殿下たちも母も少しも情もなければここまでしない。補い合ってそれなりにやってきているのだから。

 僕も出来る限り手伝うからさ。

 と思っていたんだ。


 公爵令嬢が好きこのんで修道院送りになることを知るまでは。





「ふぅん? 逃げるの」


 僕は大変うきうきしていた。

 腹の底から笑いがこみ上げてくる。


「本当に面白い」


 目の前の弟が全力で引いていたのは知っている。考慮はしないけど。


「じゃあ、行ってくる」


「あ、まって、待って、ねえ、兄さんーっ!」


 待つかバカ。



 下町で働く娘が、王様に見初められて玉の輿にのるのはちょっと未来の話。


婚約シリーズ最後の話。

思いつきの短編にお付き合いいただきありがとうございます。

ポイント評価やブックマーク等ありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

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